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7「離せと言われて離す悪役がいるか!」

 光が収まった時、最初に思ったことは一つ。


「よ、良かったああああ……さ、最悪の事態だけは、免れたっ!」


 女装にガチで挑んでいる男性の女装と、そういう趣味もないし美形でもない何の努力もしてないオッサンの女装を一緒にしてはいけない。実際にキバルがそのままフリフリドレスを着て女装してもキモいだけであったことだろう。

 だが幸いにも光が収まって見れば、キバルはフリフリミニスカ姿にこそなっていたものの、ささやかながら胸はあって下はなくなっている、いわば“女性”の姿にはなっていたのである。つまり、性転換したのだ。ボールリターンの側面に映っている己の姿を見るに、残念ながら顔立ちなどはあまり変わっていないし身長もデカいままであるようだが、一応女として通用する見た目にはなっている。女体化してしまったのはある意味事故だが、それでもおっさんのまま女装させられるより遥かにマシではなかろうか。大惨事だけは免れた、謎パワーありがとう――とそんな場合でもなんでもないのに合掌してしまったのはここだけの話だ。


「良かった、なんとか成功したみたいだな!」

「……おい、お前どっから湧いた?」


 目の前のベンチから犬モドキがこんにちは。さっきまでいなかったのにどこから出現したのだろう。テレポートしてきたのか、あるいは透明化の能力でもあるのか。コアラはキバルの質問を無視して、僕凄くない!?と自画自賛。


「最悪の事故を防ぐため、ギリギリのギリギリまで能力を調整して女性に変身できるようにはしました!褒めて褒めて超褒めてぇ!」

「お、おう、ありがとよ……」

「変身解けたらオッサンに戻るから気を付けてね。どうせならロリ顔巨乳太ももムッチムチのレディにしたかったんだけど、おっさんをそこまで僕好みのロリ美少女にするのはさすがに無理があったんだ、ごめんね」

「せんでいいわそんなこと!」


 何がごめんねだ、この欲望に忠実な犬ッコロめ。言いたいことは山ほどあるが、今大事なのはそこではない。まずは。


「おい、変身したはいいが、必殺技とかないのか!?この変身は、ドロイド・ボーンを直接倒すためのもんなんだよな?」


 そう、せっかく魔法少女(いや、今の自分は頑張っても魔法淑女が精々な気がしないでもないが)になっても、ただ女体化してフリフリの服にチェンジしただけでは全く意味がないのだ。魔法少女とは魔法が使えてこそ魔法少女である、というか仕えなかったらネーミング詐欺だ。必殺技を用意してないとか言ったらぬっ殺す、と思ってガンつけてやると。


「あるよ、一個だけ」

「一個かよケチってんじゃねえ!」

「仕方ないじゃない!序盤からあれもこれも魔法使える魔法少女なんかいたら物語成り立たないでしょ!ていうかそんなチートなら異世界転生でもして来いよになるじゃん!」

「何で無駄に日本のラノベ事情に詳しいんだよてめーは!いいからその一個を教えろ!」

「仕方ないなあ。呪文は……」


 ツッコミつつ、ごにょごにょ、っとその魔法を聴いたキバルはずっこけそうになった。ちょっと待て、それって。


「……それ、魔法、ナンデスカ?」


 思わずカタコトの敬語が出てしまった。いやだって、魔法少女の魔法といったらあれだろう、ステッキを翳すと光のシャワーが降り注いで敵を浄化する、とか。あるいは弓矢を構えて放つと、光の矢が飛んでいって悪を浄化する、とか。

 どう見ても聴いても、王道の魔法少女の魔法とはかけ離れてるというか――子供が見たらまず泣くのだが。


「魔法だよ!一応!ダーク・エレメンツ化された人間の上から当ててもちゃんとドロイド・ボーンにダメージが通るから安心して!あ、ちなみに魔法のステッキはちゃんと念じれば出るからね!」


 じゃあそういうことで!と言ってコアラはばびゅーん!とベンチから飛び出しボーリングのレーンの上を駆け抜けていった。そして、ボールが出てくるところにするっと体をすべり込ませて撤退する。そんなトコ入っていいのかお前、詰まっても知らねえぞ、と呆れるキバル。まあいざとなったらテレポートできるしどうにでもなるのだろうが。


「いつまで、ごちゃごちゃ言ってんだ……!」


 やがて。何故だか自分も別のボールリターンの影に隠れていた金髪男が這い出してくる。やべ、とキバルは念じてステッキを顕現させた。上にピンクのハートと翼がくっついたような形状のそれは、見た目だけならば普通の魔法少女のステッキと変わらない。


「なんだよ、女の姿にちゃんと変身できるなら先に言えよ!おっさんの女装が来るかと思って反射的に隠れちまったじゃねえか!」

「俺の女装は目潰しレベルかよ!?」

「そうじゃないと言えんのか!?言えねーだろ!?」

「……悲しいけど事実だわ」


 おかしい。何で自分、敵と漫才してるんだ。そんな場合ではないのはお互い様だというのに。

 とにかく、必殺技を使うためには距離を詰めなければいけない。あの触手を掻い潜って、どうにか接近しなければ。


「おっさんじゃないならもう触手プレイも怖くない!行くぞ!」

「そういう問題!?」


 よく分からない宣言と共に、金髪男は両手を掲げてきた。まずい、一斉に触手が飛んでくる前のモーションだ。キバルはとっさに身を屈める。すぐに頭上を、何本もの触手が通過していった。


――幸い、障害物はある。ボールリターンとベンチに隠れながら、うまい具合に近づいていけば……!


 標的に当たらなかった触手が、機械やベンチ、床をばこんばこんと叩いて破壊していく。女体化してもでかいままの体が恨めしい。ほんと、ロリくらいのサイズになれたならもっと小回りが利いたというのに――。


「あ」


 その時、キバルは失念していた。この場には、自分達以外にも登場人物がいたということを。金髪男の取り巻き三人である。彼らは気絶したま床やベンチに転がされていたのだ。すっかり忘れていたキバルは、倒れたままだった取り巻きの体にうっかり躓いていた。

 げ、と思ったその途端。しゅるん、と足首に何かが巻きつく流れ。


「つーかーまーえーたぁ!」


 やばい、と思った瞬間無理やり体を引き倒される。足首に触手が巻きつき、ずるずると床を引きずられていく。その向こうでニタニタと笑う金髪男。手足が床で擦られて地味に痛い。


「て、てめぇ……!やめろよパンツ見えるだろうが!」

「二十代の外見の女のパンツなら役得の範囲だ問題ない!もっと美人だったら良かったけどな!」

「正直に言いすぎだろゴラァ!」


 そうか変身した時しれっと外見年齢も下がってたのか――ってそんな場合ではない。


「どうせなら、ぶっ殺す前に好きなだけ“触手プレイ”を楽しませて貰おうかねぇ……!」

「何それ嫌すぎる!離せ!」

「離せと言われて離す悪役がいるか!ほーれこっち来いー!」

「ちくしょー!」


 というかこれ、割とマジで、レイプされてから殺されかねないパターンでは。いくらなんでも悲惨がすぎる。だが、この姿勢では金髪男に決定打を与えるのは難しい。体が仰向けに倒された状態で引きずられているので、到底ステッキが届かないのだ。


――どうする……どうするどうするどうする!?


 ついに、金髪男のところまで引きずり込まれる。まずはパンツ脱がしてやろうかー?なんて言ってるのが最高にキモい。というか、中身がおっさんなのをこいつは忘れてるんじゃなかろうか。


――待てよ?


 その時。キバルが思い出したのは、先ほどこの男が言っていた台詞である。




『よくも、やりやがったなテメェ……痛かったじゃねえか』




 ダーク・エレメンツ化しているということは、喋っているのはあくまでドロイド・ボーンであるはずだ。そして先ほど自分は金髪男にアッパーは決めたものの、ドロイド本体にダメージは与えられていない。にもかかわらずこいつは“痛かった”と言ったのだ。

 つまり、男を殴った場合、ドロイドが痛みを感じるくらいにはダメージが貫通する、ということではないのか?


――だったら!


 なりふり構っていられない。キバルは掴まれていない方の足に思いきり力を込め、そして。


――潰したら、ごめん!


 力いっぱい、振り上げた。がつん、とぶつかった先は――男の股間。

 ピンクの靴の爪先に、それはそれは気持ち悪いむにっとした感覚が。


「ひぎゅうっ!?」


 ちーん!と音がしそうなほどのクリーンヒットだった。しゅるん、と触手から一気に力が抜けてほどける。


「い、いぎいいいいいいいい!?い、いでええええええ!?」


 爪先が、もろにズボンごしに男のアレに食い込んだのだ。痛くないハズがない。しかも、キバルは女体化しても身体能力は成人男性以上のままなのである。そのダメージたるや、ハンパなものではないに違いない。というか、見ているこっちも想像できてめちゃくちゃしんどい。

 男が股間を抑えてごろんごろんしている中、立ち上がったキバルはステッキを振り上げた。


「ごめんな、こっちも負けるわけにはいかないもんで!」


 そう、魔法少女らしからぬ、その必殺技は。


「“魔法殴打マジカル・アタック”!」


 ステッキで思いきり、ダーク・エレメンツ化した人間をぶん殴ること。そうすることで、魔法のダメージがドロイド・ボーンに伝わり、敵を殺戮することができるのだそうだ。

 男の頭をステッキでぶっとばした瞬間、ぴろぴろぴろ~という音と共にハートが大量に放出される。男の背後に、触手だらけの黒いおばけのような影が現れ、ハートを浴びて絶叫し始めた。


「ぐあああああ、ひ、卑怯者!よ、よりにもよってこの俺が、こんなところで!」


 ピンクのハートの中、どろどろと解けて消滅していく異星人の、最後の言葉は。


「し、死ぬならせめて……ロリ巨乳美少女な魔法少女の手にかかりたか、った……」

「最後までそれか!」


 影が消えると同時に、呪縛から解かれた金髪男もがくんと力を失うことになる。白目を剥いているが、大丈夫だろうか。本当にタマが潰れていたとしたら、それはもう気の毒どころの話ではないのだが。


――とりあえず……解決、か?


 今は何より、馨の兄貴を助けることが優先だろう。キバルは馨の兄が捕まっているであろう、スタッフルームの方へと駆け出していったのだった。



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