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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
異世界賢者はひきこもりになる?!
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ヴィクトル漫遊記(四)


 ヴィクトルとブリックスはその夜は深夜まで話し合った。そしてヴィクトルはあの三人の処分が決定するまではここに残ることになり、その間ブリックスとは剣で勝負をし互いの腕を磨き合った。


 ブリックスの剣の腕前は確かなものであった。ヴィクトルも実に学ぶことが多く、技能をさらに磨く大きなきっかけを得ることができた。ブリックスもまた今まで見てきた魔法使いがただの子供の遊びのように感じられた。それと同時に、この青年とその師匠を敵にまわしたくないと思うようになった。


 そんなある日、その夜もまた二人は歓談する。そんな折ブリックスが


「なぁヴィクトル。もし大賢者殿が許すのであれば我が国に仕官するつもりはないか?俺が国王に推挙してもいい。」


 そう真顔で話す。ヴィクトルはしばしの沈黙の後、


「気持ちはありがたいんだが、俺はどの国に仕えることも今は考えられない、すまん。」


 そう答えるのであった。


「理由を聞いてもいいか?」


 そう尋ねるブリックス、


「俺が追う師匠の背中はまだまだ遠い。だから俺はまだ修行をしなければいけない。あの背中に追いつき追い抜くために。」


 これを聞いたブリックスはフッと笑い、酒をあおる。そして、


「十分だ。いやむしろ十分すぎる理由だ。ヴィクトル、俺はお前がうらやましい。」


 そう言ってこの青年の強固な意思に敬意を表すのであった。


 翌日あの三人の男らの判決が決まり、ブリックスがそれを三人に言い渡す。その現場にはヴィクトルもいた。


「お前たち三人に判決を言う。かの村にこれより帰還し、終生その村の民のためにその力を用いよ。」


 その決定をにわかに信じがたいという顔をする三人。そして、


「そのようなことで私らの罪が消えるとは思えません。俺たちの命はあの青年に既に取られたも同じ。斬首されても文句は申しません。どうか、相応の罰をお与えください。」


 男たちがそう申し出る。


「法は万全ではない。それゆえどんなに法を整備したとしても不届き者が出ない世にはならない。逆も又然り、贖罪の意識がある者を罰する法もまたない。ならば、そなた達に罪を負わせてその力を無駄にするよりは、その贖罪の意識をもってその罪の一部でも民のために返させる方が民のためだと俺は判断した。よってこれを判決とする、以上。」


 その言葉を聞いた3人は目に涙を浮かべながらただひたすら頭を垂れるのであった。


 ヴィクトルもこの判決を聞き、さすがだ、と胸のすく思いをしたのであった。


 ブリックスと別れ、三人を村へと連れて帰り村長やガイそしてリーフら村人たちに事の次第を説明した。三人の男たちはひたすら頭を下げていた。


 村長は熟慮のすえ監察官の判決を受け入れると表明し、村人たちもこれに同意した。


 ヴィクトルは自分の役割を終え、この村を離れ再び旅に出ることにした。そしてそれを見送るリーフ、彼女にとっての淡い初恋はこうして幕を閉じたのであった。


 一方不正を働いた行政官は、ブリックスの取り調べにより全ての不正が明らかにされ、家財一切を没収された。更に自身は頭と胴を繋ぎ止めることができずに首から上を街の中に曝される憂き目にあう。没収された家財は被害者の救済に分配されることになった。

 これらを電光石火の速さでやってのけたブリックスは民から喝采され、王からもその手腕を顕彰されることとなった。


 その際、ブリックスは王に大賢者の弟子こそ顕彰すべきであると褒美を辞退した、と歴史書は記している。


 後年、この三人の男の中で一番若いビエートがリーフにその思いを伝え二人は結婚する。そして、この村に訪れた大賢者の弟子の言い伝えが残ったのであった。


 その後もヴィクトルは旅を続ける。その間にいろんなもめ事に出くわし、彼の軌跡を各地に残していく。そしてヴィクトルの軌跡には同時に彼の目を通した大賢者の物語も残されることになり、全世界に大賢者の物語が点在することになる。


 年月が経るにつれ、大賢者の物語には誇張が入りもはや仁の原型などないとんでもない大賢者が出来上がることになる。仁がこの伝承を耳にするのは随分、そう随分と先になる。


 そしてこの大賢者の伝承こそがヴィクトルの仁に対する最大の仕返しとなるのであったが、それはまだまだ、まだまだ先の話である。


 しばしの時を経る。修行の旅を続けるヴィクトルに急報が2つ伝わる。一つ、大賢者、王国を出奔す。二つ、帝国平和条約を破棄し、王国に宣戦布告す。


 ヴィクトルは、その知らせを受け急いで故郷のザールサスに向かうのであった。


 四日間一睡もすることなく飛んだ。その間に三回魔力切れを起こしたヴィクトル。ようやく遠くに故郷ザールサスが見える。

 王城に向かう道中、既に侵略された町や村を見た。街には火が放たれ、死んだ母親に泣きすがる子供。また子を殺されてその傍で泣き叫ぶ母親。戦というものの現実を嫌というほどその目で見るヴィクトル、急ぎ王都へと向かう。


 しばらくして遠くに土煙が立っている、次第に黒い点が蟻の大群のように見えて来た。それはカルダノ帝国の大軍であった。その向こうにはザールサス王国軍が城内に籠城している。


 帝国は新皇帝が新たに即位し、かつての帝国がそうであったように、腐敗により王国の国力が低下していくのを静観していた。この好機に帝国の長年の悲願である王国領を領土とするため、その食指を動かし始めていたのであった。


 アルフレッドが所領に引きこもり数年後、いよいよその時が来た。今や王国にはかつての力も、優秀な貴族らも、そしてかの大賢者もいない。あの狡猾な皇帝がこの機を逃すはずがなかったのだ。


 帝国は一方的に条約の破棄を通達し即座に5万の兵を出兵させる。その志気を高め、十分に訓練された兵はかつての帝国軍とは別物であった。


 王国軍はなす術もなく初戦に大敗退し、いよいよ王都での籠城となる。ちょうどそんなときにヴィクトルは王都への帰郷を果たすのであった。

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