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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
生者必滅・会者定離
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絶望と別離


 仁はアーベルの前にいる。アーベルは玉座に座りその横には宰相が立っている。まずは仁が口火を切る。


「陛下に置かれましては最近いろいろとお忙しいようで大変でございますね。」


「さて、忙しいとは何をおっしゃっておられますのか、先生?」


「ここに参ります折、随分と工夫たちが王城の改修に勤しんでおりました。どこか修理を要する所がございましたでしょうか?」


「私はその様な話は聞いていないですが、宰相聞いているか?」


「いえ、王城は常に最高の状態に保たれております。」


 そう白々しく答える宰相。仁はこれに対し、


「私にはところどころ修理を要する・・・いえ、ほぼすべて立て替えてもいいかもしれないと思っておりますが。」


 普段心ある臣下からは王城の改修に対して反対されていたアーベルはてっきり仁にも反対されると思っていた。だが、予想に反して仁が改修すべきだと言う。気をよくして、


「先生もそう思われますか! いやぁー最近城の改修に反対する者も多くて困っておりました。先生から了承が得られたのであれば反対するものもいなくなるでしょう。」


 そう笑いながら話すアーベル。


「陛下、恐れながら私が立て直すべきと申しますのは、王城その物のことではございません。国の事でございます。」


「我が国は依然と違い、先生や多くの臣下の助けもあり今や大きくなりましたが?」


 やや不機嫌そうに言うアーベル。それに同意するように宰相は頷く。


「大きくなったのは自意識のみですね。実体はさほど変わっておりません。」


 この発言に対し宰相が、


「陛下に対して失礼かと思われます。いくら賢者とはいえお控えください。」


 そう気色ばむ。


「ではお伺いしますが、大きくなったという根拠は何でしょうか?」


「それは税収が以前よりはるかに多くなっております。王国内の人口も10年前に比べてかなり増加しました。」


「陛下、いくら税収が多くなり民に数が大勢になったとしましてもそれ以上の支出があれば国はどうなります? 今現在国庫にどれだけの金があるかご存じでしょうか?」


 王は苦虫を噛みつぶしたような顔をする。


「ほら、答えられない。王が自ら民の暮らしに思いを寄せ政治に取り組まなければ、その隣にいるようなお調子者が幅を利かせることになってきます。私が立て直せと言っているのはこの手の人間をお傍から排除し新たに有能なる者を傍に置く必要があるという意味です。」


 そう言い放つ仁。これに対し宰相が、


「陛下に対してこれ以上無礼は許さん。衛兵、この者を追い出せ!」


 と声を張り上げる。これに対しアーベルが、


「待て! 先生のおっしゃっていることは分かりました。最近疲れがひどいので今日はここで失礼します。」


 そう言って玉座から立ち、自らの部屋に歩き出す。宰相はちらりとこちらを見てからアーベルに付き従い歩いて行った。


 仁はこの時心の中で何かが折れる音がしたように感じた。アーベルに対しまだ変われると期待していた。だが、もはやどうにもならないまでにアーベルは変わってしまっていたのだ。そして仁の絶望感は大きく増大していった。


 これ以降何度仁が謁見を望んでも、アーベルも宰相も多忙を理由に会わなかった。


 この間宰相は仁の動きを封じるため、その矛先をアルフレッドに向けた。公正無私のアルフレッドであったが彼らからすれば非難する材料などいざとなれば簡単に作れる。もはや奸臣どもの籠の中にいるアーベルはアルフレッドも商務大臣から罷免することになる。


 仁がこれを知ったときの怒り様は、これから王城を破壊しに行こうかとばかりであった。これを必死に止めたのがアルフレッドであった。アルフレッドにはこの戦いが既に巻き返せないほど劣勢であることが分かっていた。

 そこで、身の安全と家族のため、王都を離れ所領のカーセルに戻る決心をするのであった。後にこの判断が功を奏し、アルフレッドの一族はその命脈を保つことができた。


 アルフレッドがカーセルへ帰る決断をしたころ。仁もこの王国に何ら期待するものがなくなった。いやむしろ憎悪さえ覚えた。


 そして仁も決断したのであった。森の小屋に帰ろう・・・と。その夜、アーノルドの家に立ち寄った。夫婦が出迎える。もうすぐアーノルドに子供ができるという。そんなうれしい知らせを聞いても仁は喜ぶだけの心の余裕がなかった。そんな父の変化を感じ取ったアーノルドは、


「・・・父さん、行くんですね。どこかに・・・。」


 そう父に聞く。仁は、ただ首を縦に振るだけであった。親子の会話はこれで終わった。そそくさとアーノルドの家を出る仁。その後ろ姿を見送るアーノルド。アーノルドにとってこれが父との最後の会話となった。


 翌朝、王都から大賢者の姿が消えた。王城でもこの噂でもちきりとなる。この知らせを執務室で聞く宰相は笑んでいた。


 数日後、次はアーノルド一家も忽然と王都から消えた。かの賢者が記したとされる〝賢者の十冊〟とともに。


 前日アーノルドが庭先で何かを燃やしているのを近所の住人が見たという。その際何を燃やしているのかと問うたところ、ただのゴミですよ、と答えたそうだ。そのゴミとはアーノルドが父の知識をもとに発見したものを書いた論文の全てであった。アーノルドもまた父を見捨てたこの王国に愛想をつかし、自らの知識を王国のために使うことを良しとしなかったのだ。


 アーノルドとその家族の行方はそれ以降誰も知らない。



 さて、シュバイツの森の小屋に着いた仁は、結界を張り大量の酒を飲んで横になる。人というものに対する絶望から深い眠りを求めた。深い・・・・深い眠りに・・・・・。

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