騙し騙され
翌朝使いをチョウケンに出し、仁のところに向かう準備をするヨウメイに出したはずの使いが急いで戻ってきた。
「ヨウメイ様、チョウケン様がご危篤になられたとの事でございます!」
「なに!それは誠か!!」
ヨウメイが急ぎチョウケンの屋敷に行くと、そこには家の者と医者たちが右往左往している。その中の一人を捕まえてチョウケンの容体を聞こうとすると何も言わない。どうやら何も言うなと言われているようだ。
朝廷の重鎮が不慮に危篤になったのである。ヨウメイは急ぎ興楽宮の皇帝の普段の生活の場所である乾清宮へと急ぐ、そこで会ったのは丞相のシンカイであった。シンカイは温厚な顔で、
「おぉこれはヨウメイ殿。このようなところまでどうなさった?」
「これは丞相閣下。」
ヨウメイは長揖をしてシンカイに慌てて言う。
「白美髯公様が急なご危篤とのこと。急ぎ陛下に奏上に参りました!」
「なに!それは誠か。ならばこれより私が急ぎ陛下に奏上いたそう。しかし貴殿なぜそれを知った?」
「実は・・・。」
ヨウメイはチョウケンを伴って仁の治療に行くつもりであったことを説明する。すると、
「そうであったか、では私が大賢者殿に医者を派遣しよう。では私はこれで・・・。」
そういって長揖しチョウケンは乾清宮の奥へと姿を消したのであった。ヨウメイは、
「(・・・どうしたものか・・・とりあえず大賢者様にお知らせするか。)」
明らかにシンカイ先手を打たれたと判断したヨウメイは、あとは仁に頼るしかなかった。こうして、急ぎ仁の元に向かうのであったがその後ろ姿を乾清宮の奥からこっそりとシンカイが見ていたのであった。
仁の宿に着いたヨウメイは周囲に追手がいないことを確認してアイリスに取り次いでもらい仁の部屋に入る。すると、
「ヨウメイさん何者かにつけられてますよ。宿の外に数名害意のある者がいます。」
そう仁が言った。急いで窓の外を見ようとするヨウメイを制止する仁。申し訳なさそうにヨウメイは先ほどまでの事を詳細に説明する。
「なるほどね、どうやら敵に先手を打たれたようですね・・・。」
そう唸る仁。うろたえるヨウメイに仁は、
「敵がこう矢継ぎ早に手を打ってくるということは、よほど私が嫌いなんでしょうね。」
と呆れながら話す。そして心の中で、
「(では、その思惑を逆手に取りましょうか・・・・。)」
と、ニヤリと邪悪な笑顔を出す。ヨウメイには何が何だか分からない。仁はヨウメイに以後は大人しくしてここに来ないようにとだけ伝えてそのまま興楽宮へ彼を返した。
夕方になり、アイリスが仁のところに来客の到来を伝える。
「(気なすったね。)」
仁は急いで寝台に潜り込み、魔法を使い心拍数を弱めウンウンと唸っている。そこにシンカイから派遣された侍医が入ってきた。その体には真っ赤なオーラを纏っている。
「大賢者様随分とお悪いそうですね。少し触診してみましょう。・・・・うむ・・・心拍数がかなり弱まっています。ではこの薬を飲んでみてください。」
そうして一服の薬を手渡しされた。仁は侍医の目の前でその薬を飲みそのまま寝台の中に潜り込んだ。侍医は、お大事に、と笑顔でアイリスに挨拶しそのまま部屋から出ていった。そして、その深夜。アイリスは興楽宮の門番に急報を伝える、大賢者、急逝す、と。
この知らせは深夜であるにも関わらず一気に興楽宮の各場所にもたらされる。もちろん寝ていたヨウメイの元にもその急報がもたらされた。その時のヨウメイはこの世の終わりとばかりに絶望に浸り、整えた髪の毛が乱れもはや常人の有様ではなかったという。
シンカイもすぐに侍医を派遣し、大賢者を診させる。侍医は大賢者の心臓の音がしていないのを確認しその死亡を宣言した。アイリスの悲しみ様もまた凄まじかった。秘書でありながら大賢者の命を守れなかったという自責の念にさいなまれ自らの命をこの場で絶とうともしたが、ヴィクトルに賢者の遺体を持って帰ることも使命だと思いなおし、今は棺の中の賢者を不眠不休で守っている。
外には誰もいないことを確認し、防音の魔法を施した死んだはずの仁。その死体がそぉ~っと棺を開ける。その気配を察知したアイリスが掌に意識を集中し魔法を帯びながら棺の方へ振り返ると・・・・、
「ぎゃぁーーーーーーーーーーー!でたぁーーーーーーーー!!!」
アイリスは失神した・・・・のだ。仁は、アチャー、という顔をしてアイリスを起こす。
「バカ!大声出すなって!お前本当に空気読めんな~死ぬわけないだろうが・・・。でもまぁ心配してくれてありがとうな!」
そう笑顔で軽く肩をたたく。ブルブルと揺れる体。感動しているんだろうなぁ~、と錯覚する仁。その瞬間、アイリスの両手は仁の首を巻き一気に締め上げる。
「どれだけ心配したと思っているんだ!!!このアホ賢者! 私は、私は・・・・・、もう一回死ね!!!!」
意識の中ではうっすらと流れる川が見え、対岸ではユニがそのマヌケ顔でこちらを見て馬鹿にしているのが見えた仁。
しばらく締め続けられ、ようやく仁の首からその手が離れた。二人とも肩で息をし、仁は目が若干泳いでいる。二人が落ち着くのはこのあとしばしの時間が必要であった。
落ち着きを取り戻したアイリスに、これからの行動の指針を説明する。ようやく仁の意図を理解したアイリスは怒りを鎮めながらその指示にしたがい中身のない棺を守ることになる。仁は外に間者がいないことを確認して、一切の気配を消しそのまま飛び立っていった。
賢者の訃報が流れて興楽宮では、あの男らが
「これで邪魔ものはいなくなった。各方面に封神の儀の段取りを伝えよ。」
「いよいよだな。邪魔な賢者とチョウケンもこれで出てくることはあるまい。ようやく我らの世が来る。」
そう密談に花を咲かせているのであった。




