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13.最低の男

 白いユリと菊の花に、玲奈の写真は囲まれていた。

 

 「まだ小学5年生なのに・・・」

 

 僧侶の読経が流れる中、近所の公民館をあわてて祭儀場にしたパイプ椅子に亜錬は座っていた。

 

 「花火大会の帰りに、トラックに轢かれたそうよ」

 

 玲奈と同じクラスの子供も親と来ていたが、突然の出来事に信じられない様子で祭壇の写真を見つめていた。

 

 「警察の話じゃ事故らしいわね。なんでも玲奈ちゃんが急に飛び出したとかで・・・」

 

 「まさか自殺?」

 

 「ちょっと、声が大きいわよ」

 

 後ろの席のおばさん達の会話は、全部亜錬の耳に入っていた。

 小刻みに震える亜錬は、両手の拳を強く握りしめた。

 両目は見開いていたが、涙が止めどなく溢れていた。

 

 父親の声にならない言葉が終わると、棺の蓋が開けられ最後の別れの時がきた。

 玲奈の顔は、奇跡的に無傷だった。

 ピンクのマーガレットを持つ手が震えた。今にも目を開け、声を出しそうな顔だ。

 二度も妹の死に顔を見た亜錬は、耐えきれずに目を閉じた。

 

 真っ白になった玲奈の頬に、亜錬の涙が落ちた。

 

 

 

 

 「皆静かにしてー。今日は新しい仲間を紹介しますね」

 

 教壇に立つ教師の手招きで、教室のドアが開いた。

 

 「千葉から転校してきました西田大祐です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

 少し遅れて、パラパラとした拍手が聞こえた。

 

 「この列一番後ろの北川君の隣に座ってくれるかな。北川君、教科書見せてあげてね」

 

 大祐は亜錬の隣に座り、肩にかけたリュックを床に置いた。

 

 「よろしくな、裏切り者さん」

 

 亜錬は横目で大祐を見たが、その言葉に反応しなかった。

 

 「じゃあ、今日は47ページから」

 

 教師は、亜錬をチラリと見て、

 

 「北川君、聞こえなかったのかな?西田君に教科書を見せてあげてね」

 

 しかし、亜錬は動かなかった。

 不審に思った教師は、教壇から降りて亜錬に近づこうとしたとき、

 

 「あっ、わたしが見せます」

 

 反対隣の女生徒が、自分の机を大祐の机にくっつけた。

 それを見た教師は、何かブツブツ言いながら教壇に戻った。

 

 

 チャイムが鳴り、休憩時間になった。

 大祐は亜錬の肩をポンと叩き、小声で囁いた。

 

 「屋上に来てもらおうか」

 

 亜錬は階段を上がり、屋上へ繋がる扉を開けた。

 そこには拓真と舞が校舎の柵から下を見ていたが、錆びたドアの開く音に反応した。

 

 「よー、亜錬。久しぶりじゃないか。と言っても、俺達からすれば1か月だが、お前からすれば何年経ったんだ?んーと、3年か?」

 

 「・・・」

  

 「見事に俺達を裏切ってくれたな、」

 

 「よく言うぜ。その顔からすりゃ、最初から知ってたんじゃねえのか?」

 

 「何を言ってるんだ、俺はお前を信じてたんだよ。いくらお前が妹を助けに行ったとしても、約束の日には来るはずだってね。だが、お前は来なかった。お前は最初からデリーターを止める気が無かった。違うか?」

 

 「その通りだ。お前らの胡散臭い話しに、乗るわけねえだろ」

 

 「と言うことは何か。お前は個人的な理由で、政府の貴重で高価なタイムマシンを使ったというわけか」

 

 「なにが貴重で高価だ。税金無駄に使って裏でコソコソ作ってたくせに」

 

 「まあいい。お前がどんな詭弁を言ったところで、俺達警察を騙して自分の妹を助けたことに変わりはない。で、その妹は元気か?」

 

 「・・・」

 

 「ん、どうした。お前は今成長期真っ盛りだ。あれだけ時間を遡れば、身体の負担も相当大きかったはずだ。その痛みに耐えて、妹を救ったんだろ?」

 

 「・・・死んだよ」

 

 「なんと、救えなかったのか」

 

 「救えたが、今度は違う日に事故で死んだ」

 

 「あららー。せっかく救ったというのに、また死んじゃったんだー。お可哀そうに」

 

 「だまれ!」

 

 舞が拓真の前に出た。

 

 「花火大会の帰りにトラックに轢かれたんだってね。うさぎのキーホルダーが付いたポシェットが、血で真っ赤だったわよ」

 

 「お前・・・何でそれを知ってる」

 

 「何でって、君の妹が轢かれた現場に偶然いたからよ」

 

 「偶然だと」

 

 「そう、偶然よ」

 

 「そんな偶然あり得るわけ・・・まっ、まさか、お前・・・」

 

 「まさか、何?」

 

 「お前が玲奈をトラックに突き飛ばしたのか!」

 

 「さあ、どうだか、」

 

 「この!クソ女が!」

 

 亜錬は凄い勢いで舞に向かって飛び出し、右手の拳を舞の顔めがけて突き出した!

 

 ガッシャーン!

 

 亜錬のパンチを軽く避けた舞は、亜錬が突き出した腕を取って屋上のフェンスに投げつけた。

 フェンスに激突した亜錬は、そのままコンクリートの床に落ちた。

 仰向けになった亜錬の腹に、舞のスニーカーがめり込んだ。

 

 ガハッ!

 

 「あたしに喧嘩を売るなんて、100万年早いわよ」

 

 ドカッ、ドカッ、ドカッ

 

 舞は執拗に亜錬の腹を何度も踏みつけた。

 

 「なにが3連覇よ。てんで弱いじゃない」

 

 「舞、それくらいにしておけ。病院送りにでもなったら面倒だぞ」

 

 「はーい」

 

 亜錬は顔をしかめながら、腹をおさえた。

 拓真は亜錬の髪を鷲掴みにして、無理やり頭を上げた。

 亜錬の口から血が流れている。

 

 「助けたはずの妹は結局死んだか。お笑いだな。一体お前は、何がしたかったんだ?」

 

 「てっ、てめえら・・・玲奈を殺したな」

 

 「殺した?言いがかりはよせ。警察では事故で書類が回ってたぞ。第一、舞がお前の妹を突き飛ばした証拠でもあるのか?」

 

 「・・・」

 

 「何もないくせに、適当なこと言ってんじゃねえよ!」

 

 ガン!

 

 グハァ!

 

 拓真は、亜錬の頭をコンクリートの床に打ち付けた!

 亜錬は身体を縮め、頭を両手でかかえてうめき声を上げた。

 拓真は再び亜錬の髪を鷲掴みにした。

 

 「亜錬、よく聞け。お前にもう一度だけチャンスをやろう。今から政府がタイムマシンを保管している場所へ行き、1か月前の8月9日に戻るんだ。そして、お前は今度こそデリーターを止めろ」

 

 亜錬は半開きの目で、拓真を見た。

 

 「もしお前がデリーターを止めれたなら、俺達警察はお前の妹を生涯守ってやる。事件からも事故からもだ。どうだ、これでもお前と俺達はWINWINの関係だ。いい話しだろ?」

 

 拓真は、亜錬の頭から手を放した。

 亜錬は腹と頭の痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がった。

 学生服のブレザーは、砂埃まみれになっている。

 

 「・・・そっ、その話し、ウソじゃないだろうな、」

 

 亜錬は、ブレザーの袖で口元の血をぬぐった。

 

 「もちろんだ。俺達はお前と違って約束は守るからな。それに、もし俺達が裏切ったとなったら、その時はお前がデリーターを再稼働させればいい」

 

 「俺が再稼働させても、熊本にいるもう一人に止めさすんじゃねえのか」

 

 「死んだらしい、」

 

 「なに!」

 

 「なんでも、用水路に落ちたとか」

 

 その時、屋上の扉を背に腕を組んでいた大祐がニヤリと笑って言った。


 「事故だよ、事故で死んだんだ。熊本の男の子もね」

 

 「てめえらー、それでも警察か!」

 

 拓真は亜錬の胸ぐらをつかんだ。

 

 「さあ、小僧!どうすんだ!やんのか、やらねえのか!さっさと返事しやがれ!」

 

 拓真は胸ぐらをつかんだ手を交差させ、亜錬の首を絞めつけた。

 

 「このまま、お前の息の根を止めてもいいんだぜ」

 

 「・・・わっ、わかった・・・やるよ」

 

 拓真は亜錬から手を放した。

 

 「最初から俺達に協力的になってれば、こんな痛い思いをしなくて済んだんだぞ」

 

 拓真は、亜錬のブレザーについた砂埃を払った。

 

 「亜錬、これは国家国民のためのミッションだ。一億人の命がかかっている。一人や二人死んだところで、どうってことないんだよ」

 

 「・・・絶対的多数ってやつか」

 

 「その通りだ、わかってるじゃないか」

 

 拓真は亜錬の肩に腕を回したが、亜錬はそれを跳ね除けた。

 

 「正直、俺は妹が助かればそれでいい。他の事は知らん。どうでもいい」

 

 「そうさ、それでいい。お前は勇者なんかじゃない。お前は、利己主義で最低の男さ」

 

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