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1話

 現代に至るまで社会は進歩とともに全ての行動を契約で縛る契約社会になっていった。食事を得ることにも、住居を得ることにも、衣服を得ることは勿論、職を得ることも全て契約を元にして、契約の下で動いている。人間同士の間で交わされる契約は、当人同士の経済状況に代表されるような力関係で有利不利が発生している。だが、完全なる上位者との契約とはどうなるのだろうか、生物としてというよりも存在としての格が違う物との契約は、もはや契約と言えるのかも怪しい物だ。


 全体的に暗い部屋でぼんやりと光っている液晶に、不健康そうな顔を照らされた男も契約に縛られてここに閉じ込められていた。最もその契約を結んだ自分がどこまでも間抜けなだけだったが……思い返せば失敗ばかり、行き着く先まで来てしまったということかもしれない。


 残業、残業、眠る時間すらまともに取れないような過酷なブラック企業に勤めること10年。考えられないような簡単なミスから致命的なエラーに繋がった。人生の一部をかけたとも言える仕事も終わるときは一瞬だった。すぐさま首になった私が追い求めたのは青春時代の欠片だった。

 考えられないほど久しぶりに時間を手に入れた私だが、その時間をすごすための手段すらなかった。呆然とするだけの時間に嫌気がさした私は数年ぶりに埃をかぶっていたパソコンを起動した。昔やっていたPCゲー、これに熱中していたあの頃に戻れるような気がして。

 しかし、そんな現実逃避も許されることはなかった。気づかぬうちにサービス終了をしていたゲームは待ち望んでいた画面を移すことはなく、代わりに一枚のページが表示された。

 内容は新しいゲームのテスターになること、更にそのプレイに応じて賃金が発生すると言うことだった。要点のみを読んで、喜び勇んで同意をした瞬間にこの時は分かっていなかったが、自分のいた部屋ごと異世界に飛ばされてしまった。一つだけ言っておかなければいけないのは、ちゃんと契約書は最初から最後までしっかりと隅々まで確認しましょうと言うことだ。


Welcome to new world


 とても気持ちの悪い感覚が全身を襲った。何も変わっていないが、絶対に先ほどまでとは違う事は間違いない。その感覚が正しいことはすぐに証明された。それも最悪な形で……

 ドアは開かなくなり、窓から見える景色は真っ黒、全ての通信機器が使えない異常事態を受け入れる事はできず、最初は体力の限り暴れ続けた。壁もドアも何をやっても壊れない、クローゼットは開きすらしない。暴れ疲れて座り込みまでの間、ずっとパソコンの液晶に写され続けていた文字がじっとこちらを見つめていた。もう既に何も変わらないこの状況に暴れ疲れた私は、諦めたようにENTERキーを押した。


 画面は暗転すると監禁された状態のゲームプレイヤーへ制作者からのメッセージが表示された。


 『ようこそ新しい世界へ、新しい挑戦者であるあなたには新規ボーナスとしてクリエイターポイントを1000P贈呈します。あなたをこの世界につなぎ止めるコアを守るためのダンジョンを作ってください。あなたの健闘を祈ります。』


 一切説明をする気も、チュートリアルもないこのゲーム。このプレイヤーに全く媚びないこの姿勢がこのゲームを気に入った理由だったが、このようなわけも分からない状況では異様に神経を逆なでした。全力でテーブルに拳を振り下ろしたが、何故だがびくともしない。この部屋にある物全てが壊すことができない物に変わっていた。


 何かが好転すると信じて操作を進めるがそこにあるのはゲームの操作画面のみ、幸運にも以前自分が遊んでいたゲームシステムを踏襲してくれていたおかげで、一目見ただけで少なくとも何ができるのかは察しがついた。


『大部屋を作る』


 手慣れた動作で10Pを使う捜査を実行する。するとモニター上に新しいタブが出てきた。そこには真っ白で大きな部屋に黒い球体がぽつんと置かれ、そのほかには何もない様子が映されていた。


 「今作った大部屋だよな?」

 今までではなかったシステムの数に悪態をつきながらパソコンをいじっていく。いくつものページを開いては閉じを繰り返していくことでお目当てのページを探し出した。


 『購入』のページを開いて、眉をひそめることしかできなかった。表示されているのは僅かに三つだけ。食材や家具という欄はあるが選択することができない。そして何より期待していた解放や帰還と言った文字は一切見受けられなかった。

 達磨草、目玉メダカ、鋏海老の三種類。モンスターの欄にはあるが、はっきり言って本当にモンスターかも怪しい上、草はともかく残りの二つは間違いなく水生生物だ。こいつらを運用するには水源が必要になるだろう。予想以上の出費が求められそうな事に頭を悩ませながら、大部屋にさらに20Pを消費して水源を配置した。


 途端にあふれだした水に合わせて、更に20Pを使用して砂地に岩などを配置し環境を整える。このあたりは以前のゲームシステムと大差が無い。

 このゲームが以前と同じように侵入者を倒す物なら、戦力を確認する必要がある。そこで一通り召喚してみて、落胆のため息を吐き出した。


 まず水面にぷかりと浮かんでいる達磨草。端的に言ってただの浮き草だ。戦闘能力は映像を見ているだけでは一切感じることができない。次に目玉メダカ、ただの魚……訂正しよう小魚だ。本当にただのメダカ、きっとこれがビオトープなら綺麗に見えただろうが、そういったことは求めていない。そして鋏海老こいつは海老ですらない。おそらくザリガニだ。いや、ザリガニは海老なのか?もはやどうでも良いことだが。

 この戦力で一体何に勝てというのか?残りのポイントが900を切り、ダンジョン解放リミットに表示されている数字が残り720時間を切ったのを確認して、一旦眠ることにした。目覚めたら全てが夢だったという一縷の望みにかけて。


 狭い自室に置いてある安っぽく薄っぺらいベッドだが、そんな環境でも泥のように眠る事ができた。予想以上に蓄積されていた疲れが眠りへと誘った。

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