表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

16.カエルラ・カエルム

 3人は現場で簡単な事情聴取を終え、富士見丘駅で上り電車を待っていた。

 

 「田所さん、もしもですけど、日本の政府が2台目のフリードを作ったらどうします?」

 

 「それは無理だ」

 

 「えっ、無理?作れないってことですか?」

 

 「お前は、別のスーパーコンピューターを用意すれば可能だと思ってるかも知れないが、重要な事を忘れてるぞ」

 

 「重要な事?」

 

 「DNAデータベースは、まだ地下のスーパーコンピューターが握ったままだ」

 

 「それって、どういうことです?」

 

 「DNAデータベースは、各都道府県の役所にあるコンピューターと密接に絡んでいる。別のフリードを作ることは、別のDNAデータベースを用意することと同義。それには、日本全国でコンピューターを捨てて紙の運用に戻し、そこから新たなコンピューターシステムを構築する必要がある。役所だけでなく民間企業も絡んでいるから、その影響は計り知れない」

 

 「なるほどー、」

 

 「コンピューターの無い世界に無理やり戻したら、どうなるか」

 

 「日本は大混乱ですね」

 

 「つまり、事実上不可能。2台目のフリードを作ることは無理ってわけだ」

 

 大祐が深く頷いたところで、上り電車のアナウンスが流れた。

 

 「ねえ拓真、私達の本国からデリーターが来るのって、いつ?」

 

 「30年後だ」


 「あら、随分先ね」

 

 「この星は辺境探索で、たまたま見つかった想定外の星だからな。本国も後回しにしてるんだろ」

 

 「そっかー、」

 

 「デリーターが到着するまで、新たなフリードのマスターになれる人間が出ないか。その監視を続けるのが、俺達の今後の任務になる」

 

 「この国は生まれると、すぐDNAも登録してくれるから監視も楽ですよね」

 

 「全くだ」

 

 3人は人目をはばかることなく、大声で笑った。

 チャイム音と共に、電車接近のアナウンスが流れた。

 

 「しかし、よくフリードなんて我らの邪魔をするシステムを作れたもんですねー。敵ながら感心しますよ」

 

 「実は、そこが最後まで謎のままなんだ」

 

 拓真は、メガネをクイっと指で上げた。

 

 「この国のレベルでは、フリードを作れても設計は出来ない。ゆえに、どこかからデザイン提供があったはずなんだが・・・」

 

 「それって、分からなかったの?」

 

 拓真は首を横に振った。

 

 「政府関係の電子メールやグループアプリを隅から隅まで調べたが、発見出来なかった。絶対あるはずなんだがな、」

 

 「田所さんが探しても見つからないってことは、やっぱり無いんじゃないですか?」

 

 「いや、絶対ある。どう見積もっても、この国のテクノロジーじゃ、フリードは作れない」

 

 舞の髪を揺らしながら、電車がホームに入ってきた。

 

 「あと、政府がマスターになぜ亜錬を選んだのか。不作為なのか、意図的なのか。ここも謎だ」

 

 「剣道の腕が立つ以外は、これといって特徴の無い奴ですけどね」

 

 「今の総理が、剣道好きって聞いたことあるわよ」

 

 「それだと、この国の未来を背負うには、あまりにも短絡過ぎないか?」

 

 「誰でもよかったんじゃない?」

 

 「かもな。でも、まあいいさ。フリードは止まったし、今後マスターになれる奴は、現れ次第抹殺する。フリードが目覚めることは、二度とない」

 

 「ですよね!」


 「青森のジジイと熊本のガキは、政府の奴らが気づく前に適当に殺せばいい」


 「で、残るは、」


 舞はニヤリとしながら拓真の顔を見た。

 

 「後は最後の仕上げで、奴の妹を殺すのみだ。わずかな可能性も排除するためにな」

 

 

 

 

 線香の香の中、僧侶の読経が暗闇の夜に流れていた。

 白いユリと菊に囲まれた写真は、二枚並んでいた。

 亜錬の父と母は、ただ座っているだけの放心状態だった。

 

 「亜錬君、警察に撃たれたそうよ。なんでも警官の拳銃を奪ったとかで、撃ち合いになったみたい」

 

 「恐ろしいわねー。でも、絶対そんな事する子じゃないのに」

 

 「一体何があったんだか・・」

 

 「埼玉の潰れた工場で撃たれたらしいけど、どうしてそんな所に行ったのかね」

 

 「でも、玲奈ちゃんは、どうして亡くなったの?」

 

 「お兄ちゃんが拳銃で撃たれて死んだって聞いて、その場で倒れたそうよ。すぐ救急車で運ばれたけど・・・間に合わなかったの」

 

 「玲奈ちゃん・・・もともと・・・心臓が弱かったから・・・」

 

 「よほどショックだったんだろうね」

 

 「二人とも・・・まだ・・・子供なのにね・・・」

 

 通夜の公民館の入り口で立ち話をしていたおばさん達は、ハンカチで涙を拭いていた。

 焼香を済ませた玲奈の担任は突然の悲報に泣き崩れ、近くの男性に抱えられるようにしてその場を後にした。

 

 大祐は、通夜が営まれている公民館の横の公園から拓真に電話した。

 

 「もしもし、田所さん」

 

 「どうした、何かあったのか?」

 

 「それが、大変な事になってます」

 

 「大変な事?」

 

 「亜錬の妹も死んじゃったみたいです」

 

 「なんだと!」

 

 「亜錬の死を聞いたショックで倒れて、そのまま死んだようです」

 

 「本当か、それは」

 

 「ええ。二人合同の通夜になってますよ」

 

 拓真は少し考えた。

 

 「田所さん、これは殺す手間が省けましたね」

 

 「西田、お前はそこでもう少し情報を探ってくれ」

 

 「わかりました」

 

 拓真は電話を切った。

 

 「舞、亜錬の妹がショックで死んだそうだ」

 

 「ええ、本当!?ラッキーじゃない、殺す手間が省けたわ」

 

 拓真は腕組みをしながら、大きな窓から夜のオフィス街を見た。

 

 「どうしたの?嬉しそうじゃないわね」

 

 「なにか引っかかるな。二人とも同じ日に死ぬなんて、ちょっと出来すぎじゃないか?」

 

 「心臓弱かったんでしょ?お兄ちゃんが拳銃で撃たれて死んだっていきなり聞けば、そうなっても不思議じゃないわよ」

 

 「それは、そうだが・・・」

 

 拓真は、クルリと後ろにいる舞の方を向いた。

 

 「舞、告別式にはお前も出てくれ」

 

 「いいけど、何かするの?」

 

 「亜錬の妹が本当に死んでいるのか、死体を確認してほしい」

 

 「ええ?まさか、」

 

 「頼んだぞ」

 

 「用心深いわね」

 

 「念のためさ」

 

 舞は、窓辺の拓真に近づいた。

 

 「ねえ、ちょっと気になってたんだけど、もしかしてあいつ、最初から自分が殺されることを知ってたんじゃないかな、」

 

 「どうした、なぜそう思う?」

 

 「拓真に撃たれる間際のあいつ、なんとなく笑ってたような気がしたの」

 

 「俺は正面から奴を見ていたが、そんな事ないと思うぞ」

 

 「顔じゃなくて、心のどこかで私達を笑ってたような・・・あの時、なんかそんな気がした」

 

 「考え過ぎだろ。それに、殺されると気付いたら駅には来ないさ。どこかへ逃げるのが普通だろ?」

 

 「・・・そうね」

 

 

 次の日の午前、同じ公民館で告別式は行われた。

 参列した舞は、最後のお別れの時に玲奈の棺に花を入れると同時に、遺体の首の脈を確認した。

 すぐ公民館を後にし、近くの交差点で拓真に電話した。

 

 「どうだった?」

 

 「脈はなし。肌も冷たかったし、首に触れても反射反応がない。間違いなく死んでるわ」

 

 「わかった。事務所に戻ってくれ」

 

 「りょーかい」

 

 拓真は電話切ると、すぐ大祐にかけた。

 

 「西田、俺だ」

 

 「あ、はい、田所さん、なんでしょう」

 

 「お前、まだ告別式の会場にいるな?」

 

 「はい、まだいます」

 

 「どうにかして、火葬場行きのバスに乗れ。そして、奴の妹の骨を確認するんだ」

 

 「えっ、そこまでします?」

 

 「念のためだよ」

 

 「・・・はぁ、わかりました」

 

 北川家の親族の男に上手く取り入った大祐は、火葬場行のマイクロバスに乗った。

 火葬場でバスを降りた大祐は、自販機で缶コーヒーを買い、駐車場から火葬場の煙突を眺めていた。

 しばらくして、煙突から煙が上がった。

 

 「ついに、あいつも煙になったか」

 

 親族が静かに骨上げをする中、大祐が後ろから見た2つのそれには、骨と灰しかなかった。

 大祐は電話をかけた。

 

 「あ、田所さん、間違いなく二人とも骨になりましたよ」

 

 「そうか、ご苦労。事務所に戻ってくれ」

 

 「これで我々の作戦も、やっと終わりましたね」

 

 「ああ。奴の妹の死は想定外だったが、後はシナリオ通りだった」

 

 「残るは監視任務だけか。楽な仕事だけど、早く本来の姿に戻りたいですよ」

 

 「そう言うな。利用できるうちは、利用させてもらうさ。ゆっくり人間ライフを楽しめばいいんだよ」

 

 「まあ、そうですよね。これで、この地球とかいう星も、我々の食糧庫になりましたし」

 

 「本国からのデリーターは、800年かけて我々が捕食可能な種類を、この星の全人口の90%まで増やす計画らしいぞ」

 

 「あー、じゃ、ほとんど捕食できる日本人にするってことですね」

 

 「そうだ。食えない人間は、どんどん消していく。デリーターと共にやってくる本国からの第2チームは、日本政府を乗っ取り世界戦争を起こす計画らしい」

 

 「800年後が楽しみですね」

 

 「今日は3人で祝杯をあげよう」

 

 「おお、いいですね!それじゃ、これから戻ります」

 

 

 

 

 

 ー16年後ー

 

 

 旭川空港から羽田へ到着した便は、定刻から20分遅れた。

 キャリーバックを引く急ぎ足の女性は、もう片方の手で幼い男の子の手をつないでいた。

 

 「すみません、飛行機遅れちゃって」

 

 「いえいえ、お待ちしてました」

 

 「ママ、どこへ行くの?」

 

 女性は立ち止まり、子供と同じ高さになった。

 

 「とても大切なところよ」

 

 「だから、どこ?」

 

 「それよりセシル、ママが昨日言った事、ちゃんと覚えてる?」

 

 セシルと呼ばれた子供は、不安げに首を縦に振った。

 

 「よし、いい子ね」

 

 女性は子供と共に、白手袋をした男が開けたドアから、黒塗りの車に乗り込んだ。

 

 「では、出発します」

 

 「お願いします」

 

 

 その日、東京の空は雲ひとつない晴天だった。

 女性は高速を走る車の窓から、真っ青に晴れた空を見上げていた。

 

 「ママ、お空になにかあるの?」

 

 「ここはね、ママが子供の頃、お兄ちゃんと見上げた空よ」

 

 「お兄ちゃん?」

 

 「そうよ、あなたのおじさん。この雲が無い真っ青な空はね、『カエルラ・カエルム』って言うの」

 

 「えっ、なにそれ」

 

 「ときめきのスカイブルーってことよ」

 

 子供は不思議そうな顔をして、青い空を見た。

 

 

 (そうよね、お兄ちゃん・・・)

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ