謎の美少女平民転校生
素直になれない誇り高き令息が極貧メイドの事が好きすぎるお話です。
誰もいない部屋で大好きな本のページを静かにをめくっている。
『天下平定』という本だ。
これは簡単に言うと虐げられていた平民が国王に成り上がって天下統一し、前王女をメイドにする話だ。
あああぁぁ!俺もかわいいメイドが欲しいよぉ!おじちゃん執事やおばちゃん家政婦じゃ嫌なのぉ!
そんなことを思いながらずっと本を読んで本の中の世界にずっとインしていたい。しかし現実には時間がどんどん過ぎていき、ついには行かねばならん時間となった。
時間通りに執事が呼びにきた。
「ボッチャマ…時間です」
「フッ、待たせたな、じい」
いつも通りのやりとりをして俺は黒塗りの高級車に乗り、魔法学園へ向かう。
俺はタクト。俺はクールな貴族の学園生だ。金持ちの家に生まれ、優雅に本を読み、女の子からはイケメンともてはやされ、頭も身体能力も魔法も学年トップ、誰も寄せつけない凄みを持った、生まれながらにして勝者、その後の人生の勝利も約束された、まさに貴族の鑑のはずなんだ。
ふと外を見ると、満開の桜が咲いていた。
今日から新学期か。この学園での生活も2年目だな。
そう思って一番後ろの窓際の左から2番目の席についていると、ホームルームが始まった。俺の隣の席が空いている。おいおい、新学期早々遅刻か?欠席か?
新担任の先生が入ってくる。
「ホームルームを始めます。では前回の委員長、タクト君。号令をお願いします」
「では朝礼を始めます。全員起立!礼!着席!」
「え〜、ではさっそくですが転校生を紹介します」
教室がざわつき始める。楽しみ〜とか、面倒くさいとか、男子か女子かとか、イケメンか、はたまた美少女かなどなど、色んな話が飛び交っている。途絶えそうにないので先生が流れを切る。
「静かにして下さい!え〜、では転校生入ってもらいます。どうぞ」
ーーガラガラ
教室のドアが開く。そこには見た目麗しい美少女がいた。
「はじめまして。レナ・ポープル・マーメイドといいます。レナとお呼びください」
ぺこりとお辞儀をすると拍手喝采。特に男子の声がうるさい。もちろん質問タイムで質問責めにあう。
「ヒューヒュー!かわいいねー!彼氏いる?付き合った人数何人?彼氏いたことあんの?」
「いないです。いないです。ないです」
「うおおおぉぉぉ!!」
男子から歓声が上がる。
「どんな人が好き?俺とかどう?」
「わかりません。無理です」
「じゃあ俺は?俺魔法で二位の成績取ったんだよね。良ければ後で教えてあげるよ」
「無理です。そうですか。必要ありません」
答えを聞いて男子はいきなりは無理だと悟ったのか、すっかり意気消沈してしまっていた。
代わりに女子が質問しにいく。
「好きな食べ物は?」
「タンパク質です」
それは食べ物か?
「じゃあ好きな魔法は?」
「圧倒的に獄炎系魔法」
「なんで好きなの?」
「何にでも使えるから。特に調理の時に重宝する」
「あーわかるぅ〜」
さて、俺も元委員長として質問しておくか。ここは志望理由を問うべきかな。編入してまできたかった理由…
「レナさんはなぜ編入してきたのですか?」
「極貧生活を抜け出したかったからです」
「えっ、レナさん貴族じゃないんですか?」
「はい、一般平民です」
一般平民と言った瞬間、教室が静まる。
担任の先生が締めくくる。
「じゃあ皆さん、仲良くしてくださいね」
「よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をした後、転校生はこちらの方へ…歩いてくる。そして俺の隣に座った。
その後、普通に朝礼があり、いろいろ説明をしていたがよく覚えていない。なぜならその隣に座った転校生は蜂を捕まえて毒針が出入りするのを真剣に見ていたからだ。
ちょっとー!何してるんですかこの人ー!
声に出そうになったが、俺はみんなに好かれるクールな貴族だ。そんな下品な声は出さない。
「ナイスキャッチだね、レナさん」
「…どうも」
「それをどうするんだい?」
レナは毒針が出るタイミングを見計らっていた。
出たタイミングで毒針をつかんだ。
「針を抜きます」
といい、毒嚢ごと引き抜いた。
何をしてるんだ、この女は……
そのままどうするのか見ていたらそれを燃やし始めた。
「おい、教室で燃やすな!」
「うるさいよ、タクト君!」
先生に注意されてしまった。はっ。いかん。俺のクールなイメージが。いや、これはこの女の頭がおかしすぎるから構わないのか?混乱しているようだ。一旦深呼吸をしてから隣を見てみよう。
スー、ハー、スー、ハー。
ーーバリバリ。なんだこの音。
隣を見ると転校生は蜂を食っていた。
「……。」
もう声も出ない。その一連の行為は貴族で高貴な身分でいつも料理のうまい専属コックが作っているものしか口に入れたことがない俺には不可解すぎた。
食った後、何事もなかったかのように平然と窓際の風に黄昏れていた。
ーーこいつ、やべえ。
まだ捕まえて殺すところまでは理解できるが……食べるのは完全に分からん。こいつとはあまり関わらないでおこう。
休み時間中は俺の周りは静かだった。基本俺の周りに人は寄りつかないし、俺は誰ともつるまない。なぜなら俺は皆から一線を引いた、超クールな存在だから。
しかし隣の女は俺の隣を離れない。かといって誰かと会話していることもない。多分平民って事で差別されてるんだろうな。ここの学校は普通貴族じゃないと入れない。入学するだけでも相当金がかかるし、毎月支払う授業料だって馬鹿にならない。この転校生も相当な成り上がりでもない限り入れないだろう。
なんか衝撃的すぎてお腹が痛くなってきた。俺はトイレに行くことにする。すると教室の外でヒソヒソ話がなされていた。
「あの転校生、平民とかあり得ないよな」
「貴族をなんだと思っているんだろうね」
「ほんとだよ。平民風情と一緒にしないでいただきたいものだね」
「教室別にしてくんないかなぁ」
そんな声が聞こえてくる。そんなことどうだっていいじゃないか。それよりそな辺の蜂炭化させて食べてる方がびっくりだわ。
「あっ、タクトさん、あの平民転校生、あり得ないですよね。貴族と一緒の教室に入れないで欲しいですよね」
「ほんとそれ〜。タクトさんも隣の席なんてお気の毒に」
「あいつ、この教室にいられなくしましょうよ」
冷たいものだ。さっきまで美少女だって騒いでた男子たちが全員追い出そうとしている。そんなやりとりを見てついポロっと出てしまった。
「はあ、アホくさ」
「まあ、考えるのもアホくさいような存在ですよね」
いや、そういうことじゃ…まあいいか。俺はクールに放尿しに行くんだ。邪魔しないで欲しいが…
「それで、今みんなであいつの尾行して平民の生活のお勉強をしようという話になってるので、よければタクトさんも一緒に行きませんか?」
一同が笑う。こいつらは止めても行くだろうな。なら、せめてイキスギた行動をしないように委員長として見張っておくべきか。
「では一緒に行こう」
そう言い残し、トイレへ颯爽と向かった。
授業中、隣の転校生はずっと窓際で黄昏ながら黒板を見ていた。教科書も机の上に出さず、ノートを取らない。黒板に書かれたことをただひたすら食い入る様子もなく眺めていた。
昼食の時間になったとき、教室を出ていった。弁当組と学食組に別れるが、彼女は学食らしい。まあ、クールな俺は専属コックに専用弁当を作ってもらっているがな。
そしてそのまま時間が過ぎ、放課後。
俺たちは尾行するために校門に張り付いていた。こんなに人が集まるものなのかと驚いたが、まあ美少女と平民という貴族である人間からすればパワーワード、気になる人も多いだろう。
ーーそして彼女がきた。内心興味がある。俺には上記パワーワードに加えて蜂捕まえて食った姿を見た衝撃がある。決して馬鹿にするつもりはない。誇り高き伯爵令息の俺はそんなことで卑しい思考をしたり行動したりをすることはない。しかし、興味があるというのは否めなかった。見張りつつ、ちょっとだけ彼女の裏の世界を見てみよう。
言い出しっぺが号令をかけた。
「よし、行こう」
俺たちの尾行が始まったのだ。