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05.衝撃

 次の日の朝、亜錬はクラスメートの消失を目撃した商店街を学校に向け歩いてた。朝は多くの店が、まだシャッターを降ろしている。五月の晴れた青空は、どこまでも高く広がっていた。

  

 ふと前を見ると、大祐が街路樹にもたれて空を見ていた。

 

 「大祐、」

 

 「亜錬、悪いけどちょっと付き合ってくんねえか」

 

 「今からか?」

 

 「ああ、そうだ」

 

 二人は歩きながら会話した。

 

 「学校どうすんだよ」

 

 「昨日1-Aの机が1つ消えたって言ってたよな」

 

 「・・・言ったけど、」

 

 「俺にはわかんねえけど、それはつまり、生徒が一人消えちまったってことじゃねえのか?」

 

 「お前、自分の記憶より俺を信じるってのか?」

 

 「親友だろ?俺達」

 

 「だったら、今日はもうひとつ消えてるかもよ。まあ、それも誰にもわかんねえか、」

 

 亜錬がため息をついたところで、大祐は立ち止まった。

 

 「そのことで話しがあんだよ」

 

 「学校に着いてからじゃダメなのか?」

 

 「生徒が消えてるんだろ?学校なんか行ってる場合か?」

 

 「そんな事言われても、俺に何が出来るってんだよ」

 

 「まあ、いいから。とにかく俺に着いてきてくれ」

 

 「お、おい、」

 

 大祐は強引に亜錬の腕を引っ張り、商店街通りの横道を抜けて、ビルとビルの間の隙間に入った。

 

 「お前が、北川亜錬か」

 

 そこには、同じ学校の制服を着た男と女がいた。

 

 「あっ、お前は昨日の、」

 

 「そうよ、正門前で暴れてた亜錬君」

 

 銀縁のメガネをかけた男の方は、亜錬に近づき手を伸ばしてきた。

 

 「俺は、田所拓真。コンピュータ部の部長だ」

 

 「あたしは朝比奈舞、拓真とは友達なの」

 

 拓真は、手を出しても握手しない亜錬の手を無理やり握った。

 

 「話しは西田から聞いたよ。昨日、1-Aの机が減ってるって騒いだそうだな」

 

 「大祐、お前何喋ってんだよ」

 

 「ここにいる俺達にとって重要なことだからさ」

 

 「俺達?」

 

 「亜錬、今から言う事は、こんな所で言う話しじゃないんでね。場所を変えさせてもらうよ」

 

 拓真は、急に大人びた話し方になった。

 薄暗いビルの隙間を、商店街通りとは反対側に出た。通りにでると、すぐに黒塗りのバンがタイヤを鳴らして止まった。

 

 「さあ亜錬、この車に乗ってくれ」

 

 亜錬は、持っている竹刀に手が伸びた。

 

 「お前ら、俺をどこに連れてくつもりだ」

 

 「落ち着けよ、誘拐とか拉致とかそんなんじゃない。第一、そんな事しても俺達に何のメリットもないだろ?」

 

 「亜錬、心配すんなよ。俺もいっしょに乗るから」

 

 大祐は亜錬の腕をつかもうとしたが、亜錬は素早い動きでかわし、竹刀を持った。

 

 「大祐、お前なにたくらんでやが」

 

 ドスッ!

 

 「ぐはっ!」

 

 一瞬の隙をつかれ、亜錬は溝落ちに舞の一撃をくらった。まるで、亜錬の動きを予測してたようなパンチだ。

 亜錬は腹に手をあて、地面にうずくまった。

 

 「ごめんね。こうでもしないと君、乗ってくれそうになかったから」

 

 亜錬は大祐にかつがれ、黒塗りのバンに乗せられた。

 そして、シートベルトで固定された。

 腹の痛みが全身に伝わり、痺れたように動けなかった。

 

 「念のために手錠させてもらうよ」

 

 拓真は、大祐を見て顎をクイっと上げた。大祐は、持っていた手錠を亜錬の両腕にかけた。

 

 「だっ、大祐・・・てめえ・・・」

 

 痛みに悶えながらも、亜錬は大祐をにらんだ。

 

 「わりいな。お前が素直に乗ってくれりゃ、こんな手荒なマネしなくて済んだんだよ」

 

 車は3列シートで、運転席の後ろは迎え合わせになっていた。

 亜錬は最後部に座らされ、横に大祐、亜錬の前には拓真、その横に舞が座った。

 

 車は町中を走り、高速道路に入った。

 

 「そろそろ落ち着いてきたか?」

 

 大祐は、亜錬の手錠を外した。

 亜錬の顔は、まだ少し続く腹の痛みでゆがんでいる。

 拓真はメガネを外して胸ポケットに入れ、亜錬を見て言った。

 

 「舞は合気道道場の一人娘で、腕は師範代だ。相手が悪かったな」

 

 「俺をこんな目に合わやがって、一体どういうつもりだ」

 

 「順を追って話そう。まず、俺、舞、そして西田大祐は高校生ではない」

 

 「なにっ?」

 

 「俺は26歳、舞は27歳、そして西田は24歳だ」

 

 「ちょっと拓真、あたしの年齢ばらすの止めてくんない?」

 

 「だけど、どうみても社会人には見えないぜ」

 

 「フフフ、そうだろ」

 

 「整形したのよ」

 

 「整形?」

 

 「どこから見ても高校生だろ?」

 

 「あたしは大満足よ!若返るの、ちょーうれしい!」

 

 「亜錬、俺達は警察庁直属の秘密特別調査機関、通称シスのメンバーだ」

 

 「シス?・・・」

 

 「君が昨日主張した机の消失、あれは君が正しいんだよ」

 

 拓真は笑みを浮かべ、亜錬を見ていた。

 

 「だけど、クラスの誰も信じてくれないどころか、先生のタブレットも一人消されてた。状況的に、どう見えても俺がボケてるとしか思えないけどな、」

 

 「それは、そうなるように仕組まれているからさ」

 

 「仕組まれてる?誰に?」

 

 「去年からSNS界隈で話題になっているオカルト現象、君も知っているだろ?」

 

 「知ってるけど・・・、まさか、俺達の学校にも起きたってことか」

 

 「そう、起きたのさ」

 

 舞は座席に置いてあったタブレットを取り、電源を入れた。

 

 「このグラフは、SNSでの一連のオカルト現象の発生件数をグラフ化したものよ。最初に発生したのが昨年の8月下旬で、それ以降毎日のように発生しているわ。特に年が変わってから増え方が顕著ね」

 

 スワイプすると、オカルトの書き込み内容が整理されていた。教室で突然机が消えるというものもあった。

 

 「教室に突然穴が開いたように机が消えたら話題になるわよね」

 

 舞は、亜錬にタブレットを渡した。

 

 「このオカルト現象が只事では無いと考えた我々は、各役所にある地区別の住民合計人数と改めて行った戸別訪問の集計結果を照らし合わせてみた。その結果、都内全域で人の異常な減り方を認めた」

 

 「都内全域って・・・」

 

 「事件でも事故でも病気でもないし、誘拐でもない。まれに、誰にも気付かれずに殺されているってのはあるけど、滅多にない話しだ。それらとは明らかに異なる人の減り方だ。それも、」

 

 「それも、なんだよ」

 

 「おそらく消失しているのは、大半が10代から20代の若い世代だ。更に調査で分かったことは、その人に関する記憶やその人が所有する物、或いは関連するデジタルデータなども同時に消えているということ。まるで、その人が存在しなかったようにな」

 

 「・・・」

 

 「その人が消え、その人に関する記憶や物も同時に消えるとなると、いなくなっても誰も不思議に思わないっていうメカニズムさ」

 

 亜錬は言葉を失った。

 

 「だが、それも限界があるようだ。消失した人物の机は消えるが、残った机の配置を変えるといった様な事はできない。それに記憶を完璧に制御できるのなら、そもそもオカルト現象って事も起こらないはずだ」

 

 「・・・だけど、人を消したり、記憶や物を消したり・・普通じゃないだろ、こんなの」

 

 「だが、現実に起きているんだよ。それは君が一番理解してるはずだろ?」

 

 「現実に起きてるなら、どうして警察は世間に公表しないんだよ!」

 

 「そんな事してみろ、大パニックになるぞ」

 

 拓真にそう言われて、亜錬は反論出来なかった。

 黙り込む亜錬に、舞は足を組み直して言った。

 

 「だからそうならないように、警察は人が消失する件の書き込みと思われるものを、こっそりSNSから削除しているのよ」

 

 「そんな事したって、なんの解決にもなんないけどな。結局、警察が乗り出しても何も出来ないってことか・・・」

 

 亜錬は小さくため息をついたが、ある事に気がついた。

 

 「あれ、じゃあ俺の記憶は消せなかった・・・ということ・・・か?」

 

 拓真はニンマリと笑みを浮かべた。

 

 「その通り」

 

 拓真を身を乗り出して、亜錬の両肩をつかんだ。

 

 「クラス全員の記憶が消されたのに、君だけは消されなかった」


 「俺だけ・・・」


 「そうだ。つまり、君は記憶削除の干渉を受けない、特別な存在なんだよ」

 

 拓真の横から身を乗り出して、舞は亜錬からタブレットを強引に取り上げた。

 

 「私達警察が何もしてないわけじゃないの。シロートさんにはわかんないと思うけど、こんな大規模広域事件な場合、まずしっかりとした調査が必要よ」

 

 「シロートで悪かったな、」

 

 亜錬は舞をにらんだが、舞は不敵な笑みを浮かべた。

 

 「だけどね、亜錬君。私達警察は、一連の人物消失事件の犯人を既に特定できているわよ」

 

 「なんだって!?」

 

 「亜錬、正確には人間ではない」

 

 「人間じゃない?じゃ、何なんだよ、」

 

 「宇宙人だ」

 

 「はぁーっ?」

 

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