大魔導士ヴィクトル復活
吐き終わった老人は、自分を指さす男の方を見る。それは昔と変わらない追い続けた男その人であった。感動に浸り震える老人に近づいてくるその男はおもむろに・・・、首を絞める!
「コラァー!!ヴィクトル。おみゃぁ、でらめんどくせーだぎゃ!」
訳の分からぬ言葉を聞きながら、首を振られて意識がもうろうとし始めるこの老人。エイダンは仁を羽交い絞めにし、
「賢者様いけません、ヴィクトル様にそんな!!!!」
必死で止めようとする。ようやく仁を引き離したところ、ヴィクトルは首を抑えて肩で息をし、仁は羽交い絞めにされたままバタバタしている。老人が、
「師匠!いきなりなんだよ!感動の再会って場面だろうが!!」
猛烈に抗議する。それに対し仁は、
「あほう、お前の残した俺の肖像、あれはなんだ!俺があの世に行ったら絶対許さんと思っていたが、今こうして生きているじゃないか。もう一回死んで来い!」
感動の再開が今や骨肉の争いの場と変わり一同は唖然とする。エイダンはそのまま必死で仁を止め続け、ようやく仁を落ち着かせ慌ててヴィクトルの方へ駆け寄り輝かせる瞳でヴィクトルを介抱するのであった。
この二百年もの間で巷の少年少女は二つの派閥に分かれる、言わずと知れた賢者派と大魔導士派だ。そしてこのエイダンは大魔導士派の最たるもので、彼自身が魔法の適性が高かったことと、ある意味ストーカー気質かと思われるほどの熱烈なヴィクトルファンで、彼に近づきたい一心で修行をし、それが幸いして大魔導士の地位を得て今に至っている。
エイダンは仁をようよう落ち着かせ、ヴィクトルを総本山の自分の部屋まで担いで行き広いエイダンの部屋でヴィクトルを休ませるのであった。
入れなおしたお茶を皆で飲んで落ち着いたところで仁が、
「で、悪童。この状況を説明してもらおうか?」
そうドスの聞いた声で問いただす。対しヴィクトルはここまでに至る話をする。
教団が成立し、ヴィクトルは魔法の研究に没頭するようになり、その原点に戻るべく仁からの修行の頃を思い出していたそうだ。その時、仁に教えられた生命力と魔力の等価性について考える様になり、ついに魔力を消費して自分の生命力すなわち寿命を一定期間伸ばすことが可能であるという結論に達した、というのである。
その研究をもとにして、自分をある意味仮死状態にし来るべき賢者再臨のその日まで命を長らえるようにした、と。
「だが、さすがに200年もの間この命を保つには自分の魔力では限界だ。そろそろ俺はその命が尽きると思う。だが、こうして師匠に会えたんだ俺は満足だ。」
そう清々しく話をするヴィクトルに対し、溢れんばかりの涙を流し、膝の上に置いた手を握りしめるエイダン。バッと顔を上げ仁に詰め寄り、
「貴方賢者なんでしょ?、ねぇ賢者ですよね!何とかしてくださいよ、出来るでしょ?な・ん・と・か!!!」
そう言いながら今度はエイダンが仁の首を絞める。それをヴィクトルが呆気に取られて見ている。首を振られて目を回す仁に見かねた爺がエイダンを羽交い絞めにし仁から引き離す。エイダンは涙を流しながら仁に懇願し続ける。
すると、ハァハァ言いながら肩で息をする仁が、
「まぁ何とかなるとは思うけどね。」
そう言って荒れる息を整えてからヴィクトルの両手を握り、自分の魔力をヴィクトルに流し始めと、徐々にその量を増やしていき次第にまた体から慈光を発しはじめた。その部屋にいる一同は今度は見逃すまいと必死にその奇蹟を見続けるのであった。
ヴィクトルが自分に流れる魔力を自分の魔力に変換し始める。そうすると次第にヴィクトル自身が変化していくではないか!
教団幹部の驚き様は尋常ではなかった。彼らはヴィクトルのその長いボロボロの白髪が次第に黒くキューティクルになり、シワだらけのその顔はハリを取り戻しはじめ、それと同じく肉体が徐々に若返っているのがはっきりと分かるのであった。
そして、ついに勢い溢れる二十代後半の頃のヴィクトルに戻ったその奇蹟をその目でしっかり見たのだ。
復活したヴィクトルを見て、ボロボロと涙を流すエイダン。その他の教団幹部らはこの奇蹟に祈ることしかできない。ある者は失神している。こうして大魔導士ヴィクトルが完全復活するのであった。
若かりし日の自分に戻ったヴィクトルは、自分の体の感覚を確かめている。そして、仁に向かい改めて言う。
「師匠、長らくお待ちしておりました。賢者再臨を心から待っていました。」
そして頭を下げるのであった。
仁は照れながら頭をかいて、
「ヴィクトル、お前デッカイ男になったな。バイドにその姿を見せたかった・・・。」
そうしみじみ語り掛けた。こうして、仁とヴィクトル、エイダンら教団幹部らとヴィクトルの幼いころの話で盛り上がる。
その話を一つ一つ聞き逃すまいと必死で聞くエイダン。ある幹部は急いでメモを取りに行き、必死に速記をしている。そして、仁がアクセルとアテナがアーノルドの子孫であることを話したとき、
「アル兄の・・・、そうか。俺もアル兄を必死で探したんだが、その消息が一切絶たれていた。アル兄にも会いたかった・・・。」
そうヴィクトルの思いを彼の子孫に伝える。アクセルはいつものように泣いている。それ以上に仁は大泣きしていた。そして、近日アーノルドの墓参りに行くことにした。
こうして賢者再臨と大魔導士復活の報が教団内に告知さてた。翌日、総本山の大教会内に信者が溢れている。エイダンを筆頭にし、その後ろに仁とヴィクトルが付いていく。ビクビクする仁に対して、場慣れした大物感があるヴィクトル、師匠形無しの面白い場面である。
そしてエイダンが宣言する、
「ここに慈光の大賢者様、我らが始祖ヴィクトル様のご両名が復活されたことを宣言する。我が会の者どもはこれよりさらに精進し、ご両名の志を守り世界の恒久の平和に向け尽力することをここに誓え!」
そうしてエイダンは一歩低いところに跪き、仁とヴィクトルに深々と頭を下げる。それに合わせて教会内の信者が一斉に頭を下げる。仁はそれを見ていた・・・。そして、
「皆さん顔を上げてください。私らは皆さんに崇め奉られる人間ではありません。人の上に人を作らず、人の下に人を作らず、といいます。私たちは皆同じ人です。そして、一人一人が活躍でき、幸せになれるよう皆さんの力をお貸しいただけませんでしょうか? 立派な大魔導士ヴィクトルとその教えを守る皆さんのその力で世界の片隅で一生懸命生きている多くの人々を照らす灯になってください。お願いします。」
そう教会内にいる人らに向け頭を下げる。ヴィクトルもまた同じように頭を下げるのであったが、仁が自分を認めてくれたことに涙を流していたのは秘密である。
その姿を静観していた信者らが次第に二人に向け拍手をする。エイダンもまた二人に向け拍手をする。こうしてこの総本山で新たな奇蹟が生まれるのであった。




