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ゴブリンの正体は!  作者: カモネギ
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 はやいもので森でゴベ爺さんに拾われてかれこれふた月。

 (せがれ)さんとの初顔合わせは案の定難航した。


「ライルさーんいい加減掃除に入らせてもらってもいいですかー!」


「だ、だめです!絶対に開けないでください!ここにもこないで大丈夫ですから!!」


「わ、私を追い出すんですかぁ……ぅ、ぐす、も、森でゴベさんに拾われて、わ、私、ほかに行くところもないのに……見殺しにするんですね」


「わーっな、泣かないで!ごめんなさい!ぼ、僕が悪いですから!いつまでもいてくれていいですから!で、でもでも、こ、ここはあけられません!」


 ふふふ、いわゆる泣き脅しです。

 最初の半月くらい完璧なシカトをされ、ついにキレた私は扉の前で盛大に泣き脅した。

 泣き落としじゃなく、泣き脅し。


 ここ以外に行くところもないのに、追い出されたら森で野垂れ死ぬしかない。なんてかわいそうなワ・タ・シ。みたいなことをさめざめと嘘泣きしながら言ってみたら、びっくりするくらい反応が返ってきて、騙したことに良心がチクリと痛んだけど、泣いた瞬間に内側からドアがほんの少しだけ開き、棒に引っ掛けられたハンカチが差し出され、「ごめんなさい。でも構わないで」っていう小さな呟きが聞こえてきて……不意打ちにあまりの甘やかな低音ボイスに何故だか鳩尾あたりがキュンとしてしまって…もう一度声が聞きたくなり、今までの誠意的な対応を泣き脅しにシフトした。


 最近では、やっと声だけでなく、会話?らしくなってきてあとは顔見せだけなんだけど、なかなかこの扉を開けてくれない。

 トイレや、お風呂にもいつ行ってるのか全く遭遇することもなく二ヶ月が経つ。


「ライルさんは私の顔を見るのも嫌なんですね。

 名前も呼んでくれないし、ホントは話をするのも嫌なんでしょうね…。ぅ、うわーん」


 いや、ホント我ながらひどいダイコンっぷり・・・。

 でも、ライルさんには控えめな演技より、大袈裟なくらいの方がいい反応があるんだよね。


 あ、彼の名前はライル・ゼファーソン。28歳だ。

 で、ゴベ爺はゴルベッセル・ゼファーソン。この村の村長だ。

 28歳のライルさんを筆頭に、20歳の次男、18歳の長女、15歳の双子の次女・三女、さらに、1歳の三男、そして現在妊娠中の幼馴染で今もなおラブラブな奥様という大家族でもある。


 ゴベ爺の話ではライルさんが引きこもった原因は成人を機に、隣の集落の村長の娘と婚約することになり、作法に則り迎えに行ったら、悪漢と間違われ盛大に(ののし)られーの、婚約者だと思われる娘さんに罵詈雑言浴びせられーの、さらには複数人に嘔吐(えず)かれーの、……によるトラウマからで、特に若い女性と言葉を交わすことすらできなくなってたから、泣き脅しでも会話になっているだけ上出来なようだ。


「ユ、ユイさんが悪いんじゃないんです!

 は、話も、したくないとかじゃなくって……ごめんなさい!僕のわがままなんです!

 でもでも、ど、どんなに言われてもここだけは開けませんから!」


 うーん。今日も不発か。

 ま、引き時だわな。


「っひっく、はい、わ、わかりました。今日は諦めます。

 でも、お声が聞けて安心しました。

 またお夕食お持ちする際お声かけますね。

 ライルさん、いつか、いつかでいいので、一緒にご飯食べてくださいね…では、失礼します…ぐす。」


 いゃ〜。なんかぶりっ子っていうか、我ながら鳥肌もんでうざったい!

 こんな扉蹴破って引きずり出してしまいたくなるが、そうしたら絶対心の扉も閉店しちゃうだろうし、世の心理カウンセラーはどうやっているんだろう。

 はぁ…また出直しだ。




 ◇◆◇



 ふぅ……今日も泣かせてしまった……。

 俺がウジウジしてるのがいけないっていうのはわかってるけど、どうしても人の……あの目が怖い。


 思い出すのは十年以上前のこと。

 戦闘能力をかわれ、隣の集落の次期村長として求められたが、いざ赴くと、迎えてくれたのは穢らわしいものを見るような悪意ある視線と罵詈雑言に、泣き叫ぶ婚約者。


 ただ、みんなと姿形が少し違うだけで化け物扱いされた…。

 あの怯えた目が頭から離れない。


 ユイがこの家に来てだいぶ経つが、毎日、律儀にも声をかけてくれ、人と話すことを思い出した。

 暗い部屋に閉じこもり無気力に毎日を過ごしていた日々がユイによって陽が差し込むように、心に暖かいものを感じられることができるようになってきた。

 だが、ある日ユイが泣き出した。

 それもしょうがないとは思う。毎日、何度も何度も扉の外から声をかけ、食事を持ってきてくれたり、離れの隅々をきれいに掃除までしてくれて、俺の部屋以外はすっかり人の住む居心地のいい屋敷になった。

 それなのに俺の対応ときたら……

 一言も話すことなく、姿を見せず、ひっそりと気配し、声をかけてもらっても一切反応を返さなかった。


 そんなんじゃ、父に頼まれているユイからしたらプレッシャーやらでストレスも溜まるだろう。

 だけど、怒るでもなく悲しそうに泣くユイに…怯えではなく悲しそうに泣くユイに、柄にもなく焦ってつい声を返してしまった。

 それからは…なんだか毎日泣かれてる。

 怯えて泣かれるならほっとけるが、あの悲しそうな声、すすり泣くような声を聞くたび心臓がきゅうっと締め付けられる。

 ついつい毎回のように声を返してしまっているが……。

 まてよ、彼女、毎回泣いてる?そういえば、いつも話し終わり、帰る足音にはすすり泣きは聞こえてこないような?

 あれ…?


 でも、でもだ、いつか乞われるまま姿を見せ、まだ見ぬユイの瞳に怯えの色を写すのを見るのが…

 多分それを見てしまったらもう俺は……



 どうか俺を見ないで…。





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