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さらに数日が経ち……。
田中さんたちの痕跡を辿ることはあきらめた。
最初に私がいたと思われる場所もすぐに調査してもらったけど、足跡とか、魔力の痕跡も一人分しかなかったらしい。
あ、この世界、魔法があるらしい。
で、さすが異世界転移のお約束、オプションとでもいうように、私の魔力はかなり多いらしい。
スゴイ!やったね!って喜んだのも束の間。魔力は多いが出力することがうまくできないらしい。
だけど、スキル・ドレインを持っている人からしたら予備バッテリーとして使えるから、下手したら奴隷として捕まるかもしれないって言われた。
…こわい世の中だ…。
私の生活はなんの変化もなく、とても平和に毎日を過ごせている。
私を見つけてくれた時にいたコニーちゃんとその他若者とも仲良くなり今では森の浅いところへ木の実や、山菜を採りに毎日のように一緒に行っている。
どうも彼らは長く大きな耳、魔女のような大きなお鼻もしくはまぁるい大きなお鼻がより美しいと感じられるようで私のお顔をいつも残念なものを見るように目を細める。
平均身長も小学生くらいで、頭ひとつ飛び出ている私はいつも注目の的で、子供達からは巨人扱いでいつも会うたびに高い高いや、肩車をねだられるが…いかんせん体力虚弱なため、地に這いつくばる私を子供達が介抱するという流れになり、そこまでが遊びと認定されているようだ。
まぁ、楽しんでくれてるようで何より…。
そんな幸せな生活があっという間に崩されるまで後わずか……。
◇◆◇
「ゴベ爺、北のダンジョンのスタンピードが始まったようだぞ…しかも厄介なことに溢れたのは執念深いゴブリンだ。
キングを筆頭にジェネラル級も何体か確認されてる。しかもメイジまでいるそうだ。数は未知数だが、目撃者の証言ではククルの谷を埋め尽くす勢いだそうだぞ。
明日、明後日にはここらにも到達するだう」
「やはり始まったか。最近妙に小物の魔物が多いとは思ってたんだが……周りの集落との連携はどうだ?」
「既に盟約のとおり各所で迎え撃つ準備はでき、うちんとこの魔法部隊も各所で防壁を張り奴らをククルの谷から外れんよう誘導できてるようだ。
既に家畜や、非戦闘員の避難も開始して住民には指示を出してある。
で、だ、今回のスタンピード、ライルは出せそうか?」
「キングにジェネラル、メイジが相手じゃぁワシにもちぃとキツイな。倅には悪いがここは首根っこひっ捕まえてでも連れ出さんとなぁ」
「なぁ、ライルんとこにいるユイも一緒に出せんか?アレがいればライルの遠距離魔法で奴等の到着を待つまでもないと思うんだが」
「嬢ちゃんか…ま、戦略的にそれが一番被害もなくあっちゅう間に終わるだろうが…嬢ちゃんが倅を見て気をやらんかが心配だな」
「そこは磔にでもして…」
…なんてゴベ爺さんと自警団の上役との会話も知るよしもなく唯は今日も子供達に介抱されていた。
◇◆◇
「おう、嬢ちゃんじゃますんぞ」
相変わらずゴベ爺さんは戸口をバァーンと豪快に開けて入ってきた……
で、気がついたら目隠しをされた状態でライルさんと共に馬に乗っている…。
なんでこんな事になっているかというと、意識を刈られて拉致られたとかではなく、スタンピードで、魔物がいっぱいこっちに向かっていて、相手が厄介な分、こっちの最大戦力をぶつける事になり、ライルさんが引っ張り出される事になった。
しかし、私に姿を見られるのが嫌なライルさんはゴベ爺さんと家が半壊になるまで喧嘩しだし、騒ぎを聞きつけて奥さんが駆けつけてくれて二人に鉄拳制裁。
私に目隠しをする事でライルさんは部屋から出てきたという盛大な親子喧嘩が終幕を迎えた。
え、てか、親子喧嘩で家半壊ってどういう事??
…ま、それは置いといて、刻一刻と魔物がこっちに進行してて時間がないというのと、下手に戦力投下するより各集落の魔法部隊がククルの谷底に誘導できてる間に上から大魔法で叩きたい。と、いう事で、予備バッテリーの私とライルさんがセットで出陣する事になった。
非常事態にわがまま言うことはないけど、私が予備バッテリーで出るのいつの間にか確定でしたよね?別にいいんですけど、でも、ちょっとくらい逃げ道のお伺いが欲しかったな。と、いう訳で異世界で初バトルです。
もちろん私の目隠しはしたまま…。
視界を取り上げられるのって怖いんだよ?最初は大きな袋に詰めて荷物のように馬に括られるところだったんだよ?奥さんの一喝ですっごい妥協が今の目隠し。そんなにも見られたくないもんかね。所詮はゴブリンで、どんぐりの背比べだと思うんだけどなぁ…。
見えない状態でのお馬さん、とっても揺れるし、方向転換とかほんとに大変で辛いんだからね?
だから背中に感じる大くて硬くてあったかいからだに抱きすくめるように包まれてても全くどきりともしないんだからね。
うん、嘘です。最初に馬にヒョイっと乗せられて、あれ?なんか高い?と思ってたら後ろに乗り込んできたとき触れた感触が想像以上に大きい感じがして…トドメが耳元で囁かれた『頭を低くして小さく丸まっててください』のいい声にキュンときたけどさ。
でも、ゴブリン。色白なゴブリン。ゴベ爺さんの息子。きっと魔女っ鼻。
自分に暗示をかけながらなんとか馬から落ちないように必死に鞍にしがみつく。
並走するのはゴベ爺さん。
ゴベ爺さんは私が万一パニックを起こした時、作戦の妨げにならないように私の意識を狩る役らしい。
なんだそれ、こわい。
ちなみに、ここに来るまで私はほぼ声をあげていない。ほぼ奥さんとライルさんで話して決めて、実行されている。
ゴベ爺さんがこわい役でついてきてるのも奥さんの一声で決まった事。
この一家、奥さんが一番のボスだったか…。
そんなこんなで、目的地に着いたようで馬から下ろされた。
うん、無言でいきなり脇に手を入れて下ろすのやめてもらえませんかね…。めっちゃ怖かった。
「嬢ちゃん大丈夫か?おら、こっちにちょうどいい岩があっからこっちに座っとけ」
手を引いて寄りかかれるような岩に座らせてくれた。
「おい、ライルどうだ?こっからやれるか?久しぶりすぎて鈍ってねぇか?」
「…全体の規模がどのくらいかわからないからなんとも言えないけど、この谷の深さなら大丈夫だと思う。ただ、俺の魔力だけだと心許ないからユイさんの魔力も借りれたらな話だけど…。」
「ユ、ユイさん、お、僕に魔力を貸してもらえませんか!ええ、借りるときは手を繋がなくてはいけないし、ドレインで魔力を吸い上げるからきっと不快感もあると思うし、こんな醜い僕に触れられるなんて我慢ならないのは百も承知です!でも、ユイさんの力が必要なんです!
お願いします!この作戦が終わったらどんな罰も受けます!」
「おいおい、おめぇ「え、いいですよ。そんなお願いされるまでもなく協力する気満々で来ましたから今更ですよ」」
「「……」」
「い、いいんですか?手に触るんですよ?」
「握り潰されるわけでもないでしょ?」
「ドレインで吸い上げるんですよ?」
「それはどんな感じかやってみないとわからないけど、やらないと魔物に食べられちゃうならやっちまってください」
「ほんとにほんとにいいんですか?」
くどいから声のする方に手を伸ばし、まんまとライルさんらしき人の肩付近に触れることができた。厚みのある肩からぺたり、ぺたりと輪郭を辿って顔を両手で包み込むようにし、親指を使って顔のパーツを確かめていく。
ライルさんは石像にでもなったようにピクリとも動かなくなっていたのでやりやすい。
「あれ?お鼻がふつう?」
「嬢ちゃん、目隠ししてるからってずいぶん積極的だなぁ」
「えっ、これ、目隠し取ってもいいですか?」
「そ、それはダメです!」
あ、ライルさん復活。バッと私の手から逃れ、声の位置もなんだか遠くに感じる。
「と、とにかく、魔力の補助お願いします!僕は攻撃地点を確認しに行ってきます!」
ガサガサ草を踏みしめる音と共にライルさんは走り去っていったようだ。