ヴィクトル漫遊記(三)
三人の魔法使いはリーフの介護のお陰もあり、一週間ほどで歩けるほど体力を回復することができた。もうこうなればしおらしいもの、全てをヴィクトルに話始めるのであった。
ここらを治める行政官は5年ほど前に赴任してきたらしく、この地域が地方で中央からの目が届きにくいことを利用し私腹を肥やしているらしい。
この三人の魔法使いらはどこかの国に仕えるほど魔法は使えなかったため、立ち寄るところで金を稼ぎながら旅をしていた。ちょうどそんな時、この地域にたどり着き金に誘われ用心棒になったのだと。
この男たちは自分たちがする悪事に何も感じていなかった。だが、自分の命が尽きようとしたときリーフのあの優しさがその心に響き自分を顧みるようになったのだと、そしてあらためてリーフに向かい深々と頭を下げたのであった。
ヴィクトルにも心当たりがあった。仁との最初の出会いに似ていたからだ。自分の置かれた状況を冷静に判断することもなく、ただ流されるままに過ごしていた少年時代。自分の起こしたことがどれだけ周りに迷惑をかけていたか、今にして思えば恥ずかしくて顔から汗が噴き出てきそうであった。
そんなヴィクトルを見て不思議そうな顔をするリーフであった。
「さて、問題はその行政官だな。今からそいつのところに行って生まれてきたことを後悔させてやってもいいんだが・・・・。」
そう言って思案するヴィクトル。それを真顔でおびえる三人の男。
「お待ちください。さすがにそれでは国を相手にすることになります。貴方があれだけの魔法を使えるとはいえ国の軍隊相手では無理があります!」
一人の男が真剣に制止する。ヴィクトルはそれを聞いてなお邪悪な笑みを浮かべる。
「(大軍相手にしたら、今の実力が分かるんじゃないか?)」
心の中でそう思っていると、その笑みに真剣に怯えながら、男がその思考を中断するようにしゃべり始める。
「俺たち話し合って決めたことがあります。自分たちはあの行政官の悪事を手伝いその全容を知っています。これをこの地域を統べる監察官に自首しようと思っています。せめてもの罪滅ぼしのために。」
そうまっすぐな瞳でヴィクトルを見つめる。なるほど、という顔をするヴィクトルは無言で頷きその意見に同意するのであった。
数日後、男たちの体力の回復を待ち監察官のいる町を目指す。道中ヴィクトルは仁との出会いや思い出話を三人に聞かせるのであった。
それはヴィクトル自身が彼らと似たようなものだということを教えたかったのと、目標となる師を持つことがどれだけ大きいことか、自らの体験を話すことで彼らの意識をさらに変えたかったからだ。
そうこう二日間の旅を経て、監察官のいる大きな町に着いた。そのまま監察官のいる屋敷に向かい守衛する兵士に事情を説明する。兵士の宿舎にある取調室に案内される3人。ヴィクトルは控室で一人座っていた。
取調室での尋問は実に長かった。その間あくびをしながらひたすら待っているヴィクトルに格段に良い鎧を身に着けている男が話しかけてきた。年齢は三十も後半といったぐらい。武人らしく髪は短めでどちらかというとキリッとした印象を持つその男が、
「お前見ない顔だな?なぜここにいる?」
「俺?3人の男をここに連れて来たんだ。」
そう言って、ここまでのいきさつをこの男に話す。腕を組み手を顎に当てながら話を聞くこの男。
「それよりあんた名前なんてーんだ? 俺はヴィクトルってーんだ。」
「おぅすまん、そうだったな。俺の名前はブリックスという。」
横柄な態度をとるヴィクトルを意に介せず自分の名前を言うブリックス。その態度に、こいつただ者じゃねーな、と感じるヴィクトルであった。しばらく歓談すると取調室から男たちと兵士らが出てくる。そのとき兵士がブリックスの存在に気が付き最敬礼をする。
ん?という顔をするヴィクトルに兵士が大声で、
「こら、監察官様になんという態度だ、控えろ!」
という。なるほどこいつが監察官か、そう思ったヴィクトルはブリックスに向かって言い放つ。
「なぁブリックスさんよ。監察官ってーのは悪徳行政官を取り締まるためにいるんだよな?この始末どうつけんだよ。」
これに対し兵士が控えろばかりにヴィクトルに詰め寄る、それを右手を上げて制止するブリックス。
「君の言う通りだ。これに関しては我が不明、この通り謝罪する。」
そう言って頭を下げるのであった。兵士がそれを見て驚く。ヴィクトルもまた驚きはしたが仁が常に言っていた〝士大夫〟という者はこういう人物の事を言うんだろうと感心していた。
自首した男たちはこのまま収監されることになり、ヴィクトルが用事は終えたとばかり置いてあった刀を手に取ったとき、
「ヴィクトルとやら、変わった武器を持っているな?」
そうブリックスが話しかける。ヴィクトルは、
「あぁこれ?これは俺の親父が打った物で刀というらしい、もとは俺の師匠が造った物らしいんだが。」
そう言って刀をブリックスに渡す。抜いていいか、と聞いたのでそれを了承した。その刀身をマジマジと見るブリックス。
「・・・・。」
しばらくの鑑賞して納刀しヴィクトルに刀を返す。
「見たことの無い物だ。だが極めて美しい、もはや美術品と言っていい物だ。」
刀を受け取り、自分の親父を褒められたようでうれしがるヴィクトル。そして、
「で、ヴィクトルの師というのはどなたか?」
ヴィクトルは待っていましたとばかり指で鼻の下を擦りながら、
「ジンって言うんだ。巷では慈光の大賢者、と呼ばれている。」
その名を聞いて唖然として驚くブリックス。この国にもカルダノ帝国とザールサス王国の戦の話は既に伝わっている。しかも、その戦術の巧妙さ、敵を騙すその狡猾さ。その出所こそジンという大賢者であるということを。
「お主、かの大賢者殿の弟子か?」
「あぁ、そうだ。」
俄然目の輝きを増したブリックスは、
「よし、表へ出ろ!」
そう言って強引にヴィクトルを中庭に連れていく。
「おいおい、どうしたんだよ。痛てーなおい!」
ヴィクトルはなされるがまま、広い中庭に出された。
「音に聞こえし大賢者の弟子よ、こんな機会は早々無い。いざ、尋常に勝負せい!」
そう言ってブリックスは自らの剣を抜き、一気に切りかかる。ヴィクトルも刀を抜きその一撃を受ける。
金属同士がガリガリと当たる音が中庭に響く、剣を重ねて近距離で見つめ合う二人。ヴィクトルはブリックスの剣をわずかに逸らし、ヴリックスとの距離をとる。
互いに構えなおしたときブリックスは剣を鞘に納めた。
「いや、見事。あの一撃を受けきるとは、もう十分だ。」
そう言ってヴィクトルに笑顔で話す。ヴィクトルも納刀し、ふぅー、と息をつく。
二人はこの後、屋敷内で食事をし次第に意気投合するのであった。




