冒険者ギルド
それから更に歩いて、僕達はようやく城壁の所まで辿り着いた。
門の所には警備の兵士が立っている。
「男達はあの人達に引き渡しちゃえばいいわよ」
「分かった。………あの、すみません。盗賊を捕まえたんですけど」
兵士さんは僕が一人で五人も引っ張って来たのを見てぎょっとした顔をしたが、アイリスの説明を聞くと、
「ご苦労だった。あとはこちらで引き受けよう」
と言って、仲間の兵士と共に男達をどこかへ連れて行った。
ようやく城壁の中に入ると、そこに広がっていたのはいかにも西洋ファンタジーっぽい街並みだった。
猫耳や尻尾が生えた獣人と呼ばれる人々も結構いる。
「よーし。じゃあ冒険者ギルドに向かいましょう!今回はトロールを三体も討伐したんだから、報酬は弾むわよ!」
「冒険者ギルドはどこにあるの?」
「街の中央部にあるわよ。そこでトロールの死体を渡して依頼完了ってわけ」
冒険者ギルドの近くはたくさんの冒険者と思しき人達で賑わっていた。気のせいかもしれないが、なんか周りから視線を感じるんだが。
フィオレとアイリスは慣れた様子で中に入って行く。
中に入ると、ギルドの係員と思しき人がフィオレ達に駆け寄って来た。
「良かった!無事に帰って来れたんですね!あのパーティーの人達はあまり評判が良くなかったので、心配していたんです!………って、あれ?あのパーティーの人達は?あと、そちらの方は?」
「私達、トロールを討伐した後取り分をけちられそうになったんです。それで襲われそうになった時、こちらのミカエルさんに助けてもらって」
「ミカエルと言います。先に言っておくと男です」
それを聞くと、ギルドの係員は驚いた顔をした。やっぱり………。
「そうなんですか!てっきり女性だと………。あ、彼女達を助けてくださってありがとうございました」
「いえ、たまたま通りかかっただけですから。それに彼女達にここまでの道案内もしてもらったので、おあいこです」
「私達ね、ミカエルとパーティー組むことにしたの!ミカエルすっごい強いのよ!」
「そうですか!フィオレさんとアイリスさんはまだ新人さんですし、手慣れた方をパーティーに入れるのはいいかもしれませんね」
「………いや、僕冒険者登録をしていなくて………」
それを聞いてギルドの係員はまた驚いた。今日一日で、一体何回他の人を驚かせてしまっているのだろう。
「そうでしたか!まだ、ということはこれから登録されますか?」
「はい。先に彼女達が倒したトロールを出しますね。………『ストレージ』」
台の上にトロールの死体をどかんと載せる。
台はかなり大きめだったが、トロールのでかい図体は少し台からはみ出していた。
「おぉ………『ストレージ』を使えるんですね………はい、確かに受け取りました。こちらが報酬の金貨になります。本来ならその捕まったパーティーの人の分も含めて金貨7枚なのですが、お二人しかいませんからまとめて受け取ってください」
「やったぁー!大金よ、アイリス!」
「そうだね!今日は美味しいもの食べられそう!」
へー。金貨7枚は大金なのか。ここでの貨幣感覚にも慣れていかないとな。
「そうだ!ミカエル、これあげるわよ」
そう言ってフィオレは金貨一枚を差し出して来た。
「えっ!いやいや、大丈夫だよ。そもそも僕はトロールを倒してないし」
「そんなこと言わずに受け取って下さい。これはお礼の気持ちです」
「い、いや、でも………僕あんまりお金いらないし、大丈夫だよ。それに自分で倒して来たモンスターの分もあるから」
僕は食費もいらないし、宿代も別にいらないから、お金の使い所が本当にないんだよなぁ………。
「あら、そうなんですか?でしたら登録を済ませた後にこちらで買い取りますよ」
「ほら、こう言ってるし。だからそのお金は二人が持ってて。ね?」
納得したのか、フィオレはしぶしぶ手を引っ込めた。
「分かったわ。まあどうせこれから一緒に依頼をこなしていくしね」
「そうしたらちゃんと分け前は等分ですよ?」
「あぁ、分かってる。それじゃあ登録の方、お願いできますか?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
僕はカウンター方へ連れていかれた。
「まずこの紙に名前、年齢、職業を記入して下さい」
言われて僕はペンを借りて記入した。
この世界の文字は当然前にいた世界とは異なるものだ。フランさんに教えてもらって、この世界に来てから覚えた。この辺、神様補正はなかったな。なんでだろう。
名前は「ミカエル」と。年齢は………十四歳位でいいか。絶対十歳って言っても信じてもらえないし。
すると横で記入するのを見ていたフィオレが声をかけてきた。
「へぇー。ミカエル、私達よりも年下なのね。大人っぽかったし、ちょっと意外だわ」
「そっか。二人は何歳なの?」
「私達は十五歳です。一年だけ年上ですね」
うーむ。本当は五年なんだけどね。
次は職業か。
………僕の職業って何だ?
剣を使うなら剣士、魔法を使うなら魔法使い、みたいな感じだろうけど………。
困った僕は二人に聞いてみることにした。
「職業、何て書けばいいと思う?」
「『魔術師』でいいんじゃないの?」
あ、魔法使いとは言わないのね。
「でもミカエルさん、槍みたいな武器も使ってましたよね?魔法と剣の両方を習得した『魔法剣士』っていう人達なら稀に見ますけど………」
「ミカエルは何の武器を使えるの?」
「えーと、剣でしょ、矛でしょ、槍でしょ、ナイフでしょ、それから………弓矢にハンマー、あと斤とかかな」
フィオレもアイリスもギルドの係員さんも、目を点にしていた。
「何よそれ………大抵の武器は使いこなせるってこと?」
「魔法が使えるのに武器の扱いも得意なんてすごいです!」
「私もギルドに勤めて割と長いですけど、そんな人なかなか見ませんよ」
やっぱりそうだよね。フランさんは、
「武器を一種類しかしか扱えない戦士など、パン屑よりも役に立たんわ」
と言っていた。パン屑とはなかなかのラインだと思う。
「結局何にしたらいいのか迷いますね………職業の一覧表とかってありませんか?」
「ありますよ。こちらになります」
係員さんに言って出してもらった表には、ずらっと職業が並んでいた。
悩むこと1分ほど。
「まあ無難に『魔術師』にしておきます。別に『魔術師』だからって、武器を使っちゃいけないわけじゃないんですよね?」
「もちろんです。あくまでただの職業名ですから」
「安心しました。じゃあお願いします」
「はい、では登録しますので少々お待ち下さい」
係員さんはカウンターの奥へ行って、しばらくすると戻ってきた。
「こちらがミカエルさんのギルドカードになります。ギルドランクは依頼をこなして評価されると上がっていきますよ。最初は皆さん、Fランクからスタートです。頑張ってランクを上げてくださいね」
「はい、頑張ります」
「もしカードをなくしたりしてしまった際は、近くのギルドまで行けば再発行できますので。手数料が少しだけかかりますが」
やっと手に入れた身分証。なくさないように気をつけないとな。
「分かりました。じゃあ早速なんですけど、持ってきたモンスターの買取をお願いしても?」
「もちろんいいですよ」
「あの、ちょっと大きめなので別の広い場所がいいんですが………」
「でしたらギルドの倉庫の方で見せて頂きましょうか。こちらへどうぞ」
「ありがとうございます。じゃあフィオレ、アイリス、少しここで待ってて」
「オッケー。いくらで売れたか教えるのよ!」
「高く売れるといいですね!」
「うん。じゃあまた後で」
僕は係員さんについてギルドの倉庫へ向かった。
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