シンカイの真意
深夜、チョウケンの屋敷のはるか上空にいる仁は眼下の様子を見ている。
「(やはり見張られているか・・・・。)」
屋敷の外には数個赤い点が見受けられる。
「(では潜入するか!)」
チョウケンの広い屋敷内にはいろんな使用人たちが仕事をしている。屋敷を見張っている連中は屋敷の外から家に入る人間を調べているようだ。そこで仁は上空から彼らの視野に入らないように暗い夜を狙って屋敷内に潜入することにしていた。
「(さてチョウケンは、っと・・・・あぁここか!)」
屋敷の奥まったところに少し大きな区切りがある。どうやらそこがチョウケンの寝室の様だ。一気に降下し、中にチョウケン以外の気配がないことを確認した仁は入り口の戸を静かに開け、誰にも気づかれないように部屋に入る。その時、
「おいで下されたか、大賢者殿。」
臥せっているはずのチョウケンが寝台から起きこちらを見ていた。
「おや、バレていましたか?」
仁は振り返りながら鑑定でチョウケンを見る。害意はない、それどころか純白のオーラを纏っている。
「申し遅れました。私の名前はジンと申します。先般シン国に参りました者です。」
それに対し、
「某はチョウケンと申します。シン国の一介の仙術士、そちらでいうところの魔法使いです。」
「実は少々立て込んでおりまして・・・・。」
仁はここに来るに至った過程と、チョウケンが敵か味方か判断するために来たこと、そしてこの一連の策謀には丞相のシンカイが深く関わっていて仁が病気であることを利用し、医者を派遣して毒をもらせたと伝える。すると、
「うむむ・・・某もヨウメイ同様にわかには信じがたい。そう申しますのも・・・・。」
チョウケンはかれこれ20年ほど前の先代の皇帝陛下の即位の時の話し始めた。その当時もはやり即位継承に関してお家騒動が勃発していた。そしてそれは兄弟の骨肉の争いへと発展し、多くの犠牲者を出したようだ。
その際にまだ若い官吏として登用されたばかりのシンカイは大いに国を憂い、その死を覚悟して皇位をめぐる争う二人の前で大演説を始め、その争いの愚かしさとシン国の将来の憂いを訴えた。
それを聞いた心ある官吏らはシンカイに心中は同調するも、その身に罪が及ぶのを恐れるあまり、意見を口にまでには出せなかった。だがこの争いを始めるきっかけを作った佞臣どもから猛烈な意趣返しをくらい皇位継承の争いが終わるまで獄につながれていた。それでもなおシンカイはその心を曲げず決して佞臣どもに屈しなかった忠臣としてその名を朝廷になした、ということだった。
これを聞いた仁は、
「ではシンカイ殿の真の狙いは他にあると?」
「実を申せば、今シンカイ殿は歳を40を少しばかり過ぎたころであるが、もはやその命はさほど残されてはおらぬのです。」
「・・・ということはシンカイ殿はこれを機に幼帝を亡き者にしようというバカを一掃するために自分を使った、と?」
「あるいは・・・。」
自分の考えていたストーリとは違う展開に、さてどうしたものか、と思案する仁だが、ふと
「ですが、チョウケン殿はどうして私がここに来ることを分かっていたのですか?」
「フフ、それはですな・・・。」
チョウケンはヨウメイから話を聞いた時の違和感を仁に話す。これはヨウメイがチョウケンを仁に会わせたがっていることを意味していると考えた。そのまま自宅に戻りいつもの様に生活していると、見知らぬ使用人が茶を持ってきて、それを一口含んだ時にこれに毒が入っていることが分かり、何やら朝廷内で何かが動いていることをそれで気付かされたらしい。そこでこの毒を飲みわざと倒れるフリをしたのだという。
「もし儂の推測が正しければきっと先方から来るであろうと、そう考えたのです。」
そう白美髯というにふさわしい髯を触りながら仁に笑顔で話している。仁は両手を上げ、
「いやはや、さすがです。私なんぞはまだまだひよっこですね。恐れ入りました。」
そう素直に頭を下げる。
「さて、ではこちらとしては次の一手をどう打つか、ですが。その前にシンカイ殿の真の目的がどこにあるかを知らなければいけませんが・・・。」
「・・・大賢者殿!」
チョウケンは居住まいを正して仁に向かう。
「儂にはやはりシンカイ殿が陛下を弑するような真似をする男とは到底思えぬのです。おそらくは佞臣どもをあぶり出す、命を賭した大勝負をしておるのであろうと儂は考える。・・・もしお許しいただけるのであればシンカイ殿の思うようにさせてやってはいただけまいか・・・。」
そう目を落として仁にその胸中を吐露する。仁はしばらく考えて、
「分かりました。チョウケン殿のご意見に従います。ですが仮にシンカイ殿に謀反の気があり皇帝陛下に害する場合も考えないといけません。それはどうなさいますか?」
「ならば儂に一計があります。」
こうして二人は封神の儀における計画を練るのであった。
一方、皇帝暗殺をもくろむ者どもは・・・。
「さてでは儀式の際、兵士らはこことここに配置し、入場しようとする者を一切入れぬように。さらに・・・・」
こうして念入りに儀式当日の計画を確認しているのであった。
そして、儀式当日いよいよ様々な思惑が入り混じる封神の儀が晴天に輝く興楽宮 太和殿前の広場で行われようとしているのであった。




