異世界へ
意識が戻る。
光が眩しい。ここは………どこだ?どうも僕は地面に寝っ転がっているらしいが………。
起き上がろうとして、僕は体の異変に気が付いた。
手小さっ!足短っ!どうやらここでの生活は赤ちゃんからスタートするらしい。
周りを見渡すとたくさんの木が生えている。森のようだが………僕はどうすれば良いんだ?赤子一人で生き抜けと?
そう思っていると、近くから足音が聞こえてきた。見ると人がこちらに歩いてくるようだ。
「あぅー!あぅー!」
助けを呼ぼうとするが、まともに話すことができない。めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。
だが僕のことに気が付いてくれたようだ。足音がさっきよりも近づいて来た。
「おやおや、こんなところに赤ん坊が。どうしたんだい、お前さん?」
足音の主は、禿頭で立派な真っ白い髭を蓄えた老人だった。
「このまま置いていくのもなんじゃしのぉ………お前さん、ワシの所に来るかい?」
「あう、あうー!」
だめだ。「はい、行きます」と言いたいのにまた言えなかった。だが老人は僕の気持ちを理解してくれたようだ。
「そうかい、そうかい。では行こう。………お前さんは天からの贈り物かもしれんのぅ………」
老人は僕を抱き抱え、森の奥へと進んでいった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから僕はその老人に育てられることになった。僕のこの世界での名前はミカエルだ。
老人の名前はフラン。この森にたった一人で住んでいるらしい。僕は彼を「父さん」と呼んでいる。
自分の過去について、フランさんはあまり話さなかったけれど、言葉の端々から推察するに、フランさんはこの世界の英雄みたいな人のようだ。
その証拠に、彼は色々なことを僕に教えてくれた。剣や槍、弓の扱い方、魔法の使い方などはもちろん、有用な薬草の見つけ方、逆に絶対に口にしてはいけないもの、この世界にいるモンスターの種類まで。
フランさんがこんなところで隠居しているのは、周りの人達との人間関係に疲れたかららしい。だが自分の持つ技術を誰かに伝えたいという思いはあったようだ。そしてそう思っていた時に僕を見つけたのだという。
体が既に人間のそれではなくなっていたからかもしれないけれど、僕はフランさんが教えてくれる知識をスポンジのように吸収していった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして僕がこの世界に来てから十年が経った。
僕は十歳とは思えないような見た目に成長していた。初めて会った人なら、僕のことを十五、六歳だと思うだろう。神様だから成長が早いのだろうか。
そして見た目は前の世界とは全く違う。
毛がほとんど生えておらず、真っ白い肌。
男にしては細すぎる足。
腰ほどまで伸びた、水色の髪。
自分で言っていると、ナルシシストみたいで嫌だな。でも鏡を見ても、未だに「これ誰だよ」と思う。完全に別人だ。いやそもそも僕はもう人ではなかった………。この見た目は、多分美の女神の力が影響しているんだろうけど、ぱっと見は女性だよな。
別に見た目ばっかり変化していた訳ではなく、武器や魔法の扱いにも、だいぶ熟練した。何せフランさんと一対一で稽古するのだが、全く手加減してくれないのである。嫌でも強くなりますよ、そりゃあ。
まあおかげでこの森にいるモンスターなら、五十体位を一度に相手取っても鼻歌を歌いながら瞬殺できるようになった。ちなみに五十体以上はまとめて襲いかかって来たことがなかっただけで、たぶんそれ以上の数が来ても大丈夫だと思う。
そんな感じで成長して、僕はそろそろ森を出て、この世界を見て回りたいと思うようになっていた。一応この世界に派遣された神様な訳だし。
そして今日フランさんにそれを話した。
「そうかそうか。まあいいんじゃないか。今のお前さんの実力なら、生きていくのに困りはせんじゃろう」
「本当ですか!」
「うむ。ずっとこんな森の中でワシと過ごすのも退屈じゃろう。行っておいで。………ワシはまたちょいと寂しくなるがのぅ………」
「なるべくここにも顔を出すようにしますよ。僕も父さんに会えないのは寂しいですから」
次の日、僕は一番近くにあるというエテルニタ王国の王都に向けて旅立った。
ようやく神様への第一歩を踏み出したのだ。
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