プロローグ
僕は海神千春。少し頭が良いだけの、普通の高校生だ。
そのはずなんだが。
僕は今ショッピングモールでテロに巻き込まれている。友達と休日に買い物に来たら、最悪なことに日本国内に潜伏していると言われていたテロリスト達が、このショッピングモールで無差別銃撃を始めたのだ。
当然僕の友達もパニックになった訳だが、僕は自分でもよく分からないくらいに落ち着いていた。
友達に指示を出して、モールの外に他の客を誘導させ。その辺の商品を駆使してテロリスト達を分散させて、数人を拘束した。今僕は頭が良くて良かったと心の底から思っている。
そして残るは一人のはず。外へ出る人の何人かに声を掛けてテロリストの人数を確認したから間違いない。
そしてこのショッピングモールの中にいる一般人は、僕と人質だけだ。人質はさっき目視で小さい子供一人だと確認した。
本当は僕も逃げるべきなんだろうけれど、それはできない。
今テロリストも僕も最上階にいるのだ。ショッピングモールというやつは、ずらっと店が一列に並んでいる。だから下に降りようとしたらテロリストに気づかれる可能性があるのだ。
だがこの状況ではテロリストはジリ貧が確実。警官隊も着々と入ってきているようだし、このままいける。
そう思ったが。
僕の目にとんでもない光景が飛び込んできた。
テロリストの死角から、若い女性が忍び寄っていたのだ。
良くない。これは非常に良くない。
そこで僕ははっと気が付いた。
「まさか………人質の家族とかだったりしないよな………」
十分あり得る。目の前で家族が人質に取られていたら、逃げる事はできないのが人情だろう。相手は一人で近くまで忍び寄ることができるというのなら尚更だ。
年齢から考えて………母親か、歳の離れた姉妹といったところか。
そんなことを考えている間にも、女性はじりじりとテロリストに近づいて行く。
「何をしているんだ………戻れよ………!」
僕は無意識に呟く。
だがそんな声は女性に届くはずも無く。
彼女はとうとうテロリストに飛びかかった。
死角からの不意打ちに、テロリストは思わず抱えていた人質の子供を投げ出す。
「なんだお前!」
テロリストと女性はもみあいになった。距離が近すぎてテロリストがライフル弾をぶっ放さないのが唯一の救いだ。
僕は飛び出してテロリストの首に蹴りをくらわせた。それにしても習っていたキックボクシングがこんなところで役に立つとは。
「ぐぁっ………!」
後ろからの不意打ちにテロリストがライフルを取り落とす。
よし、今がチャンスだ。一気にタコ殴りにして片を付けよう。
そう思ったのだが、またまた最悪な事態が起きた。
テロリストが懐から拳銃を取り出したのだ。
僕は一気に間合いを詰めてテロリストに体当たりをしつつ、拳銃を持っている方の腕をひねり上げようとする。
だが拳銃に気を取られていたのがいけなかった。
テロリストの空いていたはずの手には、鈍い光を放つナイフが握られていたのだ。
「っ…………!」
ナイフは僕の腹に深々と突き刺さる。
「このクソガキが………手間かけさせやがって………」
テロリストは拳銃を俺の頭に向けた。
一瞬女性がライフルをぶっ放してくれないかと期待したが、彼女はへたり込んでしまっている。
「終わりだ!」
「どうだろうな………」
「何ィ?」
こんなところで僕だけ死ぬ訳にはいかない。ここまでやったからには。
「お前、シャーロックホームズ読んだことあるか………?」
「あ?………何言ってんだお前?とっとと死ねぇ!」
テロリストが引き金を引く。その直前。
僕はテロリストの体に抱きついた。
そしてそのまま後ろに下がる。
「んなっ………!ま、まさかお前………!」
ようやく気づいたか。
なぜわざわざ拳銃を奪おうとした時に、極端なまでに距離を詰めて体当たりをしたのか。
それは。
この男の体を吹き抜けに近づけるためだ。
ここから僕がとるべき行動は明白。
「チェックメイトだ………!」
女性が僕の方を呆然とした顔で見ている。
僕は彼女に微笑みかけ。
テロリストと共に吹き抜けを落下した。
「このクソガキがぁあああああああああ!」
男の絶叫が響く。
僕の頭をこれまでの思い出が次々と過ぎる。これが走馬灯という奴か。
あぁ。短い人生だったなぁ。
父さん、母さん、親不孝な息子でごめんなさい。
何かがドスンという音を聞くと同時に、僕の意識は途絶えた。
毎日1話ずつ投稿していけたらと思います。
よろしくお願いします!