表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生隠者は賢者になる  作者: 太白
異世界転生チュートリアル
7/94

ユニの目的


 仁はどうやって調理道具を作成するか考えていた。基本的には鉄器にしようと考えている。そうなると鉄鉱石が必要になるが、鉄鉱石があったとしてもそれを溶かせば鉄になるわけではない。鉄の生産には鉄器を生産してきた人類の長い経験と知恵があったのだ。

 仁は仕事柄様々なことに興味がありある意味ではくだらない事、例えば刀の作り方や酒の作り方など、まで興味があったことを本などで知識をえていた。

 そこで鉄鉱石からどうやって鉄を生産するか、その手順もかつて本で見ていたのだ。


「ユニ?、調理器具を鉄から作りたいんだけどこの近くに鉄鉱石が取れるかな?」


「ありますよ。ちょっと森の奥の方になりますけど。案内しますが今から行きますか?」


 仁はできるだけ早く調理器具を作りたかったので、ユニの提案を二つ返事でのったのであった。

 さっそくユニを伴い森の奥へと歩き始めた。さすがにここにきて数か月経ち、体力の増加は目を見張るものがあった。


 ただ誠に残念ながら体形の方は一向に変わる気配がなかった。そんなこんなおよそ四時間ほど歩いたであろうか、周りが少し薄暗くなってきた頃ユニの後を歩き続けてようやく山肌が露出した岩盤に当たった。よく見ると、そこには黒い鉱石がまばらに見えている。


「お待たせしました。この黒いのが鉄鉱石になります。」


 仁は鑑定を使ってこの黒い鉱石が鉄鉱石であることを確認すると、掌を岩盤に当てた。そして、山肌を揺らすほどの振動をイメージする。まるで掘削作業を行うように手を当てた鉄鉱石を含む岩盤が少しずつはがれていき、それと一緒に鉄鉱石の塊も仁の足元に落ちきたのであった。


 こうしてある程度の鉄鉱石を確保して、帰ろうとしたら辺りはもう完全に夜。夜道を帰るには危険である。ユニもいるので今日はここで野宿することになった。

 幸い野菜を持ち合わせていたので、腹を少しは満たすことができた。近くの木の枝を集めて焚火にして、山肌の一部を掘削して夜露をしのげるような穴を作り、その中で休むことにした仁。

 ここに来ての初めての野宿となる。やはり緊張する仁。遠くにはジャッカルの吠える声が聞こえる。仁にはこれが一番こたえていた。そして、このあと異世界転生の後最初の災難が始まるのであった。


 しばらくして、ユニも疲れたのか寒さをしのぐため定位置の仁のお腹の上でスースーと寝息を立てている。仁も寝苦しさはあったものの夢の中。一人と一匹はお互い寄り添うように寝ていた。

 その様子を遠くから見ていたジャッカルの群れ。匂いを頼りにこの二人(?)の様子をうかがっていた。


 ジャッカルたちは獲物が寝いるのを待っていた。そして、寝たところを掃除屋の名にふさわしく襲うつもりであったのだ。

 ジャッカルたちは人里まで行けば大勢の人間に反撃にあい群れも無傷ではすまないことを理解していた。しかし人が山の中に入ったときはその限りではない。今この状況はジャッカルにとって極めて有利である。集団で狩りをするジャッカルにとっては森の中でこそ自分の機動力を生かし、かつ人間の機動力を大きく削ぐことができるからだ。しかも今回は都合のいいことに仁と猫一匹、数が少ない。彼らの狩りにはもってこいの状況である。


 ジャッカルは自らの領域に入ってきた獲物を見逃すはずもない。一歩、一歩と寝ている食べ応えがありそうなデブ一人に目を付け近づいている。

 そんな中、ジャッカルの一匹が歩いていくとそこには仁が採掘した鉄鉱石がごろごろと転がっていた。そしてそのジャッカルの足が1つの鉄鉱石をを踏み損ね、周りにカラコロと石が転がる音がしたのだ。

 ジャッカルはビクッとしたが時すでに遅し、その音で仁は目が覚めたのだった。


 仁は周囲の状況に顔面蒼白となった。目の前には赤い目をした小さいながらも大っ嫌いな犬っコロがわんさかと集まっていたのだ。


 仁は、かつての追いかけられ噛まれた経験がフラッシュバックし、腹の上で寝ているユニを気にすることもなく飛び起きた。同時に全身に魔力のエネルギーを集中し、爆風をイメージして仁を中心とした猛烈な爆風を生成したのだった。

 もはや手加減を加えるなどという余裕のない仁は、発生させた爆風が山肌とは反対側の森の500mほどにわたる領域の全て木々をなぎ倒すほどの威力で魔法を放ってしまったのであった。


 ジャッカルにはその爆風を耐えることができず、あるものは山肌に打ち付けられ、あるものは森のかなたに飛ばされてその命を全て狩り取られることになったのである。


 あまりに一瞬のことでユニが対処することができず、仁が作った爆風から自分を守ることぐらいであった。


 仁は呆然と立っていた。本人自身が何が起こったのかよく分かっていなかったのだ。肩で息をしながら呆然と立っている仁に、ユニは近づき足元に頭をこすっている。それを感じた仁はようやく我に返ることができた。


 しばらくして、仁とユニは目の前にある焚火を見ながら座っている。仁はボーっと火を見つめているだけであった。

 ユニには仁の考えていることが分かっていた。仁は身を守るためとはいえ無駄に多くの命を一瞬で刈り取ったとこを懺悔していたのである。仁は自分の持つ強大な力というものに対して考えていたのである。


 そんな時間がしばらく続き、ユニが仁の目の前に歩いてきた。そして、


「力は悪ではない。悪になるのはその使い方を誤ったからです。今回、仁さんの思い悩んでいる事は大事です。この経験を生かすには力の制御を学びなさい。あなたはこの力から逃げることもできません。しかも、捨てることもできません。ならばその力を悪としないように、善良な力として使えるよに自分を鍛える必要があるではありませんか?生前あなたが生徒に対して、同じようなことを言っていたはずです。それを今度は自分自身で実践する時が来たのです。さぁ貴方はどうします?このまま懺悔に時間を過ごすか、はたまた前を向いて自分を成長させるかを選びなさい。」


 全く小姑猫である。仁はその言葉にイラつきながらも、正鵠せいこくを得た意見に逆らうことはできなかった。

 何より自分がかつて確かに言っていたことをそのまま言い返されたのである。ある意味では屈辱でもあった。ただ、その屈辱は仁にある意味での覚悟を持たせることになる。よく分からないまま得たこの暴力を制御できるようにする、そう覚悟を決めるきっかけになったのである。


 ユニは自分が見ているからと言って仁を寝かしつけた。実はこっそり魔法で仁を寝かしつけた。そして、寝ている仁を炎にたゆとうその瞳で見つめていたのであった。


 この事件は実はユニが仕組んだことであった。ユニにとってジャッカルが襲ってくることなど百も承知していた。しかも自分の力をもってすれば危害を与えられるわけもない。それなのに、なすがまま任せていたのは、仁にこの決意をさせるためであった。そこには小姑然とした小憎たらし猫ではなく、神の眷属として役割を果たしていたのであった。この仁がこの世界に巻き起こすであろう大きなうねりを予兆させ、神の意志を実行させようとするために。ユニのその瞳は強い意志とやさしさを兼ね備えたものであった。


 朝日がまぶしく森を照らす。なぎ倒された木々が朝日を遮ることもなく寝ている仁を照らした。そのまぶしさに仁も目が覚める。ユニはわざと眠たそうな間抜け面でいかにも恩着せがましく、ずっと起きていたんだぞと言わんばかりの態度をしている。


 仁は昨日の出来事が夢の様ではあったが、眼前の状況から夢であるわけがない。事実を事実として受け止めていた。そしてユニに向かって言った。


「お鍋作ろう!」


 ユニはこれを聞いてこけそうになりながらも、仁の意識の中に確固としたものがあることが分かっていたので、半ば呆れながらも仁を見つめていたのであった。


 鍋を作るのに鉄鉱石から鉄を生産する必要があるが、その前に仁は自分の魔力がどれほどあるかを今一度鑑定してみた。


名前:前崎 仁

HP:1300/1300

MP:5000/5000


スキル:魔法特性(強)

     鑑定(小)

     神の加護(寿命なし)


「・・・あらそうなんだ・・・。」


 昨日の一発でまた成長している事に仁は、もういいや、と呆れていた。

 仁は魔力量を確認して鉄鉱石を溶かすべく温度を上げる。これには温度の制御が大事になる。つまりは魔力制御の訓練になるのだ。ユニが調理器具を鉄で作らせようと仕向けたのはまさにこのためであった。

 仁は自分の魔力量を確認して、いよいよ鉄鉱石を加熱し始めた。仁は魔力で鉄鉱石を宙に浮遊させ、炎魔法で加熱し始める。炎の色が赤から青へと変化して徐々に鉄鉱石の温度を上昇させていった。

 しばらく温めていると熱せられた鉄鉱石がパチパチと音を立てるがその後すぐに仁の魔力切れにより宙で熱せられた鉄鉱石は落ちてきてしまった。


 ユニは悪戦苦闘する仁の姿をただ静かに見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ