14.廃工場の地下階段
「で、どこへ行くんだ。またドリームアイランドか?」
亜錬は黒頭巾を頭から被せられ、後ろ手に手錠を掛けられていた。
「あのビルが出来るのは、来年の4月だ。今は影も形もない」
「じゃ、どこなんだよ」
亜錬を乗せたバンは、ETCの支払い音声と共に高速を降りた。
しばらく走っていると、潮の香りがした。
(前より海が近いな・・・)
「降りろ」
前が見えない亜錬は、大祐に腕を引かれてヨロヨロしながら車を降りた。
「もう頭巾取ってくれてもいいんじゃないか?」
「黙って歩け」
少し歩くと、小さく波の音が聞こえた。潮の強い香が、海が近くにあることを教えている。
(どこかの岸壁か?・・・)
「止まれ」
鍵を開けたカチャという音の後に、ジャラジャラと鎖の音がした。
音の感じからして、かなり太い鎖のようだ。続いて、キーという錆びた金属が擦れる音がした。
「さあ、中に入れ」
亜錬が中に入られると、金属が擦れる音の後に扉が閉まる音がした。
拓真の合図で、大祐が亜錬の頭巾を取り手錠を外した。
「ここは、」
「お察しの通りコンテナの中だ」
粗末な電灯が照らすそこには、4機のタイムマシンが並んでいた。
「ここが政府が保管してる場所だってのか?」
「まさか、そんなわけないだろう。予め移動させたのさ。一般人のお前を、政府が管理してる所に入らせるわけにはいかないからな」
「俺がお前らに協力すると読んでたのか」
「読むも何も、お前は協力するしかない。妹の命は、俺達が握っているのも同然だからな」
「やっぱり妹を殺したのは、てめらの仕業か!」
「やめとけ。また舞にぶっ飛ばされたいのか?」
拓真は4機のタイムマシンのメインスイッチを順番にONにした。
「待ち合せの日時と場所は前と同じだ。今から2022年8月9日午前8時に戻るが、前のようにプリセットはしていない。パネル操作して入力してくれ」
拓真は大祐の荷物から四角いパネルを取り出し、パネルから伸びているコードの先端をタイムマシンに接続した。
「右手をこいつの上に置け。動かすなよ」
亜錬が右手を乗せるとパネルが光り、タイムマシンから女性の声の機械音声が聞こえた。
『搭乗員のDNAを採取中。しばらく待ちください・・・DNA採取完了しました。データベースと照合中・・・キタガワアレンにヒットしました。このまま登録しますか?』
「・・・イエス」
『搭乗員は、キタガワアレンに登録しました』
ウィーンというモーター音とともに、透明なカプセルの扉が開いた。
「お前らは登録しないのか?」
「俺達はもう登録してある」
「そうか」
「言っておくが、また裏切って違う日に戻っても別に構わないぞ」
「どういうことだ、」
「お前が俺達を裏切りれば、お前の妹は永遠に中学生になることはない・・・わかってるな」
「・・・」
「3度目はない、これがラストチャンスだ」
「ああ、わかってるさ」
亜錬は、カプセルの中に入った。
「オーケー、時間旅行の始まりだ。俺達も乗り込むぞ」
『タイム・レトログレイド・シーケンスが開始されました』
改札の柱にある時計は、9時52分を指していた。
「来ますかね、」
「来るさ。今回はあいつに不審なところは無かった。奴は必ず来る」
都心から、下り電車がホームに入ってきた。
「これに乗ってなきゃアウトですよ」
拓真は大祐を見て、薄い笑みを浮かべた。
「俺のシナリオは100%だ。疑うのか?」
「あ、いえ、そんなことはありませんよ」
柱の時計は、9時58分。
( くそー、あいつホントに来んのかよ・・・)
その時、改札を出てくる亜錬の姿が見えた。
「あ、来た!田所さん、さすがです!」
亜錬は、やや緊張した面持ちで拓真の前に立った。
「来ないと思ったか?」
「ギリギリを演出したかったようだが、お前が来ない選択肢などないぞ。妹の死に顔を3回も見たくないだろう?」
「約束は必ず守れよ」
「さて、メンツもそろったし、出発しよう」
拓真達は、それぞれボストンバックを持った。4人は富士見丘駅から徒歩で、目的の廃工場へ向かった。日陰の無い道は、暑い日差しが照り付けている。
15分程歩くと、辺りの景色は一変し、微かに黄色に色付く穂先の水田が、所狭しと広がった。蝉時雨が真夏の暑さを一層搔き立てる。
「田所さん、まだですかね」
「あと少しだ」
流れてくる汗をぬぐいながら、4人は歩いた。
「見えてきたぞ。あれがそうだ」
廃工場の周囲に張られた有刺鉄線が外部からの侵入を防いでいた。立ち入り禁止の立て看板は半分に割れている。
「今頃警察は5人の死体の件で大騒ぎね」
「そうだな」
拓真は自分の荷物の中から、メタルカッターを取り出し有刺鉄線を切断した。
「亜錬、中に入れ」
屋根に開いた複数の小さな穴から、太陽の光が差し込んでいた。中は薄暗く奥行きがある広さで、歩くたびに砂を踏む音が響く。2階へ上がる錆びた鉄の階段があるだけで、全体的にガランとしていた。
「何もないわね」
「田所さん、どこに扉があるんですか?」
「もっと奥だ。行くぞ」
歩いていくと、奥の壁沿いにロッカーがいくつか捨てられていた。誰かが蹴ったのか靴の跡があり、歪んでどれもボコボコになっている。
「西田、こいつを動かすぞ。そっちを持ってくれ」
拓真が指定したロッカーを二人で持ち上げて移動させると、壁にテンキーがある金属の扉が現れた。
大祐は手についた埃をパンパンと落としながら、額の汗をぬぐった。
拓真がテンキーに指で触れると、ピピッと音が鳴り文字盤が青く光った。
12桁の暗証番号を拓真は素早く入力した。ガチャっと、ロック解除の音がした。
「さて、亜錬。ここからは、お前一人で行け」
「・・・そう言うと思ったぜ」
「舞、例の物を出してくれ」
舞は荷物から、両手で持てる大きさの黒いキューブ型の金属の箱を取り出した。
「こいつは、地下の熱源を感知するものだ」
黒い箱の電源を入れると、キュイーンという音が鳴り、箱の上部に赤い点の塊が映し出された。
「この点は、スーパーコンピューターの熱量を示している。色が赤いのは、アクティブな状態ということだ。お前がシステムをスリープ状態にさせれば、この点は全て青くなるはずだ」
「止めてもないのに、『止めました』とウソを言ってもダメだって言いたいのか」
「お前は適当なウソを言うのが上手いだろ」
「バカにしやがって」
「それと、これを持っていけ」
拓真はフラッシュライトを亜錬に向けて投げた。
「じゃ、頼んだぞ」
「待てよ。階段の奥には、もうひとつ扉があるんじゃないのか?」
「その扉が開けられないようだったら、俺達を呼んでくれ」
「階段を登ってか?それなら、最初からいっしょに来てくれたらどうなんだ?」
「勘違いするなよ。今のお前に、どうこう言う権利など無い。お前は俺達の指示に従うのみだ」
「・・・そうか、わかったよ。じゃあな」
亜錬は右手にフラッシュライトを持ち、地下へと続く階段を降りて行った。
拓真は、亜錬が今降りた階段をじっと見ていた。
「どしたの拓真、何か気になることでも?」
「あいつ、プログラマーの男のこと、何も聞かなかったな」




