封神の儀
シン国皇帝の名を、セイキョウへと変更します。
混乱させて申し訳ありませんでした。
そして当日、太和殿前の広場の真ん中には高さが5mはあろうかという大きな台があり、その台の四方には朱雀、白虎、青龍、玄武の四神がにらみを利かす。
台の中央には祭壇があり様々な供え物とともに玉琮といわれる筒状の玉石が祭られている。これは伝説では天と地を結ぶ祭器だといわれ、シン国では封神の儀のみ使われる最重要祭器である。
台の周囲を囲むように整然と並ぶ揺らめく旗と居並ぶ文官、武官はその区別なく朝服をその身を纏っていた。まさに荘厳というにふさわしい趣を放っている。
そして、太和殿からは黄金の布に龍の絢爛な刺繍が施された黄袍をその身にまとったセイキョウが現れた。彼の後ろに控えるのがシンカイ、ヨウメイと酒を入れた器を持つ従者である。その4名はゆっくりと太和殿の階段を下り、広場の中央へと進む。百官はその歩みを目で追うように、幼き皇帝を見つめている。
セイキョウがいよいよ台に昇り、天に向かい拝礼をする。そして従者から酒を注がれ、それを天と地に捧げた。
ちょうどその時、台の下にいたのが御史台の長官である御史大夫のサイリンである。サイリンは周りに目くばせし、台へと駆け上がる。そして、それを合図に広場の周りに配置した兵が一斉に蜂起し、それと同時に百官の中にも朝服を脱ぎ棄て、手に武器を持つものも現れて一斉に台の方へと走り出す。
広場は大混乱に陥るがその中で一人冷静に事の次第を見ている男がいた。シンカイその人である。サイリンがシンカイの目の前に現れ、サイリンがいよいよセイキョウに向け剣を向けようとしたとき、シンカイはその手を挙げて太和殿の方向へ合図を送ろうとした。だが、その瞬間サイリンはセイキョウではなくシンカイを剣で刺したのだ。
シンカイは自らの計画が失敗したことをここで知るのである。権謀術数は御史大夫を長く務めたサイリンの方が数段上手であった。サイリンはシンカイが皇帝暗殺のその直前で邪魔をすることを部下の侍御史を使って既に把握していたのであった。そこで、まずはシンカイをその手にかけた後、苦も無くセイキョウをその手に掛けるという計画を立てていたのだ。
口から血を吐き出し倒れるシンカイ。それを静かに皇帝が口を真一文字に食いしばり凝視している。
シンカイが倒れ、次にサイリンの刃がまさにセイキョウに迫ろうとしたその時。セイキョウの周りに藍色の膜がその身を覆う。サイリンの刃がその膜に少し触れた瞬間、その手に持っていた剣が弾き飛ばされ台の外へと飛んで行った。
何が起きたか理解できないサイリンは、台に昇ってきている同士に声をかけ一斉にセイキョウを殺すように指示した。サイリンの背後からは三十名以上はいるであろう賊臣らがその手に刃を持って一斉にセイキョウに今まさに迫ろうとしたとき、セイキョウは後ろに侍る従者が声を出したのを聞いた。
「皇帝陛下ご安心ください。ここに私がおります。」
従者はその衣を脱ぎ捨てる。そして現れたのが慈光の大賢者、仁であった。
それを見たサイリンは焦った。実はシンカイは仁を治療すべく本物の侍医を派遣していたが、それを把握したサイリンは先手を打ち医者に扮した暗殺者に致死量の薬を渡しすように仕向けていたのだ。その後、医者により仁の死亡が確認されたので大賢者が死んだものと信じていたのだ。
仁は迫りくる賊臣に圧縮した空気を炸裂させ、全員を一気に台の外に吹き飛ばした。落ちた賊臣らはその痛みで身動きができないでいる。サイリンはこれに焦りはしたが、奥の手があった。合図を送り、城壁の上に待機させていた仙術士十名が一斉に台に向けて魔法を放つ。
仁は自らの魔力を高め防壁を作る。その防壁は次第に色を変え遂には黄金色に発光するのであった。仙術士の放った魔法が仁とセイキョウに着弾し、台の中央には粉塵が舞いその中で何が起きているのかが判明できなかった。さらに仙術士が魔法を放とうとしたとき、遠くから、
「逆賊ども、仙術をこのような使い方しよってこの恥さらしども!!!」
と広場に響くような大声が聞こえる。声の主はチョウケンその人であった。チョウケンは外で待機していた賊軍をその手で成敗して信頼できる将軍にその後の処置を委ねていのだ。
チョウケンは全身に真っ白のオーラを纏い城壁の上をにこちらに走ってくる、そして10名の仙術士に向け魔法を一斉に放ち、彼らを無力化することに成功した。
奥の手が封じられたセイキョウは、なすすべもなくそこにへたり込む。これを見た仁が台から蜂起した兵に向け声を上げる。
「賊臣は鎮圧された。これ以上の流血は無用である。おとなしく縛につけ!」
この声を聴いた兵士もその場に武器を捨て、呆然と立ち尽くすのであった。
騒動が終わりを見たとき、セイキョウが静かにシンカイの方へと歩き、その体を支える。セイキョウの豪華な衣はシンカイの血で汚れる。それを見たシンカイは、
「陛下、私の血でその衣を汚すなどなりませぬ。」
そう言って抱きかかえられようとするのを拒絶する。だが、セイキョウは構わずシンカイを抱きしめ、
「シンカイ、そなたの命を犠牲にして賊は全て平らげることができた。そちの身命を賭した忠義に朕は感謝するしかないのか・・・。」
そういって頬を涙が伝う。セイキョウはシンカイがその命を懸け賊臣をあぶり出そうと計画していることを事前に聞いていた。もちろん股肱の臣ともいえるこの丞相の提案を拒絶するのであるが、シンカイが自らの余命が少ないことを理由にし、幼い皇帝を最後には説得したのだった。セイキョウにとってはこの忠臣たるシンカイの気持ちを受けた苦渋の決断であった。
「もったいなきお言葉、この身は全てシン国のため。陛下のためにこそあります。どうか、陛下の御代でシン国に更なる繁栄をもたらせてくださいませ。シンカイはあの世にて陛下の御代を拝見しております。」
そして、シンカイはジンの方を向き、
「賢者殿、我が国のお恥ずかしい有様をお目にかけ心苦しいが、あなたを頼るしかなかった。どうか陛下のことをお願いします。」
最後にそう言って果てた。セイキョウはその体を抱きしめたまま、彼を離そうとしなかった。先ほどまでの喧騒が嘘のように、静かな広場には幼き皇帝の嗚咽だけが響くのであった。
チョウケンが台に昇り、死んだシンカイに寄り添うとしたとき、異変が起きた。
祭壇の玉琮が黄金色に光り出したかと思うと、天女のような美しい女性が祭壇の上に現れた。
「おや、黄帝の気を感じたので出てみれば、黄帝ではないのか。その方、黄帝と同じ気をしておるが何者じゃ?」
セイキョウはシンカイを抱きかかえたまま天女の方を見て硬直している。チョウケンは天女を見て額に汗を流している。おっさんは、はて?、と不思議そうな顔をしているのであった。




