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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
生者必滅・会者定離
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自覚と成長


 ヴィクトルは肉を食い終え一息ついて、小屋の作業を開始する。骨組みの補強を終え、壁を作ろうとするが木材が足りない。そこで土に水を混ぜて土壁にすることにした。地面に水をまき、木の棒でこねる。そして土を盛って行くのだが、これがなかなか進まない。


 少し土を載せ、魔法で火を創り乾燥させてまた土を載せる、その作業を繰り返していくが、ここで魔法の火力を誤り骨組みの木に火がついてしまった。慌てて水をかけて消火するが補強に使っていた蔓が切れてしまい、骨組みが崩壊してしまう。


「クソッ!!!」


 手に持っていた木の棒を地面に叩き付け、しばらく呆然とするヴィクトルであった。上手くいかない悔しさだけがヴィクトルを襲う。そしてヴィクトルはこの場から逃亡を図るのであった。


 荷物を手にし、ナイフを身に纏いこの場から足早に走り去るヴィクトル。その後をこっそり追う仁。


 ヴィクトルは森の中をひたすら走る。それがどの方向を向いているかなど、もうどうでもよかった。ただ、この場から離れたいという一心であった。薄暗い森の中、様々な魔物の声がする。だがヴィクトルには聞こえていない。


 いつの間にか手や足には擦り傷ができ、その痛みにようやく気が付いたとき目の前が少し明るくなった。そこには森が少し開けている場所があり太陽の光があふれていた。


 眩い光の中で目を閉じるヴィクトル、そして目を開けたらそこにはなんと巨大な魔獣が居座っていたのだ。


 身構えるヴィクトルにその魔獣は悠然と立ち上がる。大きさは3mはあろうかヴィクトルの二倍ほどの大きさ。二本の足で立ち体はまるで鎧をまとっているような筋肉に覆われ、牛のような頭に、真っ赤な瞳がある。まるで二足歩行をする戦車のような魔獣である。


 魔獣は一足飛びにヴィクトルの眼前に飛び、大きく長い腕を振りかぶる。ヴィクトルは屈んで辛うじてその腕の攻撃を避け、魔獣の後背の方へ飛んだ。だが、魔獣の反応の方が早く、蹴りがヴィクトルを襲う。不意を突かれたヴィクトルは、なす術もなく蹴り飛ばされ地面に着くことなく、木に打ちつけられた。


 骨がミシッという悲鳴をあげ、身体に激しい痛みが走る。今までここまで殴られたことなどなかった。痛みのあまり激しい吐き気に見舞われ、胃袋の中のものを口から垂れ流す。もはや立てない。地に伏した状態から魔獣を見ると、のそりのそりと近づいてくる。抗うことができない恐怖と痛みで思考が止まるヴィクトル。


「(俺はこれで死ぬんだ・・・)」


 そう諦めたとき。


「だからお前は馬鹿だというんだ!生きることを諦めるな、それが分かるか?このアホウ!」


 そこには口汚くヴィクトルをののしる仁の姿がある。


「お前は自分にできることしかしてこなかった。ヌクヌクとした居心地のいいところでただあぐらをかいて生意気にも自分が生きているつもりでいやがった。だが、今のお前はどうだ? 自分で何もできないことを受け入れることができずにその場から逃げ出し、さらに強敵が現れたら生きることを諦めていやがる。」


 ヴィクトルの目に涙が流れる。分かっている、このおっさんに言われるまでもなく、そんなこと分かっていた。だが認めることができなかった。


 魔法は使えたが、だからと言って仁の様には使えない。何度も何度もこっそり練習してみた。だが、結局出来なかった。周りの大人たちはわずかでも魔法が使えることを大層に褒めてくれるが、あの仁の偉大さの前では自分がまるでゴミクズのように感じていた。プライドだけは高いヴィクトルは自分自身を魔法使いと認めることができなかったのだ。


 だが自分が何者でもないことを認めたくはなかった。自分を大きく見せるために大人の言うことを聞かなかった。自分はできるんだ、ということを周りに認めさせたかった。


 しかし今、何をしても自分では抗うことができない絶対的な暴力が目の前にある。自らの妄想で築き上げられた自我は、現実の力の前にことごとく打ち壊されてしまった。もはや自分には何も残っていない、ヴィクトルはそう思っていた。


「泣く暇があるなら、立って戦え。お前はあのバイドの孫だろ。俺の親友は何よりも強い男だった。俺よりもな!」


 倒れたヴィクトルの脳裏にバイドの姿が浮かぶ。仁は魔力を右の掌に高め、ヴィクトルの体を回復させる。そのとき、大好きだったバイドがヴィクトルの頭をその大きな手で撫でるあの感覚が蘇った。もはやただ立つことにのみ意識を集中するヴィクトル。


「いい根性だ。いいか、俺の言う通りにしろ。」


 そう言って仁は右手でヴィクトルの左手を握る。


 ヴィクトルは立つことが精一杯なその状況の中で膨大な魔力の流れというものを感じ取ることができた。そして、仁が送り込む魔力のせいで、失われた気力が徐々に蘇ってきた。


「いいか、掌に流れる魔力を感じろ。そして意識を集中し右手に今から繰り出す俺の魔法をイメージしろ!」


 仁はそう言って左の掌に大きなかまいたちを発生させる。半月状のそれは掌から魔獣へ向けて猛烈なスピードで繰り出される。刹那、プシューっという音とともに魔獣の右腕が肩口から切りとばされた。悶える魔獣。


「さぁ、次はお前がやるんだ!」


 仁はヴィクトルに促す。ヴィクトルは自らの魔力を意識しながら掌に仁が放ったかまいたちをイメージする。掌には風が旋風している。


「(まだだ)」


 ヴィクトルはなおも意識を掌に集中する。仁が、


「イメージに意識が集中し過ぎている。魔力の流れをしっかり把握しろ!」


 再び体の中に流れている魔力の流れを感知しようとするヴィクトル。そして、掌を通して全身に対流している魔力をキャッチした。すると


「今度は、旋風のイメージが弱くなっている。両方に意識を集中しろ!」


 額に流れる汗、魔獣は怒りに狂いながらこちらへの歩みを速めている。


「(もう少しだ!)」


 ヴィクトルは魔力の流れと旋風のイメージを高めていよいよ魔法を放った。


 旋風が掌を離れまっすぐ魔獣の方へと進む、魔獣は前方に現れた旋風に残された左腕を伸ばす。左腕が旋風を捕まえたとき、魔獣の体が揺れ始める。左腕がどんどん旋風の中へ、そして体を上へと持ち上げようとするのであった。


 魔獣が手を引っ込めようとした瞬間バランスを崩しそのまま体が宙に浮く、そして魔獣は上空彼方へ飛ばされた。ヴィクトルの放った旋風はその後ただの風に弱まり、そして空髙くとばされた魔獣は鈍い音とともに地上に頭を叩きつけた。


 真っ赤に燃える魔獣の瞳が次第に黒く変色する、こうして魔獣の命は尽きた。


 身に余る魔法を繰り出し、意識がもうろうとするヴィクトルは、仁にもたれ掛かるように倒れその意識を失った。


「(こいつすぐ気を失うなぁ・・・。)」


 そう虚仮こけにしながらも、初戦を見事こなした弟子を心の中で褒める仁であった。

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