会議の行方
いよいよ王国と帝国との戦後補償に関する会議が開かれた。場所は帝都の王城の一室。長い机の真中に仁とヒルベルトが向かい合いそれを挟むように両国の代表が居並ぶ。
仁とヒルベルトが事前に詰めていた通りに議事は進んだが、最後に王国が保管する帝国兵の武具の返還金額についてはなかなか結論を見いだせなかった。仁とヒルベルトはこの金額については両国とも意見が分かれるところであるから、他の者に議論させようと決めていた。
金額をできるだけ少なくさせたい帝国側、できる限り多くしたい王国側、まさに侃侃諤諤の議論が机を挟んで繰り広げられる。
仁は腕を組み目をつむって双方の議論をただひたすら聞いていた。中には、そんなことどうでもいいのに、と思うこともあったがとりあえず我慢していた。昼食の時間になっても議論は続き、ヒルベルトがいったん休憩を宣言し、1時間後また会議を始めることになった。
そして、休憩を終え続きのゴングが鳴る。そしてまた数時間の喧騒とした時間を耐え抜いた仁。ある帝国貴族が、
「王国側の正使殿のご意見を聞いていない。ご意見をお聞かせいただきたい。」
と発言した。先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返る議場。両国の代表らが仁の方へ注視する。そこで、
「私は正直申し上げますと、金額についてそれほど興味はございません。議論の行方を静観しておりましたのもそのためです。私がこの会議で最も大事にしたいのは両国の恒久の平和です。」
こうして仁の大演説が始まる。ザールサス初代国王ジョーンが残した本の内容に書かれていた王国の起源を語る仁。その内容は既に帝国でほぼ失われ、古い歴史を知る者しか知らないような内容であった。一度皇帝の血筋が絶えたせいで両国の関係が悪化した以前の歴史がそれほど残ってはいなかったのだ。
仁の話を聞き入る帝国貴族たち。皆一応に本来は帝国と王国が親しくしていた事実に驚いている。
「こうして、王国は帝国の一部の割譲を得て建国するに至りました。さて、ここに古い詩があります。ある者が七歩の内に書き上げた詩として有名なものです。」
仁はゴホン、と咳ばらいをしその詩を朗々と吟じる。
「豆を煮るのに豆がらを燃やす、豆は釜中にありて泣く。もとこれ同じ根に生ずるに、相煎るはなんぞはなはだ急なる。」
帝国貴族が、
「その詩のご説明をお願いできますでしょうか?」
と聞くので、仁は、
「元々同じものなのになぜ行違うのか、という意味合いでしょうね。」
それを受けてヒルベルトが重い口を開く、
「帝国は以前皇帝陛下の血脈が途絶え、皇位継承が他家へ移った歴史がある。その際これらの事実を隠ぺいした。帝国はこれをきっかけにして以前の帝国のように生まれ変わらねばならぬ、と儂は思う。」
その発言で、両国の関係者は落ち着きを取り戻した。そして、王国側も返還金額を帝国側のそれに譲歩し互いに同意した。
両国の同意を得て、仁とヒルベルトは握手しそのとき両国の代表者たちは万雷の拍手でこれを称えるのであった。
このあと仁らは滞在する館に戻る。ヒルベルトは皇帝ウォーリスに内容を報告するため謁見に行った。
ウォーリスは合意内容を見ながら不機嫌になる。
「このような合意は同意できん!今一度やり直すのじゃ!」
ヒルベルトは冷静に
「ではどうせよと?既に帝国側の貴族たちも同意しておりますぞ。」
と聞き返す。それを憮然と聞くウォーリスであった。
「そもそも陛下、この合意を破棄する覚悟はおありか?」
そうヒルベルトは眼光鋭くウォーリスに言う。
「今や帝国は風前の灯と同様、いつ消えてもおかしくはありませぬ。かの慈光の大賢者が本気を出せばいまこの瞬間帝都は廃墟と化すでしょう。」
そういって先の戦で見た光景を話し始める。ウォーリスはその話が誇張であると最初は思っていた。だが、クンマーの命が一瞬で刈り取られた事実を知り次第に震え始めるのであった。
「これでお分かりであろう?あの賢者が怒り狂えばもはや手の付けようが無い。陛下は暗殺者を恐れておるが帝国貴族が出す暗殺者など儂でも十分対応できるが、かの者相手では儂では一瞬で死ぬであろうな。」
これでもはやウォーリスは沈黙することになる。ウォーリスは震える指で同意文章にサインをしてようやく正式な決定となった。
二日後、皇帝ウォーリスの謁見に挑む仁。ようやくここまで来たかと感慨深く皇帝の城へ向かう。
時間になり謁見の間に行き、片膝をつき待機するとおびえるウォーリスが皇帝の椅子に座る。これで終戦の合意が宣言され、部屋にいる者たちが拍手をする。そんな中ヒルベルトが、
「賢者殿、陛下が貴殿の魔法の実力を見たいともうされておっての、少しばかり見せてもらえまいかの?」
何やら思惑ありそうにちょっかいをかけてきた。帝国貴族の中でも仁の実力を信じていないものが多いので、是非にと、と周りの貴族たちも口々に仁に言ってくる。
そこで仁は、飛行魔法を使い謁見の間のちょうど真ん中に浮いてみた。そして、柱と同じ太さの氷柱を何本か出してさらにその氷柱を削り、目の前にいるウォーリスやヒルベルトなどの人物に似せた像を作成した。
これを見た帝国側の人々は皆驚愕する。飛行魔法だけでも不可能とされていたのだ、それに巨大な氷に像を削り出すだけの制御。笑っていたのはヒルベルトだけ、恐れていたのは震えるウォーリスだけであった。
謁見がいよいよ終わろうとするとき、仁が
「大変申し訳ございませんが、個人的に陛下にお願いがございます。」
というと、ビクッとして
「な、なんであろうか・・・・。」
とウォーリスが答える。
「カルダノ帝国の初代様がお残しになられた古い文献などございましたら、拝見したいのですが・・・。」
意外な願いにホッと胸をなでおろすウォーリス、
「よ、よかろう(なんだそんなことか・・・)、誰か帝国史書館長 タルタリアを呼んでまいれ!」
こうしてしばらくすると。一人の小柄な女性が謁見の間に入ってきた。こっそり鑑定する仁、その結果に驚愕する。この事実がほろ苦い経験を生むことになるのはまた後日である。さて、
「お呼びでございましょうか?陛下。」
「史書館が保管する古文書を賢者殿に見せよ。」
「かしこまりました。」
こうして、いよいよ帝国初代の書き残した資料を目にすることになる。




