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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
生者必滅・会者定離
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モーレツ再教育


 シュバルツの森に向かう朝。ヴィクトルは朝食を食べた後に庭でおとなしく待機している。昨夜のお仕置きのためあまり眠ることができずその瞼は半開きの状態であった。


 庭では既に仁がいてニヤリと悪童を向いて笑う。その顔を見て、まさか!、と瞼が全開になるヴィクトル。その瞬間首根っこをつかまれた格好で森の方へ飛んでいく二人。それを見送るアレンとセリーナであった。


 ほんの一時間ほどでシュバルツの森の上空へ着く。ヴィクトルはこのとき既に胃の中の朝食を全て吐きだし、またしても気を失っていて素直なものであった。

 この森に来るのもかれこれ約20年ぶりぐらいになるであろうか、仁は懐かしさにふとバイドを思い出し気を引き締める。


 そんなことを考えている間に森の中の、かつて住んでいた小屋に着いた。小屋は依然と全く変わらない。しかし、庭には木々や雑草が茂りもはや庭として使えるようなものではなかった。


 仁はこの悪童を放り投げ雑然とした庭に茂る木々をかまいたちで刈り取り以前の状態に近づけた。そして結界魔法をかけたままで小屋に入り、少しの食料と薬草、ナイフを持ちヴィクトルに放り投げる。


 それが顔に当たった衝撃で、気を取り戻したヴィクトルはここがどこか分からない。仁は、


「気が付いたか。ここがお前の修行場所だ。お前のふるさとにあるシュバルツの森のちょうど真ん中あたりだ。」


 そういかにも嫌らしい顔でヴィクトルに笑顔を振りまく。


「!!!!!!!」


 ヴィクトルは今は亡きバイド爺さんから、この森には近づくなと口が酸っぱくなるほど言われていたので、ここがどれだけ危険かを多少は知っていた。そこで、周りを確認するようにキョロキョロと見回す。


「ここでしばらくお前ひとりで生活してもらう。多少の食料と薬草、それとナイフは置いてやる。生き残っていたらそこからが修行開始だ。」


 そう言って放り投げた荷物を指し示す仁。


「ちなみに逃げようとしても無理だ。お前も知っている通りここには魔物や魔獣がいっぱいいる。下手に動いて魔獣に出くわしたら最後、お前は死ぬことになるぞ。」


 そう脅して、


「あっ!!!!!!!」


 仁は驚いた表情でヴィクトルの後ろを指さし言う。それに驚き振り向くヴィクトル。森の木々の間をよく見る、空をよく見る、が何もない、何も起こらない。振り返って仁の方を向くとそこには仁がいない!


仁はまんまと引っかかったヴィクトルをしり目に、小屋の結界内に入ったのだ。


 ヴィクトルは慌てて仁が立っていた方に走り出すが、その先にも仁の姿が無い。それを結界内から腹を抱え笑いながら見ている仁。


 ヴィクトル本人はまっすぐ進んでいるつもりだろうが、この結界に入ろうとしても無意識に進行方向がそれているようで、小屋の結界内に入ろうとしても入ってこれない様だ。


「(なるほど、こういう風になっていたんだな。)」


 仁は初めて結界の効果を確認することができた。しかも仁の笑い声がヴィクトルに聞こえてないことから、遮音効果もあることも分かった。


 ヴィクトルはただただ茫然としている。それはそうだ、今までは大人たちが準備した環境の中で自由に行動してきた。そして、それが当たり前であった。だが、今は何もない、何をしたらいいのかさえ分からないそんな環境に急におかれたのである。


 とりあえずヴィクトルは荷物の中にある物を確認し食料の少なさに唖然とする。人間は食わねばならぬ。バイドに多少は狩りの方法を教えてもらっていたのが幸いし、周りに刈り取られた木々を利用して罠を作り始める。


 庭の先には森がある。森の中に少し入ったところに罠を仕掛けていくヴィクトル。それが終れば寝床の作成である。木々を組み、木の葉を集め寝床を作る。そんなことをしていると、もう夕日がさしてきた。


 魔法で小さな火をおこし、それを種火にして焚火をして暖をとるヴィクトル。少ない食料の中から幾分かを取り出し口の中に入れる。


「まずい!」


 口の中の物をペッと吐きだす。そして焚火に向かい座りなおす。


 瞳には揺らめく炎が映し出されていた。おかれた状況をまだ納得できないでいる。自分はなんと不幸なのか、どうして自分だけこんな目に合うのか、いろいろな感情がグルグル頭を回って整理がつかない。そして考え疲れて寝床の上で意識を手放すのであった。その眼にはうっすら涙を流して・・・・。仁はその姿を遠くから見守っていた。


 翌朝、いつの間にか寝ていたヴィクトルは鳥のさえずりで目を覚ます。初等教育課程で自分で多少魔法をこっそり使っていたので水は生成することができた。顔を洗い昨日仕掛けた罠を確認に向かう。だが、どれにも獲物は引っかかっていない。罠をかけなおし寝床に戻って、あのマズい食い物を口の中に入れる。マズいが食わねばならぬ。水で胃袋の中に流し込む。


 寝床も今のような掘っ立て小屋ではもたない。とりあえず生活ができるように小さな小屋ぐらいは作らないといけない。そう腹を決めヴィクトルは小屋を作り始める。木材は仁が刈り取った木々を使い、木に張り付いていた蔓を使い組み上げていく。だが、うまくいかない。


 何度も、何度もやり直すこと数十回ようやく骨組みが出来上がった。そんなとき、罠を仕掛けた森の方から、


「ギャァーーー。」


 と、何か魔物の鳴く声がする。作業をやめ森の方に行くと罠に鳥の魔物がかかっていた。それを取り、急いで寝床に持って行き処理をしてさっそく焼き始める。


 十分火が通ったところでかぶり付くヴィクトル。


「うっうまい!」


 涙が出た。今まで食事で感動したことなどなかった。だが今は違う。空腹に耐えて初めて生きるために肉を食らうのだ。


 そんな姿を仁は結界の中で一杯やりながらニタニタと見ていたのであった。

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