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09.閃光

 「即答か」

 

 拓真は、苦笑いを浮かべた。

 

 「当たり前だよ。何があるかわかんねえとこに俺一人でいかせるなんてのは、あんたら警察の怠慢以外何ものでもないからな」

 

 「分析通りだな」

 

 「なにっ?」

 

 「お前が3人目とわかった時から、俺達警察は君をマークし始めた。西田をお前のクラスに転入させたのもそのためだ。西田から逐次報告を受けた情報で、お前の人間性や性格分析を行ってきた。それからすると、その返答は想定内なのさ」

 

 「大祐、お前は俺を監視してたのか」

 

 「そうだよ」

 

 「どうりで、俺の家にいつも出入りしてたわけだ・・・」

 

 「わりいな。これも仕事なんでね」

 

 「仕事ね、」

 

 亜錬はうつむき、首を横に振った。

 しばらくして、顔を上げ拓真を見た。

 

 「もう一度言うが、あんたらは俺を利用して楽しようとしてる。俺はそれが許せねえ」

 

 「それは、誤解だ」

 

 「誤解なもんか。記憶消去の電波の対処が思いつかないまま時間だけが過ぎていく。そこに、記憶を消されない奴が現れた。これはチャンスとばかり、もっともらしい作り話しを延々聞かせて、なんとか地下階段に行かせようとしている。違うか?」

 

 「作り話しなんかじゃないわ!」

 

 舞は身を乗り出して、亜錬に訴えた。

 

 「信じて、全て本当の事よ!」

 

 「亜錬、整形して高校生だと偽っていた事は謝罪しよう。だがこれも、警察内部でどうやったら君に自然に近づけるかを議論した上での決定だ。あと、監視と言えば聞こえが悪いが、ある意味保護だ。お前に何かあったら、日本は終わるからな。それに、自分の顔を変えるってのは簡単な話じゃないぞ、相当覚悟のいることだ。そこはわかってほしい」

 

 亜錬は顔を上げずに、下を向いたままだ。

 

 「それでも、あんたらに対する信頼は揺らいでるよ」

 

 「・・・そうか、わかった」

 

 拓真は立ち上がり、テーブルにあった契約書を手に取ると、ビリビリと破いた。

 

 「ちょっと、拓真!何するのよ」

 

 「亜錬は俺達を疑っているんだ。俺達は誠意を見せる必要がある。こんな紙きれがあるから、疑われるんだよ」

 

 拓真は破いた紙きれを、空中に放り投げた。

 細かく砕けた契約書は、ヒラヒラと空中を舞いながらテーブルやコンクリートの床に落ちた。

 

 「さっき言いかけた過去に戻る話しだが、タイムマシンは実在するよ」

 

 「まだそんなこと言うのか、あるわけねえだろ」

 

 「ここは政府が建てた秘密のビルで、タイムマシンの研究所だ。場所は、東京湾に近いドリームアイランド。この地下には4機のマシンがある。お前には実際にそれを見てもらおう」

 

 「本気で言ってるのか?」

 

 「ああ、本気さ」

 

 「じゃ聞くが、政府が国民に黙ってタイムマシンを造ってたのか?」

 

 「その通り」

 

 「あーあ、ついに国家のトップシークレットを言っちゃった」

 

 「俺達を信用してもらうためだ。責任は全て俺が取る」

 

 舞は、大きくため息をついた。

 

 「何のために造ってんだ?」

 

 「・・・太平洋戦争のやり直しだ」

 

 舞は、思わずええっ!と声を出し口に手を当てた。

 大祐は大きく目を見開いたまま、微動だにしなかった。

 

 「ほっ、本当なの?あたしは、歴史研究のためだって聞いてたけど・・・」

 

 「たっ、田所さん・・・太平洋戦争のやり直しって・・・それ本当ですか」

 

 「本当さ。日本は戦後急成長をとげたとよく言われているが、それはアメリカが都合よくするために、そう仕向けただけのことで、全てはアメリカの手の中だ」

 

 「えっ、そうなんですか?」

 

 「今のこの繁栄も、アメリカの想定内ってこと?」

 

 「日本は今でも英語を話せないだろ?これは世界的に見てもおかしなことで、発展途上国や最貧国と言われている国でも、普通に英語を話せてる」

 

 「それもアメリカが、そう仕向けたってことですか?」

 

 「そうだ、世界に通用させないためにな。そして、日本の航空機産業もアメリカが潰した。日本は今でも旅客機を一機も作れない。失われた10年もアメリカの仕業だ。戦後以降の日本はアメリカの手の中にあり、それは今後も永遠に続くのさ」

 

 「・・・日本はアメリカに支配されてるってことかしら」

 

 「その通り。原爆を2個も落とされても、笑顔で大統領と握手しているのが許せない人達が、表には見えないが裏にはいるんだよ」

 

 拓真の衝撃発言で、場はまた静かになった。

 亜錬は小さくため息をついて、口を開いた。

 

 「やり直すって、どうやるんだよ」

 

 「具体的にはわからないが、過去に戻り日本が歩んだ道とは異なる道を探すらしい」

 

 「歴史を変えるってことか」

 

 「まあそうだが、俺のカンでは実現度は極めて低そうだ。今でも過去に戻れる年数が10年が限度だからな」

 

 「10年?たった10年じゃ、昭和にはほど遠いな」

 

 「技術体系は完成しているらしいが、年数を15年、20年と伸ばすのは至難の業のようだ。まあ、きっとどこかで諦めると思うよ」

 

 「もしかして、未来へも行けたりするのか?」

 

 「それは無理だ」

 

 「なぜだ?タイムマシンじゃないのか?」

 

 「過去は実際に出来事が起きたという事実があるが、未来には事実が無い。無いところへは行くことは出来ないのさ。あと、過去が複数存在するという概念もあるが、それはSFの世界で実際には過去は1つしかない」

 

 「タイムマシンで過去にいけば、俺が2人存在することになるぞ。それは過去の事実じゃないよな?」

 

 「宇宙の法則みたいなものがあって、過去の事実ではない方は消されることになる。お前が2人いたという事実は過去には無いから、今お前が過去に行けばお前は消える」

 

 「じゃ、どうすんだよ」

 

 「この難問をクリアしたのが、殺された男が残した記憶消去のメカニズムだよ」

 

 「記憶消去・・・ん、もしかして、記憶だけを入れ替える、ってことか?」

 

 「大正解。お前にしては鋭い洞察力だな」

 

 「悪かったな、バカで」

 

 「男が残した記憶消去のメカニズムは、記憶を消すことじゃなく、記憶された領域を記憶してない状態に置換する仕組みだった」

 

 「それって、何も覚えてない状態に戻すってことね」

 

 「そうだ。パソコンで言うところの初期化ってやつだ。この脳へのリライト技術と過去に戻る装置を組み合わせることによって、過去の自分の脳に今の記憶を全て置き換える技術が完成したんだよ」

 

 「日本政府って大丈夫か?なんか、危ない集団のような気がしてきたぜ」

 

 「政府の活動で国民に周知されているのは、氷山の一角さ。裏で活動していることの殆どは、国民には知らされてない」

 

 「そのタイムマシン、本当に大丈夫なんだろうな?」

 

 「疑似モデルでの実証実験はやっているが・・・」

 

 「やってるが、なんだよ」

 

 「本体での実施例は、まだ無い」

 

 亜錬は大きく息を吐いた。

 拓真が破いた紙の切れ端が宙に浮き、床に舞い落ちた。

 

 「ふざけんなよ。成功例の無いものをやろうってのか?それなら、まずあんたらで実験してくれよ」

 

 「そうしたいところだが、タイムマシンの装置は使い切りだ。2回、3回と使えない。同じ装置を作るには、確実に3年はかかる。3年経てば、消失の被害は取り返しがつかない程広がるだろう。亜錬、俺達にはテストしてる時間が無いんだよ」

 

 拓真の言葉に、また沈黙する時間が訪れたが、少しして舞が静寂を破った。

 

 「10年前かぁー、あたしは17歳のバリバリの女子高生だなー、」

 

 「舞さん、バリバリってどういう意味です?」

 

 「バリバリは、バリバリよ」

 

 「そっ、そうっすよね。なんとなく想像がつきました」

 

 「どんな想像よ!」

 

 「10年前と言えば、亜錬、お前は7歳、いや6歳か?」

 

 「だったら、幼稚園じゃない?見たかったなー、6歳の亜錬君」

 

 舞は、ニコニコしながら亜錬を見た。

 

 「なにが見たかったなーだよ。俺は幼稚園から塾に行かされて・・・」

  

 その時、亜錬の頭の中で稲妻のような閃光が走った。

 亜錬の動きが止まった。

 

 「ん、どうした亜錬」

 

 亜錬は返事をしなかった。

 大祐は、亜錬の肩を揺らした。

 

 「おい、亜錬、何ボーっとしてんだよ」

 

 亜錬はゆっくりと目線を上げ、真剣な表情で拓真を見た。

 

 「行くよ、俺。過去に」

 

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