出会い(1)
僕とフランさんが住んでいたのは森の奥地だったようで、王都までは普通の人間が歩けば二日はかかると言っていた。まあ僕は魔法で飛んで行けば一瞬で着くのだが、飛行魔法を使える人間は極めて少ないようなので、脚力強化の魔法だけ使って森を駆け抜けることにした。
道中何体かモンスターに出くわしたが、全てワンパンチで仕留め、収納魔法『ストレージ』を使って保管する。王都に着いたら売るつもりだ。
そうして森の五分の四を過ぎたあたりだったか、近くで人間の声がした。思えばフランさん以外だと十年振りに聞く人間の声だ。
ちょっと横道に逸れて覗いてみると、二人の女の子が五人ほどの男に囲まれていた。
「どういうことよ!狩ったモンスターは山分けって約束したじゃない!」
「おいおい、あんな口約束本気にしてたのか?お前らなんかにやる訳ないだろ?」
彼らの近くには、トロールが三体倒れていた。トロールは世間一般で言うと、普通に強い部類に入るとフランさんは言っていた。でも僕が最初に相手をさせられたモンスターは、トロール五体だったなぁ………。フランさんよりも遥かに弱かったから何の問題もなく倒せたけど。
って、過去を悠長に思い返している場合ではなさそうだ。話を聞いていると、どうも少女達と男達はもともと同じパーティーではなく、このトロールの討伐で一時的に組んだだけのようだ。
それでもともとは成果を山分けする約束だったのを、男達が反故にしようとしているらしい。
………いきなり厄介事か。まあ人間だった頃からトラブルを引き寄せる体質ではあったけど。
見過ごすこともできないし、助けるか。
「お取り込み中の所すみません」
急に現れた僕に、少女達も男達も驚いている。
「な、何だ⁉︎お前は!」
「えっと、ただの通りすがりですが………」
「はぁ?この森にそんな装備で、しかも手ぶらでいる奴があるか!」
いや、あるじゃないか、今目の前に。まあ確かに僕みたいに真っ白い布を一枚纏っただけで、荷物は一切持っていない人なんて少ないだろうけど。
こちらに転生してから気づいたことだけれど、僕は神様だからか飲まず食わずでも全く寝なくても一切支障はない。だから食料は持って来ていない。武器だって魔法で作れば持ち歩く必要がないから持って来ていないのだ。
まあそんな事情が初対面の彼らに分かるはずもなく。
「まあ、そんなことは気にしないでください。それよりきちんと彼女達に取り分を与えるべきでは?最初にそう約束していたのでしょう?」
「うるせぇ!誰だか知らねぇが、関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」
「すみません、それは出来かねます。女の子がよってたかって嬲られるのを見ている趣味はないので」
「あーもう!面倒くせぇ!おい、お前ら、あの女捕まえろ!」
痺れを切らしたのか、男達のリーダーと思しき奴がそう叫んだ。いや、僕男なんだけど。
女の子達を取り囲んでいた男達の内、二人が僕の方に走って来た。二人とも手に剣を持っている。
正当防衛するか。
「『氷矛』」
僕は氷でできた矛を作り出した。僕が一番よく使う武器だ。
近づいて来た二人を一振りでなぎ払う。
「うおっ!」
「ぐべっ!」
男二人は軽く吹っ飛んで木に叩きつけられる。まあ手加減はしたから死んではいないだろう。
「あ、あんにゃろ………」
おっと、リーダー様の怒りを買ってしまったみたいだ。
「おい!お前ら!その女達はもう殺しちまえ!こいつらもぶっ殺してずらかるぞ!」
それを聞いて二人の部下は、女の子達に矢を放とうとした。
「『アースウォール』」
地面が急速に盛り上がり、矢を防ぐ盾となる。これで少女達は安全だろう。
そしてリーダーの男は、僕に魔法を放とうとしていた。
「『出でよ炎!かの者を貫け!ファイアラ………』」
「『フリーズ』」
リーダーの男は、詠唱を省略して魔法を撃つことができないようだ。もっとも、この世界ではその方が普通らしいが。
僕の放った魔法で、リーダーの男は見事に凍りついた。
あと二人だな。
「『ショックボルト』」
突如として土壁が現れたことに動揺していた男二人に、雷属性の初級魔法を喰らわせた。こちらも手加減したので死んではいないはずだ。
「よし、片付いたな」
僕が彼らの前に姿を見せてから、三十秒も経っていない。まあ最初にしては上出来だろう。
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