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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

こちら迷宮都市ミノス冒険者ギルド資材調達課

作者: は


TRPGとか遊ぶ際に冒険者ギルドってどんな感じなのか、ってのを少しでも想像しやすくなるよう妄想してみました。



 迷宮都市ミノスの朝は早い。


 国家主導の大征伐が無事完了となり魔物氾濫(スタンピード)の心配が解消されたこともあり、迷宮上層部における魔物の危険性は都市周辺部の草原地帯よりも低いものと正式に認定された。次代の【迷宮の主】が育つまでの十数年間はこの脅威評価が覆されることは原則的に無く、瘴気が祓われることで迷宮中層部以降に発生する魔物の分布も大きく変化していることが既に確認されている。


 今期の迷宮は鳥獣系主体で植物相は薬草果実類多め。


 とりあえず中層までの探索を終えた冒険者ギルドの発表に、近隣の農家は歓迎した。周辺農家で扱っている主な作物は麦を主体とした穀類であり、迷宮産物と競合しないからだ。これで下手に高品質の小麦などが発生した日などは農家どころか領主が私兵を投入して迷宮を焼き討ちしかねないのだから、迷宮側もその辺の塩梅というものを理解している――というのがミノス市民および冒険者たちの共通見解でもある。


 そんな訳で、迷宮都市ミノスの朝は早い。

 なにしろ採りたて捥ぎたて高品質の果実が早い者勝ちである。そのまま家庭で消費する分には課税不要という代官所の公式表明もあって、朝方の迷宮上層部は主婦や子供達によって占拠されており歴戦の冒険者ですら近付こうとしない。偶に空気の読めない迷宮兎の撥ねっ返りな特殊個体が現地住民に喧嘩を売った結果どこぞの家庭に夕飯を一皿提供する光景も日常の一部となりつつある。




▽▽▽




 そして当然ながら冒険者ギルドの朝も早い。


「まいど、迷宮亭です! 薬草の納品に来ましたぁ!」


 朝一番で資材納品所に駆け込むのは、いわゆるスラム街の住民である。さまざまな理由で市民登録を外れた訳有者や冒険者に憧れるものの無計画に迷宮都市を訪ねて行き詰った者などが「最初に」流れ着く不法滞在者御用達の一時保護区というのが行政上の建前となっているが、大抵のものはスラム街と呼び習わしているのが行政側にとっては頭痛の種でもある。


「おはようございます。品質、良品。数量に応じて今週の相場表から買取価格を適用します。報酬は現金で? それとも」

「食券と風呂で!」


 食い気味に返答するのは先頭の少年で、後ろに並ぶ者達も同じように手を挙げる。大征伐による迷宮鎮静化で薬草類の買取価格は一時より値を下げており、相対的に迷宮都市内限定食事券と公衆温泉利用券の価値が急上昇している。外部より遠征や観光目的で迷宮都市を訪ねてくる傭兵や冒険者らが、これらの食事券や温泉利用券の購入層だ。無論己の取り分すら転売するような者は出禁を厳命しているし、心身に傷病認められた者は問答無用で療養所送りというのが迷宮都市の規則でもある。


「そうそう。先週の探索で持ち込まれた中層の鈍長須(にびながす)豚、枝肉が良い感じに熟成したのを肉屋の息子のマルゴルが買い取っていったよ。あそこの燻製肉は定番だが、頬肉と豚足の煮凝りは滅多に作られない絶品だ。杏子茸も大量に買い付けていたから、脛肉の煮込みも作ってるだろうよ」


 薬草を仕分けて食事券と温泉利用券を配布しながら、ギルド職員の男がうっとりとした顔で世間話を装って情報を提供する。混雑する時間帯はとてもそのような余裕はないが、朝イチならではのリップサービスでもある。その情報を得て己の舌と胃袋を満足させてもいいし、誰かに伝えて幸福を分かち合ってもいい。

 そしてマルゴルといえば先年まで第一線で活躍していた冒険者であり、実家の仕事を手伝いつつも良質な食材を迷宮で採取しては様々な料理に加工する趣味人として冒険者ギルドでも名が知られている。王都に出向く際に領主一家が今でもマルゴルを護衛に加えているのは、ミノスに拠点を構える冒険者たちの間ではやはり有名な話だ。旅の間に振舞われる「賄い」目当てに護衛報酬を自ら値切ってまで参加しようとした高位冒険者の話などは今でも酒場でネタにされている。

 そんなマルゴルが、である。

 王都でも侯爵家辺りならば晩餐会の主菜として振舞うような鈍長須豚の枝肉を買い取った。それも冒険者ギルドで丁寧に温度管理して熟成させた絶品のそれを、である。

 納品所に並んでいたスラム住人達は戦慄した。

 運が良ければ食券でマルゴルの絶品料理を食べられるかもしれないという「欲」と、この極上な情報を懇意の冒険者や商人らに伝えぬまま食材が尽きた場合に待ち受ける「恐怖」と、いずれを選ぶべきかと葛藤した。ミノスに来て間もない者ならば迷う必要もないだろうが、そうでない大多数の住民――それこそ十歳ほどの子供ですら半ば血の気の失せた顔で「誰に伝えるべきか」を必死に考え、交換したばかりの食事券に温泉利用券を握りしめるや冒険者ギルドの建物を飛び出していった。


「……主任、マルゴルさんから袖の下とか貰ってないんですよね」


 スラム街の住人が全員去った後、回収した薬草をまとめて仕分けしていた女性職員が男にジト目で訊ねた。男が余計な事を喋らなければギルド職員でマルゴルの料理を独占できたかもしれないのだから、その視線が刺々しくても致し方のない話である。鈍長須豚は豚としては巨大な部類だが、熟成後の歩留まりを考えれば出回る量は自ずと限られる。希少部位は貴族や商家など御得意様への分として別途確保されるのは必至。だからこそマルゴルは冒険者や庶民でも手の届くような形で加工品を作るのだ、頬肉も豚足も脛肉も食道楽の類でなければ貴族階級の者は基本的に嫌厭すらしている部位である。


「鈍長須豚は肉も美味いが、内臓を余すことなく食べようと思ったら迷宮産に限るよ。特に迷宮中層で獲れる豚は麦芽草と渋皮栗を主な餌としつつ自発的に香草や薬草も食っているから、肉に薫りが乗ってるという人もいる」


 野生種の場合は蟲や蛇なども常食している上に蚤やダニに感染していることも珍しくない。豚も鹿もだ。しかも野生の鈍長須豚は湖沼近くの湿地帯に出没する事が多く、討伐後の処理に手間取れば無数の蛭が傷口から内臓まで潜り込んでしまい肉も内臓も駄目になってしまう。

 その点、ミノスの迷宮で狩猟される鳥獣は安全性が保障されている。また可食部位が野生種よりも多いため歩留まりが高く、新鮮な臓物肉は冒険者ギルドの買い取り対象にもなっている。だからこそ安全かつ品質の高い迷宮産の臓物料理は、ミノスの街にある程度馴染んだ者だけがありつける裏名物なのだ。


「せせせ先週、ギルド併設の食堂でモツ焼とモツ煮込みが大評判、だったのは」

「んんん~。確か外部から来たイケメン冒険者を食事に誘おうとして『内臓って臭そうですし危険なイメージありますしぃ、ほら、酒の肴って印象が強くてぇ』とかすっげー可愛い声で若い受付嬢とかが群がってたから。誘っても笑顔で追い出されたしね。御馳走様でした」

「ふぐう!」


 がっくりと崩れ落ちる女性職員。

 主任と呼ばれた男は仕分けの済んだ薬草類を待機している運送班に委ねた。ギルド付きの薬師もいるが、それだけでは迷宮都市の需要は賄えないのだ。鮮度の高い薬草はそれだけで回復薬の効能を底上げしてくれるし、そのまま止血作用のある絆創膏としても機能する。霊樹の大精霊が守護するという別大陸の伝説の都市は例外として、この大陸で最も効能の高い回復薬と薬草を産出しているのが迷宮都市ミノスである。


「それで件のイケメン冒険者とは誰か御近づきになれたのかい?」

「あの後、冒険者等級の照会と移籍登録審査で判明したんですよね……色々と」


 ドスの効いた女性職員の言葉に、そういや件のイケメン冒険者の姿を最近見かけてないなと主任は察してそれ以上の追及を避けた。不用意に個人情報を漏らすのは御法度だが、こういった思わせぶりな言い方をする際には件の冒険者は問題行動が発生して「処分」対象となった可能性が高い。その辺は監査部の管轄であり、資材調達課が立ち入る領域ではない。




▽▽▽




 資材調達課の担当する納品所は一日に処理できる数が限られている。

 薬草なら調薬担当の職人が加工できる量が基準で、これに薬師や商業ギルドより事前発注のあった分を加味して冒険者ギルドの納品書前に価格表と共に掲示している。


「今週は白冠苺(ホワイトベリー)の買取価格が五割増しなんですね」

「そうなんですよ」


 週明けの午前。冒険者ギルドの納品所には高位冒険者チームも顔を出していた。迷宮探索では収納系技能や魔道具でもない限りは持ち帰れる量は限られているため、こうした事前調査と情報収集を欠かさない。

 早朝の薬草買取を終えた受付嬢は、馴染みの冒険者――婚活パーティーで時々目撃する狐獣人の女性斥候職の呟きに近い問いかけに応じた。


「東の半島国家で悪鼠(おそ)熱病の患者が発見されました。件の国では都市封鎖と防疫を進めていますが特効薬がどうしても不足しています。ミノス領主家は直接関係はありませんが人道的配慮から、白冠苺の買取価格に補助金増額を申し出てくれました」

「まあ。あの辺って泡漬で有名な土地よね?」


 ギルド食堂名物、甘藍泡漬(ザワークラウト)

 一般的には野菜が不足しがちな冬場に食べられる貴重な野菜という扱いだが、外洋に出る船乗りや長期間探索する冒険者にとっては体調管理する上で欠かすことのできない保存食である。特に迷宮深層部を探索する際、草食性獣人の活動期間は甘藍泡漬の残量に比例するとすら言われており、より効能が高く且つ美味なものが求められている。

 ミノス郊外でも甘藍は栽培されているが、泡漬に適した品種ではない。年中通して冷涼な気候かつ冬場の厳しい半島国家で仕込まれる泡漬は、その味と効能を知る者にとっては他で代用の効くような品ではない。


「悪熱患者が見つかったのは半島南端なので、泡漬名産地の北部とは距離があります。ただ当該地域の感染情報は現在調査中のため、出発予定の隊商が領主権限でミノスに留め置かれている状況です」


 その辺の情報は商業ギルドと共有しているので其方もご確認くださいと受付嬢が頭を下げると、集まっていた冒険者らは大きく二手に分かれた。

 白冠苺は解熱作用を有すが年間を通じて採取できるのは迷宮のみであり、半島では既に時季外れとなっており採取は困難。度数の高い酒に漬けたり乾燥させることで少量の保存はしているだろうが、都市封鎖規模の感染症に対応できるほどの備蓄が無いことは明白だ。白冠苺そのものは迷宮上層でも比較的簡単に採取できる――見た目から想像できないほど強烈な酸味と渋みを有するので食用とはみなされない――ため、採集籠を背負った若手や薬草納品を終えたスラム住人らがあわただしく動いている。

 もう一方の大きな流れは、商業ギルドで募集するであろう隊商護衛に応募する冒険者達だ。それは冒険者として名声を稼ぐ滅多にない機会であり、社会貢献をアピールしつつ関係各所に伝を得ることは有形無形の恩恵に結びつく。冒険者稼業は実力本位が建前だが、人脈も実力の内というのが冒険者ギルドにおける暗黙の了解である。


 悪鼠熱病を治癒し得る神官職や薬師に大きな動きは見られない。

 疫病に関してある程度の知識を有しているであろう彼らは、悪鼠熱病が本来南方で流行しやすいものだと理解しているのだろう。半島国家は南北に展開した地形であり、外洋航海の拠点港も多い。かの地域が発生源なのか。それとも別の何処かから持ち込まれたものなのか。

 ミノス領主家と冒険者ギルドの懸念はそこにある。

 周辺の領主家や王家が当該地域に薬師や神職の派遣を躊躇する理由も其処にある。人口に対して薬師神職の密度が異常に高い迷宮都市ミノスだからこそ、日常に近い体制を維持できている。対処が遅れれば、別大陸で疫病をまき散らし多くの命を奪った「不死王」の悪夢の再現となりかねない。


「悪鼠熱病の話、昔馴染みに伝えてもいいでしょうか。他所で薬師をしていますが子弟揃って偏屈者らしいので」

「別室へどうぞ。主任が用意した資料の複写をお渡しします」


 狐獣人の申し出に遠方ならギルド間通信網も使えますよと、受付嬢。

 気付いた相手には情報を。冒険者ギルドとしては珍しくない対応ではあるが、疫病拡散でそれをするという事はギルド運営にさえ干渉できる相手が何らかの圧力をかけているのだろう。ミノス領主家が関与できない領域で。二人のやり取りからそれを察した薬師や神職らは短く視線を交わすとその後についていった。


 数日後、薬師ギルド名誉総裁として辣腕を振るっていた先王の姉にあたる王族が公職より離れ療養に専念するという告知が官報に小さく掲載された。




▽▽▽




 迷宮都市ミノスの昼は屋台飯が名物である。


 元々は食性の偏りが激しい獣人族の有志らが始めたもので、第一号店はボウルに山盛りにされた蟻塚と言われている。迷宮から掘り出したばかりという、崩したての蟻塚を抱えて歓喜の声を上げたのは、アリクイ系統の獣人だけではなく猿系にも多くいた。蟻の種類によって味が違うのだと力説する彼ら独特の美食観は当時の冒険者のみならずミノス市民に衝撃を与え、また同時に商機を生み出した。

 数多の種族が共に消化できる食材も世の中には存在する。

 麦芽草を原料とする泡酒などはその最たるものであり、それ故に冒険者ギルドのみならず主だった宿は泡酒を常備している。またミノス領主家は麦芽草を原料とした泡酒に限っては自家醸造を認め、品評会すら主催している。

 それでもやはり種族毎の嗜好というものは無視できるものではなく、最初は獣人の食性問題を解決するための手段として始まった屋台飯は、各地方風土に根差して生まれた独自の食文化を披露する場ともなり、その多彩かつ混沌とした空気は他の都市にはないものだと認識されている。


「ですから、夢魔族用のキッチンカーというか屋台を始めようと思いましてえ」


 昼食時。

 人も疎らになったギルドの納品所を訪ねたのは、豊穣神の聖印を首から下げた女性魔族だ。魔力との親和性が他種族よりも遥かに高く古妖精を祖に持つとされる魔族たち。

 夢魔族は知的種族の精神に作用する属性を持つことから為政者に睨まれがちである一方、理解の足りない者達は夢魔と淫魔を同一視しがちである。もっとも性欲もまた夢魔が得手とする領域であり、淫魔顔負けと評価される者もいる。たとえば現在この納品所受付にて力説する女性魔族のように。


「評判の良いホットドッグ店を幾つか巡った際に思いついたのですが」

「おいばかやめろ」

「特定の相手もなく無駄撃ちばかりされている殿方に協力を仰いで、新鮮な()()()()()()()()を提供していただけないかと。さっと茹でてパンで挟んで特製のヨーグルトソースでしまえば夢魔の女性も誰憚ることなく食事ができるんです!」

「そんなものウチでは扱ってないよ」

「取り扱いましょうよ!」


 冷たく突き放そうとする主任に、拳を握り力説する女性魔族。


「古くより虎や海獣の陰茎を干したものは性力増強の生薬として珍重されてきました。ならばヒトオスショタの長さ1インチの可愛いウィンナーからオーク様のご立派なボロニアまで揃えれば必ずや需要が!」

「ないよ。あったとしても誰が去勢するんだよ誰が」

「そこは卓越した解体技術を持つギルド資材調達課の職人様たちが」


 あくまでも女性魔族は真顔である。

 うっかり近くにいて話を聞いてしまった男性冒険者たちが股間を押さえて退散したが、彼らが次に納品所に来た際には買取価格に色をつけてあげようと主任は密かに決意した。


「大体そういうのは豊穣神殿が対処すべき案件でしょうが」

「衝動と自尊心の狭間で性欲を発散できずに苦悩する殿方の陰茎からのみ摂取できる栄養素が世の中にはあるんです!」


 かくして豊穣神殿名物神官シスター・フィクセンの熱弁は、最寄りの屋台で昼食を済ませた上級神官マザー・コルシカによるランニングボレー(ファルコン)キックが彼女の股間に炸裂するまでの小一時間ほど続き、納品所の主任は携帯保存食で昼を済ませることになった。




▽▽▽




 冒険者ギルドの午後はどこも忙しい。


 護衛や討伐など依頼達成の報告受理と審査。

 新規依頼の受付と設定。

 迷宮や外部から持ち込まれる摩訶不思議な道具や魔法武器の鑑定と価格設定、場合によっては販売代行や買い取り業務。

 緊急性の高いものについては現場責任者の判断で決裁が許されているが、ギルドマスターと呼ばれる統括責任者と各部門長の合議で裁定が下されるのが基本である。


「――先日外部より持ち込まれたエメラルドの首飾りですが、半島国家の武家で代々受け継がれていた品です。悪鼠熱病治癒のため薬を買い付けに来た御令嬢が騙されて二束三文で巻き上げられたと証言ありました」

「下手人は」

「商業ギルドの査察部が確保済みです。本来件のエメラルドは商業ギルドにて担保として預かる予定だったので、実行犯はもちろん事情を知った上で加担した護衛冒険者も処罰対象となりました。商業ギルドより()()の保護及び引渡しに関して謝状が届いています」

「詐欺師を止めるどころか片棒を担いだ冒険者ギルドの失態だ。被害に遭った御令嬢に対する損害賠償として金銭と()()どちらも準備してほしい」


 ギルドマスターと各部門長による会議の場。

 先日発覚し商業ギルドと冒険者ギルドの双方を激怒させた詐欺強盗事件の顛末が、領主家より報告書という形で届けられた。件の御令嬢も非合法の娼館に売り払われる寸前で保護されたという話で、これもまた一手遅ければ国際問題不可避であった。会議進行を担当するサブマスターが、ギルドマスターの指示に無言で頷く。


「資材調達課ですが、半島国家へ供出する白冠苺は買取価格上乗せの話が伝わったので明日以降の納品数を見て目標数値を再設定します」

「渉外課は商業ギルド経由での護衛希望する冒険者チームと複数面接をしました。収納系技能持ちがいることを前提に編成を急いでいます」

「調薬課。輸出分は別として都市内部で解熱剤の需要が高まってるから、無自覚の悪鼠熱感染者が紛れ込んでる可能性を調べてほしい」

「監査部治安維持課。都市外部の犯罪組織が人身売買に近い真似をしているのを確認。領主家より執行部隊への逮捕代行権が限定的に認可されています」


 いずれも会議前に配布された資料及び通達により各部門長は知らされた事項である。


「――では次の議題に。ええと」

「豊穣神殿のシスター・リリスより十五歳未満の童貞男子は存在自体が猥褻物陳列罪なので大至急豊穣神殿にて()()()()()()を執るべきだという提議が」

「却下の方向で」「異議なし」「異議なし」「領主家で否決された限定法を冒険者ギルドに持ち込まれても困るというのが監査部治安維持課の総意であります」


 ギルドマスターは絶句したが、各部門長は即答した。

 後日、現在独身中の女性ならびに長命種族の女性を対象にした婚活テーマパーク「わくわく年増ランド」が豊穣神殿によって開催され、ギルド査察部が乗り込むまでの数時間の間に数多の青少年達が性癖を狂わせる事態となった。




▽▽▽



 夕刻。

 迷宮出入り口より歓声と共に大勢の冒険者がギルド前にやって来た。石畳を削るような車輪の音と時々上がる短い悲鳴は、珍奇かつ巨大な獲物を仕留めた冒険者が来ると言うこと。


「主任。目測全高八メートル強、全長十二メートル。推定、岳鯨のオス。はははっすよ」


 解体現場の男性職員が、近付きつつある獲物を見上げてひきつった声で笑う。冒険者ギルドと迷宮を結ぶ道は今や野次馬と衛兵とでごった返しており、怒号さえ飛び交っている。


「先触れで来た斥候職の話じゃあ、迷宮上層部の水場に現れてカエルとか蛇を揚げたてのフィッシュ&チップスみたいに喰ってたそうっすよ」

「どっちが魚で芋なんだか」

「自分としては麦酒(エール)林檎酒(シードル)もないのにあんな胸焼けしそうなモン喰いたくはないっすわ」


 解体職員が舌をだして苦笑する。

 泥水と一緒にエサを丸呑みし、ブラシのような歯の隙間から水だけ吐き出すのが岳鯨の生態だ。鈍長須豚に近いが、岳鯨は濾し取った泥と餌を巨大な砂肝の中で磨り潰して消化する。迷宮なので寄生虫や蛭はいないものの、その臓物は強靭な筋肉質であり、防腐処理を施すと対巨獣用の機械弓の弦となったり、人造巨兵の動力伝達装置に使用される。

 肉もまたワックスのような臭みがあるため、鉄鍋で煮て鯨油を絞り出した残りカスを砕いて肥料にするしかない。その分、頑丈な皮革やブラシのような歯は武器や防具の素材として申し分なく、鯨油で煮固めた岳鯨の革鎧は非鉄甲冑という異名で珍重されている。


「実は長須豚の亜種の可能性とかないっすか?」

「仮に亜種だったとして蛇とカエルを主食にする長須豚の需要が読めないねえ」


 それだったら岳鯨の方がよほどマシだと主任は笑い、そっすねと解体職員も同意した。




▽▽▽




 冒険者ギルドの夜は静かだ。


 併設する食堂は賑やかだが、ベテラン冒険者ほど静かに食事と会話を楽しむ傾向にある。若手になるほど騒がしくなり、騒ぎの度が過ぎれば音もなく現れた豊穣神殿の自称女神官達に拉致されて己が大自然に置いて捕食される側の生物であると分からせられるのだ。


「その豊穣神殿御自慢の淫魔様が今夜はどういう訳か姿を見せないのは妙とは思いませんかねギルドマスター」

「夜間担当者が優秀なんだよ」


 珍しく定時で仕事を終えた禿頭の中年男は、酒場のカウンター越しに家族の土産にと挽肉の蒸芋包焼(コテージパイ)を注文しながら冒険者ギルドの建物に視線を向けた。

 迷宮を抱え込む性質上、冒険者ギルドは夜間も業務を続ける必要がある。そのため夜行性の一部獣人や日中を不得手とする魔族などを職員として採用することで対応している一方、緊急時の対応に備えて領主館からも職員が派遣されている。今日の担当は堅物で知られる領主家の三男坊なので、豊穣神殿の男狩りを警戒し対策をとっていたとしても不思議ではない。


「そういう事にしておいてくれ店主」

「あいよ」


 今日は夕刻に岳鯨が持ち込まれたことで、納品所に解体所は文字通り不夜城体制だ。対竜種用の大型クレーンまで引っ張り出して岳鯨の巨体を吊り上げる様子は、都市外から買い付けに来た隊商連中の度肝を抜いていた。食用に適さないと言われた時にはいろいろな意味で驚き嘆いていたが、加工品の内訳を聞いて目の色を変えていたから商業ギルドに話を持ち掛けてくるのも時間の問題だろう。




▽▽▽




 スラム街と称される区画。

 不法滞在者御用達の一時保護区と呼称されるが、その住人も様々である。前向きな連中は迷宮上層部で薬草を採集し、小型の鳥獣を狩る。食事券や温泉利用券を外部から来た隊商や冒険者に売りつければちょっとした稼ぎになるし、まじめに働けば冒険者登録を経て宿暮らしも難しくないし、商業ギルドにて定職を得て市民権再取得という道筋もある。

 後ろ向きな連中も様々である。人間関係で失敗して逃げ込んでくる連中は半ば世捨て人のような生活をしている。表に出られぬ事情を抱えて暮らすものもいる。そういった連中に紛れて法の外側から利益を得ようとする犯罪者もまた存在する。



 その男は人攫いを生業としていた。

 方法は様々で、穏やかな方法を採ることもある。もちろん、穏やかではない方法も。顧客は多種多様で、この国の王家に連なる者から言葉を頂戴したことが密かな自慢ですらあった。

 その日。男が請け負った仕事は、そのやんごとなき御方の意向が反映されたものだった。

 曰く、厄介な疫病に冒された国の御令嬢。

 特効薬を求めて迷宮都市を訪ねてきた。人道に基づき助けることは容易い。されど国益が絡めば単純に済む話でもない。仮にも国を傾けるほどの病、それを解決するための対価が荷車数台分の薬草の代金で済ませていい筈がない。

 国を滅ぼしたいわけではない。

 ただ、分からせるのだ。

 突然の病に苦しむ民草に心を痛める、それはいい。だが万が一への備えを怠った為政者が支払うべき勉強代は、相応の値が付けられて然るべきである。故に御令嬢とその御付は、為政者が成長するための犠牲となったのだ。

 ――ならねばならんのだと、直接の依頼者は男に熱弁を振るっていた。

 男としてはどうでもいい話だ。動機がどうあれ、男のやることは変わらない。騙し、脅し、奪い、売り払う。幾度か組んだ同業者と共に善意の冒険者として標的に接触、いつも通りに仕事を完了したはずだ。


 はずだった。


「半島国家にある田舎貴族と侮りましたか。現役のドラゴンスレイヤーが領主として臣民のために汗を流し、王女が降嫁して縁を繋ぐことを望んだほどの家を、たかが田舎貴族と」


 普段であれば破落戸が哀れな迷い子に暴力を振るい糧を得ているであろう路地裏が、恐ろしいほどに静かだ。

 同業者がギルドの執行部隊に捕まったと聞いて、男は即座に逃げようとした。逃げようとしたのだ。


「そんな領主が娘に託したエメラルドの首飾り。アレはね、領主家じゃあなくて()()()()()()代々受け継がれてきた代物なんですよ」


 路地裏には男しかいない。

 野良犬どころか虫さえも。地面も建物も紫色の燐光を帯びている。無意識に見上げれば星を覆い隠す分厚い雲もまた。

 耳元で囁かれるような、艶のある女の声。

 気配はない。両手で耳を塞いでも、声は男に伝わってしまう。知り尽くした筈の路地裏をどれだけ走っても、迷宮都市の外どころかスラム街を脱出する事さえできない。

 誰もいない。

 スラム街の建物という建物は扉を固く閉ざし、どれほど蹴りつけようとも窓も扉も傷一つつかない。


「ねえ、お分かりいただけます? 貴方と御依頼主様がやったこと。木っ端貴族の嫡子でもない小娘に世間の厳しさを体験させて高い授業料を請求するつもりのようでしたけど――」


 ――怒れる竜の巣から卵を盗み出したに等しい所業なんですよね。


 嘆息交じりの言葉と共に、男は前のめりに転倒した。

 両足を掴まれる感覚に首を動かし視線を向ければ、地面より生えてくる無数の「女の唇」が男の足首を甘噛みしている。悲鳴を上げようとする口を塞ぐのも「女の唇」で、何本もの舌が男の前歯をこじ開け喉の奥まで舌先を差し込んでくる。気付けば身体中を覆いつくすように夥しい数の「女の唇」が男に噛みついている。

 なんだ、これは。

 これは、なんだ。

 混乱と恐怖が正常な思考を奪う。最後に認識できたのは腰のベルトが外される感触と、どこか聞き覚えのある女の声。


「御安心くださいな、()()はこう見えても説法(リップサービス)が上手だと評判なので。きっちり天国にお送りいたしますわ」


 そうだ。

 消えゆく意識の中で、男は思い出した。

 冒険者ギルドに併設された食堂での、冗談のような忠告。


 オイタが過ぎれば、誰が来ると言っていた……?




▽▽▽




 三時間ほどの残業を終え、冒険者ギルド資材調達課の主任は引継ぎ業務を済ませた。

 岳鯨については皮革の剥離と内臓の除去が終わり、夜間担当者が解体を進めている。鯨油を煮出すための準備も並行したいが、これに関しては都市内の皮革加工業者より協力の申し出が来ているので課長の判断に従うべき案件だ。


 晩飯を食いそびれた。


 昼同様に携帯保存食で空腹をしのいだ主任であるが、酔っ払いが苦手なのでギルド併設の食堂で夕飯を食うという発想はない。賃貸の共同住宅に瓶詰の甘藍泡漬が幾つか残っていた筈なので、それを林檎酒で流し込めば最低限何とかなるだろうという思想の持ち主でもある。

 他地域はいざしらず、迷宮都市ミノスには街灯が整備されている。昼を苦手とする獣人や魔族が少なからずいるし、彼らが街の夜を営むことで治安向上につながることを領主家も認めている。それでも課題は山積みだと、立ち寄った夜間営業の露店で焼き栗を買い求めながら考える。

 と。


「シスター・フィクセン?」

「おやまあ主任殿。今宵は月が美しいですから、どうです一発そこの路地裏で」

「ごめん本気で意味わかんねえ」


 路地裏の奥から現れた上機嫌な女性神官、豊穣神殿の名物シスターがズタボロの何かを引きずりながら主任に声を掛ける。


「やあやあ、マザー・コルシカに股間を蹴り上げられた時には余生をラッパーで過ごすか毒手拳を極めるかの二択を迫られましたけどねえ。今はもう元気いっぱいですよう」

「いや普通に回復魔法使おうよ、仮にも神官なんだから」

「あははははは、ナイスジョーク」

「自覚してくれよ。次代の筆頭神官だってマザー・コルシカから聞いてるぞ」


 女性神官が引きずっているのが冒険者ギルドでも手配された件の誘拐犯と理解した主任は、夜中に魔族を敵に廻した誘拐犯にほんの少しだけ同情した。縁あって豊穣神殿の世話になっている彼女だが、魔女の住まう島出身らしく魔族の中でも特別視されているらしい。


「いやあ、マザー・コルシカはあと百年くらいは筆頭続けてるでしょうよ。それにわたし、寿退社志望なので」

「え、むりでしょ」


 反射的に主任は即答し、女性神官は笑顔のまま硬直する。

 主任に悪気は一切ない。


「ね、ねえ主任? このシスター・フィクセンがらぶらぶ寿退社が不可能だって断言できる理由を教えてもらえないかしら?」

「豊穣神殿って既婚者でも働けるだろ。保育所あるし。マザー・コルシカが君を手放すとは到底思えん、そこは諦めた方がいい」


 なし崩しで一緒に歩きつつ、主任は答える。

 時々女性神官が紙袋に手を突っ込んで焼き栗を摘まむが、拒む理由もない。


「領主家も街の治安維持に貢献している君には感謝していると聞くし、現役を続けてほしいとも思っているだろう。むしろ『結婚後も現役続けるから理想の相手を紹介しろ』ってマザーや領主家に伝えたら良いんじゃないか?」

「お、おおお」


 主任の言葉に震える女性神官。その手に握られた誘拐犯がびったんびったんロープごと幾度も石畳に叩きつけられているが、精気という精気を吸いつくされた男は悲鳴を上げる余裕すらない。


「しゅ、主任」

「?」

「つ、月が綺麗とは思わないっすかねえ!」


 問われ、空を見上げるが曇天分厚く月明りすら見えない。

 が。


吻覇(フンハ)ァ!!」


 裂帛の叫びと共に女性神官が片手を空に突き上げるや、放たれた莫大な魔力が衝撃波を生んで迷宮都市を覆う雲を吹き飛ばす。台風の目のように迷宮都市の上空のみがぽっかりと晴れて、そこから覗く月の姿は確かに美しい。

 だが雲を吹き飛ばすほどの衝撃波は当然ながら凄まじい爆発音を伴い、迷宮都市は騒然と――


【じゃかあしい手前ら、こっちは今から一世一代の告白すっから天井のシミ数えて黙ってろ!】


 ――騒然とする前に、都市住民すべての耳元に突如発生した、馴染みある女性神官のドスのきいた声に、沈黙を守る事を選択した。


「月が、綺麗っすよ、ねえ!」

「お、おおう」

「っしゃあ!」


 歓喜の叫びと共に女性神官は両拳を突き上げ、ロープの先に縛られていた誘拐犯は迷宮都市ミノスの犯罪発生率が低い理由を身をもって理解した。数十秒間の空中浮遊と、その後の自由落下によって。


「言質とったっすよ。とりましたからね、HAHAHA冒険者ジョークとか誤魔化しは通用しないですからね」

「いや、確かに月は綺麗だよね」

「はうっ! ははうはうはうはうっ! 卑怯っすよ、卑劣っすよ、鬼畜メガネっすよ、ベッドヤクザが前世だったんですね正体丸見えっすよ、もう!」

「シスター・フィクセン?」

「とりあえず残業片付けましょう! それと、友人から貰った素敵なハーブティーがあるんで一緒に飲みましょう。不眠気味で悩んでるって主任以前愚痴ってたっすからね、取り寄せました!」

「お、おお。それは有難い。迷惑でなければ是非ご相伴にあずかりたい」


 事態を把握しきれていないものの悪意のない女性神官の笑顔に、主任は安堵しつつも彼女の提案を受け入れた。

 そして。




▽▽▽



 冒険者ギルドの朝は早い。


「おはようございます、今日はギルドマスターが納品所担当なんですね。主任は――ええと、ひょっとして」

「特別業務のため当面豊穣神殿に出向するとマザー・コルシカより伝言を頂戴した」


 沈痛な面持ちのギルドマスターの言葉に、出勤した受付嬢は主任の冥福を祈ることにした。









【登場人物・用語紹介】


主任

冒険者ギルド資材調達課納品所の主任。男性。冒険者や冒険者以外が薬草や魔物を持ち込んでくる場所の人。割と目利き。商業ギルドから出向しないかと誘われたりもしている程度には優秀。解体も調薬もできる。豊穣神殿のシスター・フィクセンが無理難題ばかりいうので被害担当官として矢面に立たされることが多い。


ギルド受付嬢

冒険者ギルドの顔。美人も多いが、そうでなくても面倒見がよくて機転が利く嬢の方が冒険者の受けがいい。納品所担当だと力仕事が多く、窓口担当だと時々勘違いヤローに口説かれるので、互いに互いの部署を羨んでいる。納品所の受付嬢はシスター・フィクセンに牽制されているので主任を吞みに誘えない。


ギルド職員

調薬、解体、依頼受付、審査、鑑定などなど様々な分野の専門家が揃っている。とてもではないがギルドマスターのワンマン体制では一瞬で破綻してしまうので、下手な王都の冒険者ギルドよりも人員の質量ともに優れている。夜行性の獣人や魔族を積極的に採用し24時間体制(3交代方式)で運営可能となり、職員の残業は表向き減っている。


ギルドマスター

冒険者ギルドの偉い人。ただし肩書上の権限。

副マスターが複数名、さらに各部門長が複数名いて合議制で仕事を処理している。迷宮都市として有名なミノスでは油断していると国際問題ぶっこまれるので偉い人も苦労が絶えない。主任は幹部候補生として将来を期待されていた。


商業ギルド

割と国にべったりというか権力者側が運営しているもう一つの冒険者ギルドみたいな立ち位置。インフラ整備や雇用調整が本来の目的だが産業振興に迷宮で産出する資源取り扱いも担っている。そのため冒険者ギルドの資源調達課とは密接な付き合いをしており、人材交流も盛ん。


王家に連なる偉い人

偉かった人。国を思って、なんて言ってるけど……な人。色んな方面に一度に喧嘩を売ってしまったので、王家と言えども無罪放免にできなかった。むしろ「え、この程度ですませてくれたの」と当代国王の外交手腕が評価されたほど。


マルゴル

元冒険者で肉屋の倅。肉の熟成という一つの真理に到達し、冒険者時代に会得した魔法や技術を駆使して食肉文化の歴史をひとりで百年くらい進めてしまった偉人。そりゃ領主家も重用するよってレベル。なお肉の熟成に関して主任が協力してくれたことを今でも感謝しており色々個人的に便宜を図ってくれるらしい。


ミノス領主家

迷宮都市ミノスを代々治めている。爵位は不明だが少なくとも王家に軽んじられている訳ではない。ミノス家以外の貴族では迷宮都市を治めることなど不可能、という程度には国内貴族からは評価されている。冒険者ギルドにも協力的で、夜間営業でスタッフが不足していると聞いて伝手で色々紹介して派遣した。三男坊は融通が利かない堅物のようだ。


豊穣神殿

各地にある五穀豊穣子孫繁栄を旨とする神殿。性産業も司っており、望まぬ妊娠とか性病とか絶対許さないウーマンで構成されている。孤児院も運営しているし、DVから逃げてきた人妻も保護する。なお略奪行為に関しては審議対象。その性質上、訳あり女性が神官として勤めていることが多い。迷宮都市ミノスではマザー・コルシカを頂点とし、シスター・フィクセンら女性神官が日夜活動している。

ちなみに迷宮都市ミノスを訪れた冒険者が最初に学ぶことは「豊穣神殿を敵に廻すな」と言われている。


半島国家

南北に長く国内での寒暖差が大きいものの、その自然の厳しさが豊かな文化を生み出している。

著名なドラゴンスレイヤー・ロドリゴを輩出した国でもあり、世界各国がこの国に恩を売る機会を窺っている。そんな状況で足元見て色々吹っ掛けようとした王族がいたらしい。ちなみにそんな最悪の事態が現実のものになった場合、件の国は処刑BGMと共に宇宙の塵となっていた可能性が極めて高い。


ミノスの迷宮

牛頭巨人が奥深くで畑を耕しているという噂の迷宮。

食材、薬品、嗜好品に加えてリン鉱石とか採れてしまう。内部は栄養豊富なために魔物もすくすく育ち数が増えてしまうため、十数年ごとに適度に間引きする必要がある。これが大征伐。迷宮深部からも間引きはされているらしい。マジックアイテムはあまり出てこないが、素朴な木彫り人形や木製家具などが宝箱に入っていることもある。それらを加工してマジックアイテムに仕上げる錬金術師もいるらしい。


鈍長須豚

水辺近くに住まう豚。栗や芋が好きだが一番の好物は蓮根。巨体の割に気性は穏やかで、そのため乱獲されやすく野生種は数を減らしている。迷宮産の鈍長須豚は内臓まで安全に食べることが出来る。モツ煮が絶品。


岳鯨

水辺近くに住まう、四つ足の毛長鯨。外見は少しだけ長須豚に似ているが、大きさはまるで違う。こちらは水棲昆虫やカエルに蛇などを主な食料としている。魚も食べる。素材としては優秀だが食料にならない。岳鯨の革を加工して造った全身鎧(甲冑)は金属製のそれの実に倍近い値がつけられる。


悪鼠熱病

鼠を媒介として伝染する。致死率はそうでもないが通常の解熱剤では重い後遺症が残るため、特効薬の材料として白冠苺を必要とする。たまたま半島国家で最初の症例が発見されたが、その後の冒険者ギルドの調査で外洋航路を経由して複数の大陸で感染者が見つかった。この対処のため当面の間ミノスでは白冠苺の買取価格は高値安定が決まった。ただし白冠苺自体は多くの大陸で自生する多年草であり、春から初夏にかけて果実が採取される。


誘拐犯一味

ミノスの外で主に活動していた。とある王族を顧客に持ち色々と売ったり買ったりしていた。今回もそのノリで世間知らずのお嬢様を騙して色々やったが、いつものように騙し取ったエメラルドの首飾りを売った途端に御用となった。とある王族が引退(隠語)するまでは生かされていた模様。


武家のお嬢様

本編未登場。とある田舎貴族の娘だが、母親が半島国家の王女様でそちら経由で代々伝わるエメラルドの首飾りを所有していた。王位継承権高めですってよ。一家総出で迷宮都市ミノスにカチコミかける寸前で無事保護された模様。


マザー・コルシカ

迷宮都市ミノスの豊穣神殿を管理する女性神官。蹴鞠チャンピオン。砂鉄を詰め込んだ革製のボールを自在に蹴り飛ばして神の愛を説く。シスター・フィクセンを物理的にどうにかできる貴重な存在。迷宮都市ミノスに住む年配のヤクザ者は大抵一度はマザー・コルシカによって股間を蹴り上げられて大変な目に遭っている。


シスター・フィクセン

迷宮都市ミノス名物、豊穣神殿の女性神官。夢魔族であり、淫魔と呼ばれると機嫌が悪くなる。行動は淫魔そのものだが。魔女の島出身のきわめて強力な魔族で婚活のために大陸に移住した。フリーダムな言動が多く冒険者ギルドを訪ねては無理難題としか言いようがない提議をしてはマザー・コルシカに股間を蹴り上げられたり主任に追い返されたりしている。

結婚願望が強いが誰でもいい訳ではない。

高位魔族のみが行使できる亜空結界の使い手であり、世界を反転した上で切り離した「領域」に獲物を取り込んでしまう。

主任が好きだが逆レすると確実に責任取る性格なのを熟知していたので、向こうから口説くのを待ち続けていた。実際に口説かれたわけでもないが、我慢の限界だったんだよとは当人の弁。本人曰く得意技はリップサービス。





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― 新着の感想 ―
[一言] 処刑用BGMの単語で何故かサンバを踊りそうな上様が殺陣る時の物が脳内再生されました 島国とも東国とも書かれていないのにどうして…
[気になる点] あ、やっぱり(青い)ハーブティーは飲まされるのね… [一言] 受付嬢と共に冥福を祈っておきます。
[一言] 豊穣神殿絡みだけギャグ満載でしたなww
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