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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
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二百年前の手紙


 三人が古戦場で黙とうをささげて再び帝都に向け歩き始める。そんな中アクセルは仁にある疑問を持ち始めるのである。それは、一般に出回っている歴史書には記載されていないあの遺物を知っていたこと。そして、アテナに向かって、ありがとう、と言ったことである。


 この疑問は帝都に到着して意外な方法で分かってしまう。それは旅を続けて数日後、帝都の宿での出来事であった。


 仁はまたしても観光に出かけた。アクセルら二人はいつもの様に早めの食事をしていた。その際アクセルは仁がその場にいないという理由でアテナが記載していたメモ帳を食堂で眺めながらスープを口に運んでいた。それを見てアテナは行儀が悪いと非難する。そこで、メモ帳をテーブルに置きその内容を二人で検証していた。


 そんな時、仁はいつの間にか宿に帰って来ていた。食堂で食事を摂っている二人を見つけて驚かしてやろう、とそっと二人に近づく仁。兄妹はあまりに集中していたため仁の存在に気が付かない。こうしていつの間にかこのメモ帳を三人で眺めていたのであった。


 そんなとき仁が急に、


「あっここ間違った計算してる!」


 そう言ってメモの中の数式を指し示す。


「「エッ!」」


 振り返る二人。それは仁がいたことに気付かず驚いたのもあるが、一番驚いたのはその指し示した数式の計算ミスを指摘したことであった。


 仁は、なーんだ二百年の間に随分と数学も進歩したもんだな、程度にしか思っていなかった。だが、驚愕したのはこの兄妹、それもそのはずこの数式はこの兄妹の一族しか知らないものだったからだ。そうこの兄妹の祖先こそ、仁の養子アーノルドその人であったのだ。


 そうとも知らず、あはは、と笑ってそのまま部屋に帰ろうとした仁を後ろから強引に引き留めるアクセル。眼光鋭く仁に迫ってくる。あまりの迫力に仁は、


「どうしたんだ?アクセル・・・。俺・・・れる、ポッ。」


 とチャラけて見せた。だがしかし、この攻撃が通じない・・・。おじさんのギャグがまずかったか!、と仁はその額に汗をかく。鋭く見つめるアクセルとアテナは、


「「ジンさんちょっとこっちに来て!」」


 そうハモって二人の部屋に仁を連れ去っていった。



 椅子に座らされた仁、兄妹は仁の目の前で腕を組んで仁を睨めつけている。まるで子供を叱りつける両親のような状況であった。


「さて、仁さんあの知識をどこで知ったのか吐いてもらいますからね!」


 そう鬼気迫るアクセル。


「いやぁ・・・そのぅ。昔勉強したものですけど・・・。」


 確かに仁は嘘はついていない。だがそれは仁の人生の中での話であってこの世界での話ではない。


「嘘だ!そんなことで俺たちは騙せないよ!」


 二人とも引き下がらない。


「いやぁ~でもねぇ・・・。」


 こういう問答を繰り返すこと一時間。まるで埒が明かない。そこで兄妹はひそひそと相談し始める。これはもう自分たちでは手に負えない。いったん故郷に帰って親父に相談しよう、そういう結論に達した兄妹。そこで、


「いいでしょう、仁さん。そこまで意地をはるのならこっちにも考えがあります。ジンさん旅をするのが目標でしょ?今まで誰も行ったことない場所に行くのはどうですか?私たちの故郷に案内します。ついてきてください!!」


 そうアテナに迫られる。


「まぁそりゃいいけど・・・。」


 なんだか良く分からないがどうせ旅はするんだし、と軽く了承する。こうしてようやく仁は解放されるのかと思いきや、逃亡の恐れがあるからと必ず一人が見張りに付くようになった。


 翌早朝には三人は再び旅にでる。一路この兄妹の故郷を目指して。


 普通の人にはこの旅はかなり過酷であろう。川をさかのぼり山を越え、道なき道を進む。この兄妹は多少慣れているようではあったが、それでもいくつかの難所があり容易ではなさそうだった。

 一方、仁はシュバルツの森で修行した経験があるからこの程度なんてことはない。そんな仁の余裕な様子がまたこの兄妹の疑惑を強くするのであった。


 そんなある意味サバイバル生活が1週間ほど続き、山の中腹から下を見ると少し開けた谷がありそこには風車のある大きな家が建っている。


「あそこが俺たちの家だよ、仁さん。さぁ行こう!」


 山を下り、谷を進むこと2時間ほどしてようやく兄妹の家に到着した。


 アクセルが家の中に入っていき、しばらくして親父らしき壮年の男性を連れて出て来た。兄妹が人を連れてきたことに驚いたが、さらに驚いたのがこの男の名前がジンだと聞いたことだった。


 家の中に案内される仁。暖炉のあるその部屋には大き目のテーブルと、いくつかの椅子がありその一つに座るように促される。親父がいったん部屋から退出し、再びこの部屋に戻ったとき古びた1冊の本と一通の手紙を持ってきていた。父の名前はベンジャミン、この一族の長は代々この名前を継ぐのだという。


 仁にはその古びた本に見覚えがあった。かつてアーノルドに書いてやった算数の本だった。ベンジャミンからこの本を受け取り、表紙を優しく撫でる。ページを開くと余白にはいくつかの書き込みがある。見覚えのある字、アーノルドのものであった。


「・・・アーノルド・・・・。」


 自然と頬に涙がつたい、何度も泣くのを我慢する仁。その姿を見てある確信を持つベンジャミンら3人。


「ジン殿、いや、ジン様。この手紙をご覧ください。」


 そう言って茶色に変色した、いかにも古そうな手紙を渡すベンジャミン。


 仁は綺麗に折り曲げられたその手紙を開き、嗚咽する。


〝親愛なる父さんへ 僕は父さんが国を去った数日後、父さんと同じように国を去りました。あの時父さんともっと話をしたかった。子供の話はちゃんと聞いて欲しいものです。ですが、それももう叶わないでしょう。ですからこうして手紙を残すことにしました。僕の子孫がいずれ現れる父さんと再会するために・・・・〟


 仁にはその手紙を読むことができない。何度も何度もあふれ出る涙で前が見えなかったのだ。それを傍らで見る三人ももらい泣きをしている。アクセルに至っては感動のあまり、涙やら鼻水やら垂れ流して、もはや見れたものではなかった。


 手紙の中にはアーノルドが天文学について研究し始め、この世界に正しい暦をつくりたいと考えていたことなどが書かれていた。そして最後に、


〝スメルの街にいた頃の僕は自分の実の父を知らなかった。でもあの戦でこの腕がなくなった時、この腕の代わり本当の父を手に入れることができた事を感謝しています。僕は先に逝ってしまうけど、父さんはいつまでも元気で。僕の子孫たちをお願いします。父さんにとっての最愛の息子 アーノルド〟


 そう締めくくられていた。


 むせび泣く四人の声は、まるで谷をこだまするかの様に部屋の中で響き合うのであった。

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