創生
あれから何時間が経ったであろうか、仁とヴィクトルは蚩尤の攻撃を消しては反撃するを繰り返していた。
片や蚩尤はいらいらしていた。攻撃を加えても当たらず近くに寄っていくと逃げていく。まるで闘牛士が闘牛を軽くいなす様に自分の攻撃が流されていく。その見事な連携で攻撃を加えてくるこの2人にいささか手を焼いていたのだ。
そして蚩尤はややこの攻防に飽きてもいた。というのも当初から放った魔力がどこに消えているのか謎だったからだ。そこであえてその場所を突き止めるべく、単調な攻撃を加え続けそのエネルギーの行き先を長い時間をかけて調べていたのであった。
そんな頃、自分のオーラの核に、ドン、という反応があった。それは立て続けに三回あった。それは自らの僕が一つまた一つと消されていく感覚であった。
動きを止める蚩尤、そして徐々に怒りを露にしている。それに合わせ仁とヴィクトルも動きを止めた。蚩尤が、
「人間ども・・・・よくも我が僕どもを葬りよったな・・・おのれーーーーー!」
けたたましいまでの怒りの波動が蚩尤を中心に爆発する。その爆風が仁とヴィクトルを襲う。仁は亜空間へ退避するが、ヴィクトルはその衝撃風をもろに受けなす術もなく流波山に叩きつけられたのだ。
ヴィクトルは既に限界に達していた。この長い攻防で善戦はしたものの、無限の魔力を持つ者同士の戦いに自らの限界を意識せざるを得なかった。手に持つ九星槍を再び握ろうとするが、もはや力は入らなかった。
そしてかすれ行く意識の中、白いハンカチが遠くにヒラヒラと舞っているのを見て意識を失ってしまうのであった。
仁は亜空間で息をひそめている。この空間の中には数万個の蚩尤が放った魔力エネルギーが球状になって浮遊している。下の方を見ると蚩尤が顔を左右にさせながら仁の魔力を追おうとしていた。そして流波山にはめり込むようにたたきつけられたヴィクトルが苦悶の表情のまま意識を失っているのも見えた。
仁は静かに目を閉じ、あるタイミングが来るのを待ち続けた。
蚩尤は上空を見ている。そして流れるかすかな魔力さえその感覚に受け止めようとしていた時、ごくごく微量に流れる仁の魔力の流れを感じることができた。目を見開いてそのかすかな流れを追う蚩尤。するとその流れが空間の一点から垂れてきているのをわずかに感じることができた。
笑う蚩尤、その笑い声は時空を揺らし仁のいる亜空間にまで伝播して浮いている魔力球を揺らすのであった。その結果、魔力球同士が擦れ合うことにより発生した、ごくごく微量のエネルギーの波動の伝播が仁のいる亜空間から蚩尤のいる時空へ伝わってしまった。
自分の魔力の波動をようやくつかんだ蚩尤は、自らの魔力が消えた先を正確に把握した。その瞬間、蚩尤の姿が消える。
仁は目の前に凄まじいエネルギーが溢れているのを感じ目を開けた。そこには、邪悪な笑みを浮かべる蚩尤が、重なり合う魔力球のその奥に浮いているのが見える。
「ようやく見つけたぞ人間。人間の割には神のみが可能な秘術をよくぞ使った。そのことだけは褒めてやろう。だがこれまで!」
蚩尤がその言葉を発した瞬間、周囲の魔力球を瞬時に仁の方へ飛ばす。
仁はこの時を待ち続けていた。世界とは例えるならば、薄い紙が重なっているようなモノで、その一枚一枚に時空を持つ世界がある。だが、その紙の中の世界は他の紙の世界には原則としては 行けないのだ。だが、極稀に仁のような魂がその時空の狭間を飛び越えてしまう。これが俗にいう転生である。
また、この時空同士の間に新たな無の空間、それを亜空間という、は神のみが創りえるのであった。亜空間は無であるがゆえ、何が起きても他の時空への影響はない。ただし、仁がそうしたようにわざとそのエネルギーをもらすことは可能である。そこで、この亜空間にわざと蚩尤のエネルギーを蚩尤が判別できるギリギリのところで流し、蚩尤をこの亜空間の中におびき寄せたのであった。
仁は九天玄女と黄帝より亜空間生成を生成する秘術を学び、この亜空間で蚩尤をある方法で始末することにした。なぜならば、その方法は最初の思考実験の通り、元の時空が蚩尤の持つ膨大なエネルギーのため消失させかねない方法だったからである。
蚩尤の放った魔力球を時空転移で避けながら蚩尤に近づく仁。蚩尤も近接戦闘の目的を読み取り素早く剣をその手に持つ。
仁は向かってくる魔力球と蚩尤の放つ攻撃になかなか近づけないでいる。一気に蚩尤の後背に転移しようともしたが、その膨大なエネルギーのためこの亜空間ですらねじ曲げられうまく制御できなくなってしまったのだ。
なす術がない仁は、腹を決める。まっすぐ蚩尤に飛んでいく。蚩尤はそれを微動だにせず受ける構えである。いよいよ仁が蚩尤の間合いの中に入ったその刹那、蚩尤の剣が仁の胸に突き刺さる。だが、仁は構わず突き進む。胸に刺さった剣をその胸に飲み込んだままようやく蚩尤の懐に飛び込み、その両掌をその体に当てる。
この二人の間には仁のエネルギーと蚩尤のエネルギーが膨大過ぎて、空間が強力にねじ曲がっていた。そのため蚩尤は仁がその間合いに入ったときに空間転移で距離をとろうとするが、出来なかった。
仁が蚩尤に触れた瞬間、九天玄女から教わったある秘術を行使した。それは科学的な言い方をすれば属性の変移をおこすものだった。
その変移とは、仁が蚩尤の物質化してる体の一部を反物質に変えた、のであった。
もはや1秒をどれだけの数で割ったか分からない。そんな短い時間の間に蚩尤の持つ物質と仁の作った反物質が互いに衝突し、消滅する。消滅の際の膨大なエネルギーはこの亜空間である現象を生んだ。
それは宇宙の始まり・・・ビックバン・・・・。
仁は反物質が反応したときの光の渦の中すべての意識がなくなってしまった。
蚩尤の存在が無になったとき、この亜空間はビックバンにより新たな宇宙が発生したのである。もはや蚩尤はこの宇宙には存在しない。その存在するエネルギーすべてがビックバンを起こしたのだ。
・・・話はそれから数百億年の後のこと、この宇宙に残る蚩尤のエネルギーの残滓をこの世界の住人らはダークマターと呼ぶことになる・・・。
さてこの新しくできた宇宙ででどれくらいの時間がたっただろうか。ヴィクトルが意識を失っている時空ではようやくヴィクトルがその意識を取り戻した。だが目の前に繰り広げられていた戦いの姿はどこにもない。ただ、寒々しいほどの風が、原形をとどめていないこの風景に吹き付けるだけであった。
ガクガク震える足を何とか九星槍を杖に立たせて周囲に師匠の気配を感じようとするが、その姿も気配も感じることができない。そして蚩尤の姿もそこにはなかった。
ヴィクトルは信じていた。あの師匠の事だ、無事蚩尤を討伐した。そう固く信じて疑わなかった。
そんな時、うっすらと、何かの存在が揺らめいている。そこにはあのイザベルが仁に渡したハンカチが落ちていた。
目をこすりながらヴィクトルはそのハンカチのある場所を見る。次第に揺らめく残像が次第にはっきりとしてくる。そしてそこからは見慣れたあの男の姿が現れてきた。そう、あの大賢者であった。
仁は、亜空間で蚩尤に近づいたときに自分の体を量子状態にしていた。量子状態を簡単に言えば、すべてを確率化する、といえばいいかもしれない。蚩尤が目の前で剣を刺した仁もまた存在し、刺されていない仁も存在する、あるのはその確率なのである。そして、ビッグバンが起きた瞬間その場にいた仁もいなかった仁もまた存在しえたのである。
だが、それを決定づけるのが観測であるが、仁が蚩尤を誘い出すときわざとイザベルから貰ったハンカチをこの時空に置いていった。それは、量子状態にした際に自分が存在していた確定したモノを置いておき、亜空間からそれを頼りに戻る観測点にしたかったためであった。
目の前に現れた師匠に向かって歩いていくヴィクトル。その目には自然と涙が溢れるのであった。
ビックバンやら量子状態などは適当です。突っ込みはなしでm(__)m
次回はおそらくラスト!




