冒険者に不向きな男3
短剣を握る手にぐっと力をこめる俺。
その俺を、クモは鋭い口調で責めたてた。
「あんたがあたしにやったのはそういう事なのよ! あんたもそういう報いを受けなきゃおかしいじゃない! 何であたしだけ……!」
激昂しあう二人に、一人が静かに戻ってくる。
「取り消せ! 妹が死んでるなんてこと二度と……ナナツメ……?」
気付いたのは俺が先だった。
「あたしの目をダメにしたあんたにそんな口……あ……その、何?」
「……クモ、やはり言っておこうと思います」
「え、どうしたの?」
「これがあなたの希望になるかどうかわかりませんが……。アバン神の寺院へ行ってみてください」
「アバン? 確か幸運と旅人の神様?」
予言と叡智の神イーウォンに仕える僧侶ナナツメが他の神の寺院を勧めてくる。
「あそこなら再生の奇跡を起こせる高位の僧侶がいると聞いたことがあります。あなたの傷ついた左目も癒やせるかもしれません」
「ほんと!? 目さえ治れば、またダンジョンに潜れる……冒険者を続けられるってこと!?」
「……ええ。ただ……。いえ、実際にご自分で確かめてみた方がいいでしょう。……どうか、希望が共にありますように」
「あ、あの、ナナツメ……一緒には行ってくれない、の?」
「……ごめんなさい。私……そこには行けないんです。今度こそ本当にお別れです」
「そ、そっか……あ、ありがとうね! 教えてくれて! これまでもずっと癒やしてくれたり助けてくれて……また……また一緒にダンジョンに潜ろうね!」
「……ええ、そうですね」
ナナツメは結局、最後まで俺とは目を合わせないまま去って行った。
再びテーブル席には二人が残る。その内の一人が去ることにした。
「……こんなとこで立ち止まっていられない。じゃあね、疫病神!」
「おい、どうするんだ」
「決まってるでしょ? アバン神の寺院へ行く。目を治して貰って……それからどこかのパーティに入れて貰うのよ」
「またダンジョンに戻るんだな?」
「ええ。あたしはまだやれる。……あんたも好きにすれば? その……妹を探しに行くんでしょう?」
「ああ、そのつもりだ」
「……さっきは言い過ぎたわ。……見つけられるといいね」
「見つけるさ。この世界でたった一人の身内なんだ。俺もお前の目が綺麗に治ることを祈ってるよ」
「……たとえ目が治っても、あんたとは二度と組まない」
クモは立ち上がり、苦い酒亭の出入り口へと向かった。
俺は一口も減っていないエールカップを見つめる。
それから酒場の出入り口に目をやる。
残った一人も去るべき時だ。
「……行くって言って、ふらついてるじゃないか」
俺は壁に手をついて息を荒げているクモに手を差し出す。
「……あんたの……手なんか……」
息も途切れ途切れ。
「手を組むわけじゃない。ただアバンの寺院まで連れて行ってやるだけだ」
「……本当に間抜けな奴」
「寺院に行きたいのか? それとも酒場の壁に寄りかかっていたいのか?」
「……もう仲間でもない、決裂した相手が死にかけてる。なのに、あんたはまたとどめを刺そうともしないで……。何度繰り返すの? 心底呆れた」
「その口ほど足も動けばいいのにな」
俺はクモに肩を貸した。
「……あんた絶対向いてないよ」
俺達はアバンの寺院へと向かう。