表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

12.追い詰められる亜錬

 高らかに笛の音が聞こえた。

 審判の白い旗が上がった。

 白線で蹲踞した勝者の顔に、嬉しさは無かった。

 

  「やったぁー!お兄ちゃーん、おめでとう!」

 

 2階の観覧席から満面の笑みで両手を振る妹に、面をとった勝者は初めて微笑んだ。

 

 

  「北川君だね。私は大会事務局の者だ。着替えたらちょっと来てほしいところがあるんだ」

 

  「わかりました」

 

  素早く着替えをすませ、バタンとロッカーの扉を閉めた亜錬は、更衣室の扉を開けた。

 

  「お待たせしました」

 

  「帰るとこ悪いね。こっちだ、ついてきてくれ」

 

  男はある部屋の前で立ち止まり、扉をノックした。

 

  「総理、大会運営の山下です」

 

  「いいぞ、入ってくれ」

 

  男がドアを開けると、部屋の奥のソファーに内閣総理大臣 伊藤司が座っていた。

 

  「北川君!凄いよ、大会三連覇!いやー、見事という他ない。素晴らしいよ、ワッハッハ」

 

  伊藤総理は立ち上がると、亜錬の肩を何度も叩いた。

  しかし、急に顔を近づけて耳打ちする。

 

  (できれば、君本来の試合を見たかったよ)

 

  総理は、寂し気な声で亜錬の手を握った。その手は力強く、熱かった。

  そして、すぐに表情を笑顔に変えた。

 

  「まー、とにかく座ってくれ」

 

  ソファーに座った亜錬の前に、湯気の立つコーヒーが置かれた。

 

  「高校は決まったのかね?」

 

  「家の近くにある高校に、」

 

  「無論、剣道部はあるんだろうな?」

 

  「部というか同好会ですけど、」

 

  「そうか、まあいい。高校になっても期待してるよ。ワッハッハ」

 

  「・・・ありがとうございます」

 

  ドアが開けられ、腕章してカメラを持った男が入ってきた。

 

  「北川君、わしと記念撮影をしてくれんか。官庁向けの広報誌に載るそうだ」

 

  白い壁を背に、総理とアレンは並んで記念撮影をした。

  腕章の男がカメラを降ろしたとき、

 

  「あ、ちょっと待って。北川君、優勝トロフィー持ってるかね?」

 

  「えっ?あ、はい、持ってますが」

 

  「トロフィーを持った姿も一枚撮らせてくれないか」

 

  「・・・わかりました」

 

  亜錬は、スポーツバックから優勝トロフィーを取り出した。

 

  「笑顔で頼むよ」

 

  表情は硬かったが、亜錬はトロフィーを持ちカメラに向かって微笑んだ。

  腕章の男は、亜錬を撮影した。

 

  「写真の確認はいいだろう」

 

  「わかりました」

 

  腕章の男はそう言うと、テーブルのパソコンを手に持ち部屋を出ていった。

 

  「総理、そろそろお時間です」

 

  部屋の隅にいた眼鏡の男が、総理に声をかけた。

 

  「うむ、」

 

  総理は立ち上がると、

 

  「じゃ北川君、私はこれで失礼するよ」

 

  総理と部屋にいた数人の男達は、ドアの向こうに消えた。

  静寂が一気に部屋を包み込む。

  誰もいなくなった部屋で亜錬は出されたコーヒーを一口飲み、小さくため息をついた。

 

  中学最後の夏休みが、始まろうとしていた。

 

 

 

 

  (おかしい・・・もっと笑顔でもいいはずだが・・・)


  「どしたの、拓真」

 

  舞が扉を開けて入ってきた。

  そこは、警察庁内部にあるシスメンバーの小部屋だ。

 

  舞が覗き込むと、拓真の手には官庁で配られていた広報誌があった。

 

  「あ、亜錬じゃない。隣にいるのは伊藤総理ね。現役の総理大臣と写真に載るなんて、あいつ結構凄い奴だったんだ」

 

  「中学の剣道大会で3連覇したらしい」

 

  「なるほどね。でも、中学レベルじゃ大した事ないわね」

 

  「お前の基準だと、どんな奴でも大した事無くなる気がするけどな」

 

  「さっき浮かない顔してたけど、その写真に何かあるの?」

 

  「3連覇って凄いことしたわりには、笑顔じゃないのがちょっと気になったのさ」

 

  「総理を前にして、緊張してたんじゃない?」

 

  「西田のレポートからすると、指3本立ててニッコリするくらいの性格なはずなんだけどなー」

 

  拓真はポイっと広報誌を机に投げた。

 

  「ねえ、あたし思ったんだけど、あいつの本性、本当は逆なんじゃない?」

 

  「逆?どういうことだ」

 

  「活発で外交的っていうのが、実は無理してたってことよ」

 

  「ふーむ・・・新しい視点だな。だが、何のために無理してたんだ?」

 

  「決まってるじゃない。妹の理想の兄になるためよ」

 

  「・・・なるほど、妹か・・・確かにそれはあるかも」

 

  「でしょー。やったー、あたし、ついに拓真を超えちゃった?」

 

  「調子にのんな」

 

  ガチャっと部屋の扉を開けて、今度は大祐が入ってきた。

 

  「ただいま戻りましたー」

 

  「ご苦労さん。熊本の首尾はどうだ?」

 

  大祐は親指を立てた。

 

  「バッチリです」

 

  「よし。じゃ、次は舞だな。実行日は決まったか?」

 

  「8月28日に隣町で花火大会があるそうよ」

 

  拓真は、椅子から立ち上がった。

 

  「舞、このミッションの成否はお前にかかっている。わかってるな?」

 

  「任せて。必ず成し遂げてみせるから」

 

  「頼んだぞ。成功したら、顔を変えてくれ」

 

  「よっしゃぁー、前よりもっとカワイクするぞ!」

 

  「こら、ハシャグんじゃない。これは仕事なんだぞ」

 

  「はーい、」

 

  「西田。お前は明日にでも顔を変えて、月末までに転校の手続きを済ませておけ」

 

  「前と同じ9月12日の月曜日でよろしいですか?」

 

  「OKだ」

 

  「了解しました!」

 

  拓真は、部屋の窓に向かって歩いた。

  足元まである大きなガラスからは、夏の日差しと遠くまで続くオフィス街が見えた。

 

  (さて亜錬、いよいよお前が覚悟を決める時が来たな。逃げ回るだけのチキン野郎め。俺のシナリオで追い詰めてやる)

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ