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07.扉

 亜錬は小さく息を吐き、両手を広げて言った。

 

 「そんな回りくどい事しないで、富士見丘の一面雑草の野原って場所わかってるなら、そこを調べたらどうなんだ?」

 

 「回りくどいって何よ!」

 

 舞はテーブルをバンと叩いた!

 

 「あんたね、あたし達がどれだけ苦労してるかわかってんの!」

 

 拓真は立ったまま腕を伸ばし、舞を制した。

 舞に噛みつかれたが、今回は亜錬が冷静だった。

 

 「もちろん調べたさ、重機を使ってね。野原一帯を地下10メートルまで掘ったよ」

 

 「んで、結果は?」

 

 「何も無し」

 

 「無駄骨か、ご苦労なこった」

 

 「高性能の超音波金属探知機も使ったが、反応は無かった」

 

 「もしかして、他の場所じゃないのか?」

 

 「その可能性は否定出来ないが、そこら一帯を掘り返す訳にもいかないしな」

 

 「まあ、そりゃそうだ」

 

 「だが亜錬、我々は見つけたんだよ。執念の捜査でね」

 

 「見つけた?何を?」

 

 「掘った場所から、300メートル程離れた所にある廃工場。そこにある地下に伸びる階段さ。奴らのベースへの入り口という確証は無いが、金属の扉があり暗証番号のロックがかけてあった」

 

 「廃工場なのにロックされた扉って、変だな」

 

 「だろ。専門のチームがロック解除してドアを開けると、コンクリートの階段が地下へ伸びていた。フラッシュライトで照らしても先が見えないくらいの深さだ。これはかなり怪しい」

 

 「なるほど、」

 

 「まあ、うかつに手出し出来ないので、捜査班は特殊部隊を呼んだ」

 

 拓真の続く話しで、亜錬の顔には少し疲労の色が見えてきた。

 

 「少し休憩するか?」

 

 「いや、気にすんなよ。続けてくれ」

 

 拓真は、椅子に座った。

 

 「特殊部隊は要請から20分で現着した。班長以下10名で構成されたチームだ。

  班長は潜入隊5名を選出し、残りは入り口付近で待機の指示をだした。5名は手にサブマシンガンを持ち、階段を降りて行った。酷いノイズだったが、無線はなんとか聞こえたようだ。

  潜入から8分経過したとき、『前方に金属の扉が見えます』というリーダーの声がスピーカーから聞こえた。班長は、慎重に進めとの指示を出した。

  異変は、その後起こった」

  

 「異変?」

 

 「スピーカーから、『ここはどこだ』、「お前は誰だ』、『俺はなぜこんな所にいるんだ』、と聞こえた」

 

 「・・・そっ、それって・・・まさか、」

 

 「そう。消されたんだよ、記憶を」

 

 「うそだろ、」

 

 「その後、通信は途絶えた。サブマシンガンの銃声と悲鳴を残してね」

 

 「・・・殺し合い、したのか」

 

 「お互い誰なのか、なぜ真っ暗で狭い階段に自分はいるのか。全ての事が一気にわからなくなると人は瞬間的にパニックになる。そして目の前にいる相手は、手にサブマシンガンを持ってる・・・もうこうなれば、生存本能で撃ち合うしかない」

 

 亜錬は、うつむき目を閉じた。

 

 「無線が途絶えた直後、班長は単身階段を降りて行ったが、20分程でフラフラしながら戻ってきた。そして、『俺は誰だ・・・ここは、どこなんだ・・・』と言ったらしい」

 

 拓真のその言葉の後、4人はしばらく会話をしなくなった。

 舞は立ち上がり、空いたコーヒーカップをトレイにのせ扉に消えた。

 

 

 「亜錬、」

 

 「なんだ、」

 

 「俺はこう考えている。地下階段の記憶を消すものと、人が消失し関係者の記憶が消えるのは、別の仕組みなんじゃないかってね」

 

 「別の仕組み?」

 

 「人を消失させるテクノロジーがあるんだ。記憶を消すなんて回りくどい事しないで、侵入者を消せばいいじゃないか」

 

 「・・・確かに、そうだな」

 

 「それが出来ない理由がある」

 

 「分かってるのか?その理由」

 

 「電波障害の一件、始まったのが去年の8月10日だって言ったのを覚えてるか?」

 

 「ああ、」

 

 「科学者5人が死んでいたのが、去年の8月9日。死亡推定時刻が、その日の朝4時から6時の間なので9日に殺されてるのは間違いない」

 

 「電波障害と1日の差があるな」

 

 「俺のカンだが、妨害電波は地下階段の記憶消去の仕組みに必要なものなんじゃないかと考えている」

 

 「本当か?」

 

 「1日の差は装置の稼働に要した時間か、もしくはわざと1日ずらしたか」

 

 「その妨害電波じゃ人を消せないってことか?」

 

 「人の消失は都内が大半だが、おそらく日本全体で起きている。つまり日本全域をカバーしている目に見えないものが、人や記憶の消失テクノロジーの根幹になってる可能性が高い」

 

 「日本全体をカバーして、目に見えないもの・・・」

 

 「それはズバリ携帯の電波、つまり移動通信システムだ。おそらく、そのどこかの周波数帯を勝手に使ってる。地下階段は、深過ぎてその周波数を使えなかった。だから無理やり電波を発し、その電波で記憶だけを消すことにした」

 

 「・・・なるほど、」

 

 「そして、宇宙人の奴らは科学者5人を殺害した後、プログラマの男を残してどこかへ行ったんじゃないかと思う」

 

 「どこかって、どこだよ」

 

 「それはわからない。次の目的のために移動したか、あるいは宇宙船で引き上げたか」

 

 「っていうか待てよ、奴らは日本人を捕食するのが目的なんだろ?なんで人を消す必要があんだよ、おかしいじゃねえか」

 

 「亜錬、」

 

 今まで黙っていた大祐が口を開けた。

 

 「なんだよ、」

 

 「国会での宇宙人のメッセージ、こう言ってただろ。『今は200万』、そして『未来への通告』」

 

 「今は200万、未来への通告・・・未来・・・捕食は未来に行われる?」

 

 大祐は頷いた。

 

 「つまり今奴らの捕食対象は、日本人全体の2%しかいないってことだよ」

 

 「まさか、その数を増やすってのか!?」

 

 拓真が身を乗り出して、亜錬と大祐の話しに割り込んできた。

 

 「おそらく特定のDNAパターンが奴らの捕食対象なんだろ。それ以外のDNAパターンを持つ日本人を減らしてるってことだ。そして今2%しかない比率を未来に高めた上で、捕食するつもりだろう」

 

 その時、亜錬の脳裏に霧のように消えた矢沢の姿が浮かんだ。

 思わず亜錬は、テーブルを壊す勢いでドンと叩いた。

 

 「ふざけやがって、くそ野郎め!てめえらが捕食できない日本人を消してるってことか!まじで許せねえ!」

 

 「だから亜錬、俺達は何としてもデリーターを止める必要がある」

 

 「そんなことわかってんだよ!だけど、どうやって止めんだ」


 3人は一斉に亜錬を見た。

 

 「えっ?、俺?・・・あっ、ああー、もしかして、俺は記憶が消されないからか!おっ、おい、ちょっとまじかよ、」

 

 拓真は腕を伸ばし、亜錬の肩をポンと叩いた。

  

 「心配すんな。いくら記憶の消去を受けないからって、民間人のお前を警察のミッションに参加させるわけないよ。そんなこと世間に知れたら大問題だ」

 

 ふうーっと息を吐き、亜錬は胸をなでおろした。

 

 「だが、」

 

 「おっ、おい・・・なんか変なこと考えてるんじゃねえだろな」

 

 「さっき言った8月9日、この日だけは記憶消去の装置は稼働していない。つまり、記憶を消されずに地下に潜入できるってことだ。そして、おそらく宇宙人もいないはずだ」

 

 「待てよ、それはあんたのカンだろ?」

 

 「もはやカンに頼らなきゃいけないほど、警察は追い詰められているのさ」

 

 「ちょっと落ち着けよ。8月9日って去年の話だぜ。過去だよ、過去。どうやって行くんだよ、無理に決まってんだろ」

 

 拓真は立ち上がり、亜錬を直視して言った。

 

 「その過去に行けるとしたら、どうする?」

 

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