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「ココは、何処でしょうか?」


まず、現場把握が優先と私は尋ねてみました。


赤い豪華なマントの壮年の男性が、じっと私を見てきますが誰も答えてはくれません。何かを見定めようと考え中のようです。


緑のマントの男性が、スっと片手をあげると、うしろに控えていた兵士が前に進み出てきました。彼の両手に大事そうに抱えられているのは、あれはなんだか、占い師が使うような大きなガラス玉……いえ、水晶でしょうか?


「……コレに触れて下さい」


兵士は緊張しながら、私達に言いました。


広間の人々がさらに注目してきます。彼らの熱い視線は、私にすがりつく女子高生に向けられています。


困った顔で女子高生が私を見上げてきます。可愛い少女です。大きな目とぷるんとした唇。若い子の雑誌でモデルもやれそうに可愛いですね。


彼女は恐怖と混乱でかすかに震えたまま、ぎゅっと私にしがみついています。ううむ、役得ですね。


私はそっと彼女にうなずきました。


「とりあえず、言われる通りにしましょう」


「えっ……は、はい……」


混乱したまま彼女は、怖々と片手を伸ばして水晶に触れました。その瞬間。


「おおっ!」


ぱあっと明るく、白く、水晶が輝きました。きゃっと可愛い悲鳴をあげて、女子高生は手を離します。


「聖女だ!」


喜びの声を、周りの人々があげました。


それから、私達は興奮する広間から出て別室に案内されました。


女子高生は、お名前をモリヤアキちゃんと名乗りました。


私は簡単に、コノハと名乗りました。


「我らが大陸はハルフェールと呼ばれています。この度、世界の危機を救うため、聖人召喚の儀式を行いました……そして貴方が呼ばれたのです。モリヤアキ様」


30畳くらいはあるだろう広い豪華な部屋で、年配の老人がおごそかに説明を始めました。


部屋の中には兵士四人と、廊下にも兵士が残り、向かいのソファにはおじいさんと、豪華なマントの三人の男性が。


ソファを囲むように騎士ぽい男性達が三人。壁際には執事かメイドらしき人が二人。


紅茶でしょうか、香りのよい暖かな飲み物を出されましたが、私は手をつける気にはなりません。アキちゃんは喉がかわいたのか、怖々と飲んでいます。


「あ、おいしい……あっ、いただきます」


「どうぞ」


素直で可愛いアキちゃんに、皆さん良い笑顔です。見守るように彼女の一挙一動を見つめます。


説明係のおじいさんも服装から身分の高さがうかがえますが、孫を見るような目をしています。


「あの……危機って、なんですか?」


「魔の森に、世界が飲み込まれているのです。数百年も前より、大陸規模で──帝国や大国とも協力して対抗してきましたが、もはや時間の問題なのです。最後の手段として、神々に神託を願ったところ……古代の失われた召喚の儀式を教えられました」


「……」


アキちゃんは、困り顔のままです。それはそうでしょう。いきなり世界の危機だとか、召喚とか言われても、なんのことやらです。多分まだ、ココが別の世界だと認識してないのでは。


「……アキちゃん、この人達は、ココが別の世界だと言っているのです。つまり異世界なのでしょう」


「えっ?」


「そして、この世界の神に願い、別の世界から──地球から私達を呼び出した、と仰っているようです」


「ええっ!? じゃ、じゃあ……地球じゃ、ないってこと? そんな! 帰してください!」


私が簡潔にまとめて伝えると、アキちゃんは泣きそうに顔を歪めて腰を浮かしましたが、おじいさんが謝罪するように頭を下げてきて、告げました。


「申し訳ない──召喚は喚ぶだけで……帰し方は神に神託せねば……」


「そんな!」


アキちゃんは両手で顔をおおってしまいました。無理もありません。


勝手に連れて来られて、帰せないなどと言われたら、不安と恐怖でいっぱいになるはずです。


「聖女様であれば、きっと神にも声が届くはず。帰り方が分かるやも知れぬ。……優秀な者をつけるので、まずは力をのばしていただきたい。不自由なく過ごせるよう、全て用意するゆえ。どうか、頼む……我らを救っていただきたい!」


「私達からも、頼む……」


「どうか……聖女よ……」


アキちゃんは手を下ろして、三人のマントの男性達と、老人を順番に見返しました。


偉そうなおじ様達に真剣に頼まれて、どうしたら良いのか分からない様子です。


「あの……そもそも、なんで私が……聖女? 私、そんな、救う力なんて」


そんな時、ドアが急いでノックされ、誰かが入室してきました。


「聖女よ! 我らにも挨拶をさせて頂きたい!」


きらびやかな青年達が三人、乱入です。兵士も騎士も、止めようと進み出たものの、勢いに負けて何もできません。


先頭の紅い髪の美少年が、おじ様達が口を開く前に、サッとアキちゃんの前に片膝をつき慣れた仕草で彼女の手を取ります。


「君が……いや、貴方が聖女様ですね。お会いできて光栄です! 私はジトラルの第二王子、ランファードと申します! どうか、貴方の手をとる栄誉を──」


いやいや、すでにしっかり握っていますし。見た目アキちゃんと同じくらいの十代でしょうに、手の早いこと。


残り二人の男子達も名乗りました。どうやら大国と帝国の王子様達らしいです。しかも、偉そうなマントのおじ様達の息子らしく──彼らは王族だったようです。


無駄にきらびやかな美少年達に囲まれて、アキちゃんは真っ赤になって言葉巧みに連れて行かれてしまいました。


おじ様達も、おじいさんも、ヤレヤレとため息です。そして思い出したといわんばかりに、やっと私の存在に気づきました。


「あー、ところで……君は」


私は居住まいを正し、私は一般人なので何も出来ないこと、おそらくアキちゃんの召喚に巻き込まれただけなので、自立できるまで厄介になりたい旨を伝えました。


「そうか……巻き込んでしまい、済まなかった。客人としてもてなそう。ふむ、一応、魔力判定をさせて頂きたいがよいか?」


うなずくと、しばらくしてあの水晶が運ばれてきました。私がちょいと指先で触ると、かすかに赤く光りました。


「どうやら、火の属性に適用があるようだ」


「そうですか」


「……では、客室に案内させよう」


「すみません、しばらくお世話になります」


若いメイドさんに客室まで案内していただき、私はやっと──一息つきました。


さてさて。これからどうしましょうか?





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