隻腕の兵士と慈光
帝国軍の捕虜は無力化され王国軍の管理下に置かれた。王国軍では、捕虜の取り扱いに関して会議をした。その際に
「私に考えがあります。この捕虜を全て帝国に返還しましょう。」
これを聞いた一同は驚くが、ここで仁の考えを聞き皆なんともはやという顔をするのであった。
仁は両軍のけが人を区別なく治療させた。帝国兵は最初は殺されると思い治療を拒絶していたが、ちゃんと治療されていることが分かると皆おとなしく治療を受けている。
仁は負傷兵の慰問に行くことにし、先ずは敵国の将ヒルベルトを見舞った。胸に傷跡はあるが息も安定しているようで気が付くのにさほど時間はかからないだろうと従軍医師が言う。
次に一般兵士が休んでいるテントに向かった。兵士はこの戦の立役者でもあった賢者を見るなり声を上げて喜んだ。中には重症のものがいたが、仁が可能な限り魔法を施し回復させていくのであった。
そんな中、ある兵士が隣に寝ている兵士を起こそうとしている。
「おい、お前見てみろよ。賢者様だぜ。おいってば!」
そう言ってかぶっている毛布ごと体を揺らす。あまりに激しく揺らすので仁も気が付いた。そこで仁はその兵士を見舞うため近くによる。
「戦でけがをさせてしまい申し訳ない。怪我はだいじょぶですか?」
そう兵士に声をかけ、その隣で頭まで毛布をかぶっている兵士に自然と目が向く。その手はかぶっている毛布を強く握りしめている。仁は不思議な違和感を覚えた。その手には見慣れた傷がある・・・・。
「うん?その手・・・。!!!!!」
仁は兵士がかぶっている毛布を引きはがす。そこにはいるはずのない、と思っていたアーノルドがいたのだった。
「アーノルド・・・!」
仁が声を上げる。アーノルドは仁の顔を見ることができない。ただ震えて泣いているようだ。そして小さな声で
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、・・・・」
こう繰り返すのであった。
仁がアーノルドを見てその異変に気が付くのにさほど時間はかからなかった。あるべきものがない、彼の左腕には包帯が巻かれておりその先には真っ赤な血がにじんでいる。」
「どうして、どうして戦場に来てしまったんだ・・・・。」
しばらくして仁はようやく絞り出すような声でアーノルドに声をかける。
「・・・・どうしても力になりたかった・・・」
アーノルドも泣きじゃくりながら声ならぬ声でそう答える。そして、
「・・・父さんごめんさない・・・。」
そうアーノルドはかすかな声で仁に言った。彼が初めて仁を父さんと呼んでくれた瞬間であった。
仁は震える彼の体を抱きかかえ、
「もう分かった。分かったから。お前の気持ちは分かっているから・・・。」
そう呟き、自分の魔力を高める。仁の体は次第に光りはじめ、乳白色から黄金色へとその色を変えていった。あまりにまばゆい光のため陣中にいたロピタルが驚き、テントの中まで見に来たぐらいであった。
黄金色に輝く賢者を見たけが人たちは、あるものは口を開き、あるものは祈り始めた。
この輝きを見たロピタルは日記に次のように記している。
〝あれは紛れもなく奇蹟であった。眩いばかりの光は兵士たちを癒していく。黄金色に輝く賢者はまるで戦場に降り立った神のような威厳を放っていた。〟
同じ時にこの騒動で意識を回復したヒルベルトもこの光景を見て、驚愕を覚えたのであった。
仁はアーノルドに回復魔法をかけた、だが最終的に腕は再生しなかった。細胞分裂の限界は魔法では越えられないようだった。
黄金色の光が消え、アーノルドの傷が癒えると彼はそのまま静かに眠っている。彼をそのままにし仁はこの場から離れるのであった。
このことをきっかけにし、仁は兵士から『慈光の大賢者』という二つ名で呼ばれることになる。また後日になるがアーノルドは『隻腕の小賢者』という二つ名がつくがこれはもうしばらく後の話。
翌日ヒルベルトは弱々しくはあるが自らの足で歩き、ロピタルら幹部らのいる陣中へと向かった。それはバスカラが戦死したため帝国軍の敗残の将としての役割を受け持たなければならなかったからだ。
まずヒルベルトが、
「貴軍におかれましては、我が軍の負傷兵と捕虜への厚遇感謝いたす。敗戦の責任は儂がとるゆえ一般の兵士にはその責めを負わせぬようお願い申し上げる。」
それに対し
「全ての兵に対して危害を加えるつもりはない。これより移動可能な者から順次帰国を許す。」
とロピタルが言う。それに驚いたのはヒルベルトは、
「なに?捕虜の賠償金を放棄されるというのであるか?」
「左様。ただし条件がある。」
「その条件とは?」
「帝国兵が所持していた武器、防具は一切引き渡さないものとする。」
「つまり、着の身着のまま帰国せよという言われるのだな?ふむぅー。」
いまいち狙いが読めないヒルベルト。そこにゴホンと咳をする仁。
「貴方を信頼して私たちのねらいを申し上げます。」
これにロピタルが慌てて、
「賢者殿、そっそれは!」
「いいんですよ。この老人悪い人には思えません。それよりこちらの意図を伝えて協力してもらう方がいいと思いますけど?」
これを聞いたヒルベルトが
「ほう、ねらいとな?賢者殿はなにを考えている?」
「それは、恒久的な平和です。」
「なに!平和とな。」
そこで仁が自分の考えを語り始める。両国の和平を合意するにはまず民意の醸成が必要であること。そしてロイド宰相を更迭し皇帝を和平へと決断させること。
「なるほど、それは理解できた。だが、武具などを返還しない理由にはならないと思うがの?」
仁がニヤリと笑う。
「そこはじーさん、商売のおはなしです!」
仁は続けて説明する。まず、帝国内では兵士が無事帰ってきたことにより兵力が格段に低下することは避けられた。だが、この兵たちが兵力として活きるには武具・武器は不可欠。なので商人や鍛冶に命令して新しく購入、製作させることが必要になり莫大な金額がかかる。
そこで王国としては、その武具や武器を格安で販売するつもりであること。こうすれば帝国は経費を削減でき、王国は十分な金を受け取ることができる。
「なるほど、帝国がこの申し出を断れば皇帝は貴族からの反発を受け。受け入れれば、帝国の資金が流出することで国力を一時期奪うことができる、そう考えたのじゃな。」
と、仁の隠しておいた思惑を暴露するヒルベルト。やれやれという顔をする仁は、
「おみそれしました。さすがです。ではその真意を知ってあなたはどう判断します?」
「現状で拒否することはできんじゃろ?このまま賢者殿が帝都に向かえば帝都は必ず落ちるからの。どれくらいの金がかかるかは分からんが、金をけちって国を崩壊させるような真似はできんじゃろうて。」
「ふふ、貴方が分かる人で良かった。」
そう言って仁とヒルベルトは手を握るのであった。




