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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
本来の面目
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謁見


 しばらく待っていると、黒い官服を身に着けた人のよさそうなおじさんがすそをまくり上げてこちらに走ってきた。仁の前に着くとゼーハーゼーハーと息を荒げ慌ててしゃくを持ち頭を下げる。


「よ、ようこそおいで、ゼーハー、くださいました 、ハーハー。」


 仁は、


「息を整えてからでいいですよ。」


 というと、そのおじさんは申し訳なさそうにして息を整える。そして改めて、


「ようこそシン国においで下さいました、大賢者様。私はシン国の丞相を務めますシンカイと申します。皇帝陛下がお待ちですご案内いたします。」


 こちらが申し訳なくなるほど丁寧に頭を下げるシンカイ。仁はその様子をじっと見ている。あまりに見てくるので、


「何か?」


 とシンカイが問い直すと慌てた様子で仁が、


「いえ、申し訳ありません。その棒のようなものが不思議であったので。」


 と最もらしい理由を言う。あぁなるほど、とシンカイは笏の説明をするのであった。そしてひとしきり説明を終えたシンカイは皇帝が待つ太和殿へと案内するのであった。


 太和殿は室内の全ての柱には朱色に塗られその上には金色の龍が描かれていた。先ほどまで朝議が行われていたのかそこには百官が居並び、彼らの目の先に十段ほど階段を上った所で玉座に座る皇帝がいた。

 だが仁にはある違和感があった。あまり直視するのはいけないと思い、少し下を見ながらシンカイの後ろを歩く。シンカイが小声で、


「ここで控えてください。」


 とアドバイスをくれたので、その場に跪きじっとしている。アイリスもそれに倣い仁の後方で跪く。そして、いつもの定位置に戻ったシンカイが、


「慈光の大賢者が、皇帝陛下に謁見をするーーーーー。」


 と、独特の節回しで皆に知らせる。百官は口々に小声で話をし、太和殿の中が一時ざわめく。それを牽制する様に、壇上にいる皇帝陛下が手を水平に挙げた。それを見たシンカイが


「皆の者、静粛に!」


 と通る声で言うと、場内は水を打ったかのように静かになった。シンカイは正面に向きなおし皇帝に一礼をする。すると、


「大賢者よ、遠路大義である。ちんの願いは既に聞いておるであろう。そなたには特別に光泰殿への自由な出入りと書物の閲覧を認める。その他入り用なものは翰林院かんりんいん長のヨウメイに申せ。」


 仁はこれを受け、


「微力を尽くします。ご配慮に感謝いたします。」


 と答えるのであった。この時に仁はあの違和感の正体が分かった。皇帝の声はまだ声変りをしていない子供の声だったからだ。

 皇帝の声が発せられると、横に居並ぶ百官の中から一人の青年が仁の横に来て皇帝に一礼をする。そして、


「このまま私に従いこの場をお下がりください。」


 と小さな声で仁に言う。それに従い、腰を曲げたまま後ろに下がる仁とアイリス。こうして太和殿での皇帝との謁見を終えた。


 太和殿から出たとき、腰を曲げっぱなしだった仁が背伸びをし、アイリスがそれをジト目で見ていると。先ほどまで仁がついていった男がクスクスと笑う。


「申し遅れました、シン国翰林院長ヨウメイと申します。慈光の大賢者にご挨拶いたします。」


 そう言うと長揖して頭を下げた。


「いやぁ~、イタタタタ。お恥ずかしい。こちらこそよろしくお願いします。横に控えていますのが私の秘書のアイリスです。」


 横にいるアイリスがヨウメイに向かって一礼する。その後、ヨウメイはこの興楽宮を仁らに案内しながら光泰殿へと歩いた。


 光泰殿では若い官吏たちがせっせと書物を書いたり、書棚の整理をしたりと右往左往している。

 翰林院では皇帝の発する文章の起草を行う部署なのだが、それにはかつての皇帝たちが出した法令などとの整合性を見る必要があり、そこでこの部署では歴史や法律などの知識も求められるという。


 翰林院の奥には厳重に閉められた扉がある。ヨウメイがその扉を開きその中へ仁らを案内すると、整理された書棚の中には過去の文章をそのままの形で写した本が整然と並んでいる。

 ヨウメイに勧められるままその中の一冊を手に取り開けると、やはり書かれているのは漢字であった。


「地平らかに天成り、六府りくふ 三事さんじまことに治まる。」


 と声を出してその文章を読むと、ヨウメイが驚く。


「大賢者様!これが読めるのですか?」


「えぇ、辛うじてというべきですね。」


 ヨウメイが、おぉ~、という顔をする。それと同時にアイリスも同じような顔をするのであった。というのも、普段の仁を見る機会が多くなり、どうしてもこれが賢者なのか、そうでないのか半信半疑になっていたのである。昼間から酒を飲んで腹を出して寝ていたり、誰もいないところで鼻の中を指でグリグリしたりと、どう見てもそこらのおっさんと変わりがなかったのだ。そんなアイリスの心の中までは仁は知らない。


 ヨウメイは、


「それはそのことを書いてあったのですね!」


 どうやらここの書物の大体の内容は口伝でこちらの世界の文字として伝わっていることもあるようだった。だが、漢文など読めるはずもなく何が書いてあるのか判読できなかったようだ。


「大賢者様のお力添えを賜れば、いずれは我々もこの文章を読めるようになります!」


 そう言って感動しているヨウメイであった。そしていくつかの本の読んではヨウメイがその読みを写すという作業を行っているとあっという間に時間が過ぎすっかり周りは暗くなっていた。昼食も取らずに集中していたためもうお腹が空いて腹の虫が鳴いている。


 ヨウメイは、部下に手配させ夕食の準備をさせる。いったん書庫から出て持ってこさせた食事に仁らは驚くのであった。それはまさに中華料理のオンパレード!麻婆豆腐、回鍋肉、餃子、焼売、東坡肉、そして紹興酒!より取り見取りのごちそうの数々がそこには並ぶ。


 仁は箸を掴んで一気に口の中に入れる、アイリスは箸の扱いに困っているようだが何とかして箸を使い餃子を掴もうとするが、仁が横から箸を出しアイリスが掴もうとした餃子を横からかっさらう。アイリスは横からとられた怒りでそれ以上は食事をとろうとしなかった。それを見てヨウメイは苦笑している。


「お気に召したようでよかったです・・・・。」


 そうヨウメイに言われて初めて自分の失態に気が付いた風な仁。


「いやぁ~申し訳ない。行儀が悪くお恥ずかしい・・・・。」


 そう言って反省しているおっさんであった。そしてそれを横でやっぱりこいつ賢者か?、といぶかしがるアイリスが冷たい視線で仁を見るのであった。この時すでに仁は騒動が起きることを予見していた・・・・。

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