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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
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星空と英霊と


 慈光教の支部から出た仁はアクセルとアテナとの待ち合わせの場所に向かっている。それはかつて王城があった場所で今はラルタル中央庁舎が建っている。この中央庁舎はちょっとした観光名所にもなっていて、観光の旅をする仁にとってはちょうどいいだろうと兄妹が教えてくれたのだ。


 仁が中央庁舎に着きその建物を見たとき思わずおぉ~、と声を上げるほど美しい対称性を持ったその建築物はいわば建築当時の帝国の美意識の結晶とも言うべきものであった。


 中央庁舎の中には入れないが、その外は公園も併設されラルタル市民の憩いの場所にもなっている。


 そんな中央庁舎を見て回る仁にアクセル兄妹が走ってくる。仁が歩き回るので見つけるのに苦労したと若干の文句を言ったアテナを苦笑いしてみているアクセル。アテナもすっかり仁に慣れてきたようだ。


 さて、三人はここから少し離れた宿に泊まることにした。市民が普通に寝泊まりする程度の宿に着いたとき、仁が受付で金貨を出したのにこの兄妹は驚いたのだが、仁は気にすることなくそそくさと宿の部屋に入っていく。


 そんな仁の背中を見ていた兄妹は節約のため2人部屋に泊まることにし、その部屋に入った。そして、


「ジンさんって何者なんだろうね。」


 そうアテナがアクセルに聞く。


「それは俺も考えてた。けど悪い人じゃなさそうだからな。」


「盗賊を倒したとき凄かったもの。」


「俺なんか剣奪われたし。」


 そう言ってケラケラ笑っている。


「さっ今夜も観測するぞ、今のうちに準備しておけよアテナ。」


 こうしてこの兄妹は部屋の中で怪しい機材の準備を始めだしたのだ。


 夕方になり、兄妹が今夜用事があるということで三人は少し早いが夕食を摂ることにする。その用事はなにか、と仁が尋ねても2人はちょっとね、とあまり話さない。何か事情があるんだろうと詮索をしない仁であった。


 その夜、街の光がほとんど無くなったころ。部屋の窓から円筒状の物で夜空を覗くアクセル。その横で何かを一生懸命記入しているアテナの姿があった。ひっそりと作業をするその姿は誰にも見られることはなかった。


 そして翌朝アクセルらは仁に、次はどこに行くのか、と尋ねると帝都の方に行くつもりだと仁が答える。それを聞き互いの顔を見合わせて喜ぶ兄妹は、なら一緒に行こうと仁を誘うのであった。


 こうしてまだしばらくこの3人の道中は続くことになる。


 ラルタルを離れて数日後、かつて王国と帝国が決戦に及んだ古戦場のあたりに到着した。仁は少し寄りたいところがあると兄妹にいうと、兄妹もついてくるというので三人で仁の記憶を頼りにかの古戦場跡に行くことになった。


 だが、あのときの慰霊碑を見つけることができなかった。それでも探し続ける仁、それを見守るアクセルら2人。何時間が過ぎたのだろうか、もう夕日が地平線に沈みかけている。


「ジンさん、今日はここで野宿しようか?」


「アクセルごめん、俺のわがままで。探している物がないんだよ・・・。」


「探し物ってなんなの?」


 そうアテナが仁に聞き返す。


「かつてこのあたりでザールサス王国とカルダノ帝国が戦った場所があるらしいんだ。戦が終わったとき、賢者が戦死者の慰霊碑を作ったはずなんだけど、それが見当たらないんだ。」


 そう言って困った顔をする仁。二人もこの話は知っていた。慈光の大賢者の物語の有名な場面であり、かの隻腕の小賢者の物語の始まりでもある。だが歴史書には慰霊碑があったということは一般には残っていないのだのだが・・・・。


 そして夜。仁がいるためアクセルらは星空を観測していない。だが、自然と三人は星空を見上げる。何もない平原がその満天の星空を遮ることなく、瞬く星々がその存在を3人に知らしめている。


「こうして星空を眺めるのも久しぶりだなぁ・・・。」


 そうポツリとつぶやく仁であった。


 アクセルらは同じテントの中で休んでいる。見張り役を志願した仁がテントの外の焚火の傍で座っている。二人が寝静まったころ仁はゆっくりと自らの魔力をこの一帯の大地に行き渡らせる。そのオーラがまるで泉からあふれる清水のように大地に流れゆく。


 そして、天には星々、地にはきらめくオーラがそのあたりを照らしていくと、うっすらと何か影のようなものが地上から姿を現すのであった。


 徐々にその姿がはっきりとしてくる。それはかつて共に戦った王国兵らの姿であった。そして、彼らは仁の方を向き、あるものの存在を指し示すかのように一斉にその方向を指さす。次の瞬間役目を終えたとばかりにその姿を消してしまったのであった。


 仁は、現れた兵士らの方を向いて黙とうをささげる。彼らの命の犠牲をしても自分は王国を助けることができなかったという深い謝罪を込めて。


 翌朝、仁は兄妹を起こしそのまま昨夜に兵士たちが指示した場所に行く。少し小高く土が盛られているのを手で掘り返してしばらく。ようやく石が見えて来た。そこにかつて建っていたはずの慰霊碑が根元から折られて横たわっていたのだ。


 帝国が王国を滅ぼした後、王国にまつわるものが一切破壊された。破壊された物の中にこの慰霊碑もあったのだ。


 仁が何かを発見したのが分かった兄妹が仁の方へ走ってくる。そうすると土の中に埋まっている石柱がそこにあるではないか。それをゆっくりこすり、文面を浮き上がらせる仁。そして仁が涙を流している姿を見る二人。


 アテナが書かれている文面を見る。そこには失われた戦の記録が詳細に、叙述的に書かれていてその文面を読み進むにつれアテナの胸にこみ上げるものがあった。そして最後は嗚咽しこれ以上読むことができないまでになる。


 仁はアテナの背中に手を当て、気持ちを落ち着かせようとする。そして一言


「ありがとう。」


 と言うのであった。

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