⑧大京の物語 想像の詩人
ひょんなことから クルマを手に入れたヨシくん またまた 悲喜劇に見舞われます ただここではむしろサブタイトルの回収が行なわれていることにご注目 また地の文にも かの有名な楽曲が隠されています
買う気が有ると伝えると老人は握手をしながら盛んにお礼らしき言葉を言っていた。書類とカギを渡されて宿の前に出るとクルマが止まっていた。再びぶるんぶるんと大げさな握手をすると、後ろでにバイバイをして歩き去っていった
。しばらくぼんやりと見送っていたが、我に返って後を追ったが老人の姿は煙のように消えていた。クルマまで戻り、顔をつねる。痛かった。実際夢の中でつねってみたらわかるが痛みは無く、くぬっていう感じでひねる事ができる。だとしたら、今は現実の世界にいる。夕べの事を思い出していた。劇団員で歌い手だと知ると、差し支えがなければ一曲歌ってくれないかと頼んできた。差し支えは大いにあるのだが、迷惑をかけた手前もある。外でならと伝え、宿の下駄をつっかけて外に出る。あまり遠くへはいけない。アブや蚊の心配もある。駅前の材木置場で立ち止まる。何を歌おうか。一節歌い終わった後。老人が涙を流していた。おお、ガール。マドモアゼル。メッシー。いくら自分でもガールの意味くらいはわかる。ノーノーのー、このひともか。自分がイヤなのはよく女性と間違えられる事だった。ボーイ?おお、エクスキューズ盛んに謝ってくれた。カギをヒネってみた。エンジンがかかる。さすが2000GT立ち上がりは順調だった。宿を出るまでは。夕方ガスステーションに立ち寄る。オヤジさんが自分の顔とクルマを交互に眺めながら話しかけてきた。お客さんこれからまだ遠くまで行くんかね。そうだというと、いや。あんちゃん。ソレは無理だべ。クルマの前を指差ししていた。目玉が無かった。ライトが二つとも落としてしまっていたのだ。曲りくねった道。でこぼこ道を振り返る。オヤジさんに修理できるかどうか聞いた。出来るが在庫がない。取り寄せとなるのでいづれにせよ。今日明日中は無理。途方に暮れる。