特別捜査官 仁
仁ら一行が着いた街はアルガンという取り立てて何かあるわけでなく、地方のごくありふれた街であった。三人は宿に入って受付をする。
それぞれ別々の部屋を借りることにし、仁はおかみさんに案内されて部屋に入った。
仁が窓から街を見下ろすと、ガラの悪い男どもが赤いオーラを纏いながら通りを闊歩しているのが見えた。
「おかみさん、あそこにガラの悪いのがいるけど、あいつらここに住んでるのかい?」
「どれどれ?」
仁の隣から顔を出すおかみさん、仁は圧倒されて窓の隅っこの方へと押しやられる。
「あっ、あいつらもう戻ってきた!いやだわぁ~。」
とあからさまに嫌そうな顔をする。詳しく話を聞くと、ここ数日は慈光教の人たちが逗留していたので、奴らは姿を晦ましていたという。どうやら仁が街道で出会ったあの人らが、ここで逗留していた教団の人の様だ。
「で、あいつらどんな悪さをするんだい?」
と仁か聞くと、
「それは・・・ちょっと言えないね。もしバレたりしたらそりゃひどいことになるのさね・・・。」
そう言って口を閉ざす。
「悪いね、詮索しちゃって。教えてくれてありがと。」
そう言って、金貨1枚を渡す。渡された金貨を見て驚くおかみさん。何度も頭を下げて部屋から出て行った。
「(こりゃちょいと掃除が必要だな・・・。)」
仁はニヤリと笑う。
仁はそのまま宿を出ると兄妹に言って出て行った。そしてあのガラの悪い男どもの後を付ける。あっちこっちの店にちょっかいを出しながらその男どもは通りを歩き、最後にあまり目立たない飲み屋に入っていった。
「(さて、どうしたもんか。)」
そ う思案していると、馬車が1台その店の前に到着した。そして馬車から覆面をつけたどう見ても怪しいだろお前!、と突っ込みたくなるような男が一人降りてきてそそくさと店の中に入っていく。
仁は別の入り口はないかと店の周囲を探すと、ちょうど通りの裏側に細い通路があり、そこから奥に入ると入口らしきものがあった。
魔法を使い、気配を殺して防音を施しその入り口を開けようとするが、これが開かない。何度か入り口を強引に開けようとすると急にその入り口が開いた。中からさっきのごろつきの一人が顔を覗かせる。
仁は掌にスタンガンをイメージし、出した頭に手を当てるとその男が白目をむいて無抵抗になる。地面に落ちるその直前にその体を支えて、入り口から男を引きずり出ししばらくは目が覚めないように強めにその意識を刈り取る。
「(なんだかスパイ映画みたいだな!)」
童心に戻るおっさん一人。忍び足で家の中に入ると、奥の方ではあの覆面男が別のごろつきの男と話をしている。
「(このままでは何も聞こえんな・・・・)」
耳に集音の魔法をかけ、ようやく話し声が聞こえる様になると、
「いつもの場所に置いてある。」
覆面の男はそう話すと、さっと出口の方へ消えていった。
覆面を追うかどうするか思案した結果、覆面を追うことにした仁は裏手から路地に出てそのまま地上から仁を見上げても人だとは分からないぐらいの高度まで飛行する。
目標を目で追う仁。そうするともう1つ明らかに動きが違う点が馬車を追って移動している。馬車と動く点を追ってゆっくり飛行する。やはり仁とは別の何者かがこの馬車の人物を追っているようだった。馬車が止まったのはそろそろ夕方になったときで街から随分離れた、周りには何もない街道の真ん中であった。
だが、仁の目には周囲に赤いオーラが30ほど隠れているのが見えた。
「(尾行に気付かれたんじゃないか、あの人)」
しばらく様子を見る仁。赤いオーラはどんどん馬車を追っていた黒い点へと集まってくる。その瞬間、黒い点は盛大に魔法を繰り出したのであった。次々と赤いオーラが消失し、あっという間に残り2つとなる。だが、赤く輝く残りの2つのオーラもまた魔法による攻撃を黒い点に仕掛けるのであった。
形成は逆転し、一方的に黒い点が押される。
「(そろそろだな。)」
仁は両腕に雷をイメージし、そのまま地上に落とす。地上に落ちた雷は辺りを一瞬 眩いばかりに明るくした。光が消えるとそこにいた魔法使い三人と馬車の馬が倒れている。
仁は地上へと降り、先ずは馬車の中の覆面男を確認すると白目をむいて気を失っていた。次に魔法使い三人の方へ向かうと、三人も同様に意識を失っている。その中で初めて覆面を追っていたのは女であることが分かった仁。
とりあえず全員縛り上げて身動きが取れないようにする。しばらくすると女の方が意識を取り戻し、虚ろになりながら自分の状況を確認している。そして目の前にいるおっさんに気付くと、血走るような鋭い眼光で、
「クソ!これでお前ら悪党が無事にすむと思うなよ。必ず教団がお前たちを追い詰めるはずだ!」
仁は悪乗りして、
「フフッ、お前はどこまで知っていたんだ?さぁ吐け!」
と、ちょっとした悪党の親分風な芝居をする。するとその女が、
「フン!そんな事話すわけがないだろ馬鹿かお前!」
なかなか口を割らない。さらに続けて、
「慈光教が動いているとは知っていたが、お前程度なら大したことはないな!」
するとその女は悔しそうな顔をして下をうつむき、
「さっ殺せ!いずれ仲間がお前を死に追い詰めるだろう。これ以上キールの被害を出さないためにも!」
そう言って目をつむり涙を流す女。
「えっ、キールって言った?こいつらキールをさばいていたのか!?」
そう素っ頓狂な声で驚く仁。
キールとはこの世界における麻薬である。二百年前の世界でも若干流通していた。この麻薬はある植物から抽出するのだが、この植物自体を栽培するのが難しいうえ抽出には魔法を用いる必要があって一般には流通しなかった。だが、それだけ手間をかける分効果は大きく一度手を出したら最後、廃人まで一直線になる恐ろしい物であった。
もちろん各国はそれぞれ規制しその流通網を崩してはいったが、その戦いは二百年経っても続いていたようだ。
そんな仁の声に驚いて顔を上げる女。
「お、お前一体何者だ?」
そう声を上げる。その声に他の二名の魔法使いが目を覚ます。仁は、カッとポーズを決めて。
「な・い・しょ!」
とウインクするのであった。




