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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
王国と帝国
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魔法使いの戦い


 太陽が昇り始めると霧が晴れる。その前に俵ごと矢を回収し霧が晴れたときには前日とほぼ同じような戦場へと戻った。


「それにしても真相が知れれば帝国はさぞかし悔しがることでしょうね。」


 やや呆れながらダランベールは言う。


「兵は詭道なり、算多きが勝ち少なきは負ける、と言いますからね。何事も計画が大事です。」


 そう胸を張る仁。今のところ仁が計画したものはうまくいっている。


 仁の予想としては昨夜の疲労から帝国が先手を打って仕掛けてくることはないと考えている。それは結果として霧の中の影が帝国軍への攻撃ではなかった、ならば敵側もこれは疲労を蓄積させるための計略としてとらえているだろう、と考えていたからである。


 仁の予想通り、この日は両軍ともにらみ合ったままで帝国軍は王国軍の出方を探っている様子であった。そんな中、帝国軍ではヒルベルトが一人戦場を眺めていた。


「どう考えてもおかしいのぅ・・・・。あれだけ放った矢が戦場にない・・・・まさか!!!」


帝 国軍内においてこのヒルベルトは仁の計略のねらいをふんわりと理解できた。だが、それはあくまでも戦場に霧が発生することが予見できてのことであった。ヒルベルトはそこには確信が持てなかったのである。実際は、仁が人工的に霧を発生していた、などとは夢にも考えていなかった。


 そしてもう一人の魔導士もまたその狙いに気が付いていた。そして、霧に対する対応を検討していたのであった。


 その夜、王国軍の新兵の青年が一人仲間たちと食事をとっている。新兵同士で今朝の霧の計略を話し合っていた。


「さすがに賢者様だよな!あんなことできるなんてよ。これなら俺たち勝ったようなもんだぜ!なぁお前もそう思うだろ?」


 新兵がその青年の肩に手をかけ話しかけてくる。


「・・・そうだな・・・。」


 口数少なく少し微笑んで答える青年こそアーノルドであった。アーノルドは、仁に供をさせてもらえなかった代わりに、勝手に募兵に応募していたのであった。それは、どんな状況でも敬愛する仁の助けをしたい、そう思い詰めた結果であった。


 アーノルドが自分の父を仲間から褒められて内心気をよくしていたそのころ。仁は翌朝もありがたく矢を頂戴しようと水蒸気を大量発生させていた。


 そして翌早朝、まだ日が上がず薄明かりのころ。昨日同様に霧が立ち込める戦場には一面に藁が敷き詰められている。


 仁は昨日と同じように道化を演じた。帝国軍は待っていましたとばかりに準備した弓兵を総動員して矢を放つ。その密度たるや昨日とは違いまるで梅雨の大雨のような矢が地面に降り注ぐ。


「まいどありぃ~。」


 などと不届きなことを考えていた仁、だがそのとき。


 帝国軍の方から、大きな炎の塊が20~30飛来してくる。仁は慌てて飛行で空中へと逃れ、そして全軍に向け最終決戦場へ移動するように命じた。


 ロピタルは全軍をまとめ上げ、霧の中この燃え盛る戦場から半日ほど離れた場所へ撤退する。それを確認した仁は、神経を集中して目の前の霧を見つめる。


 炎上した俵は燃え上がり、その熱によって徐々に霧が晴れる。そして朝日が戦場を照らす頃、霧は完全に晴れてしまった。その戦場を見たバスカラは怒りのあまり目が真っ赤になり体中の血液が沸騰するかのような感情を覚えた。自分がここで初めてコケにされていたのを知ったのである。


 同じ帝国軍内、眼前の景色を見ていたヒルベルトは、やはりそうだったかと自分の推測が正しかったことを確認した。同時に王国の賢者という者の恐ろしさを感じた。そして、自らの愛馬に乗り、杖を携えて戦場に向けて単騎駆けるのであった。


 今ここに二人の魔法使いが対峙している。上空から見下ろす仁、そして地上で見上げるクンマーである。


 クンマーは息をのんだ。なぜかというと今までの魔法理論では不可能とされた飛行魔法を目の前の男が使っていたからである。長い間帝国魔法界で研究はされていたが、実現が不可能であるとされていたモノが目の前にある。


 だが、そんな驚きも己の才能に対する過信からすぐに立ち直り眼前の男に照準を合せた。グンマ―は詠唱をしながら両掌に炎を作る。それを仁に向け放った。猛烈な炎が猛スピードでまっすぐ仁に向かって飛ぶ。ほんの2秒ほどで仁に着弾する。


 着弾したのを確認したグンマ―はにやりと笑い、本陣の方に振り向いた。完全に終わったとそう思った。だが、


「なぁ~んで、こんな炎。お子様が火遊びなんてしちゃ~いけないんだぜ!お仕置きが必要だな。」


 そう間抜けな声が聞こえてきた。あせって振り向くグンマ―。そこには空中で浮き続けている仁の姿がある。


 再び呪文を口ずさみ、炎が両手にできようとしたその瞬間。空中に浮いていた仁が音より早くグンマ―に飛んでくる。仁は、抜刀の大勢のまま空中を加速していき、1秒もかからずグンマ―の背後に降り立つ。


 その目の前には、馬にまたがるヒルベルト。ヒルベルトが馬上から降りたその瞬間。グンマ―の首が大量の血しぶきとともに落ちた。


「馬鹿者、全力を出させるわけがないだろ。」


 仁はそう呟いて、血の滴る刀を振り刀に着いた血をとる。その刀を次はヒルベルトに向けて言う。


「次は貴方が私の相手をするつもりか?これを見てまだかかってくるつもりがあるなら受けて立つが。そうでないのであれば、この若者の遺体を帝国に連れて行ってあげてほしい。」


 と、いつになく決まった仁の姿がそこにある。ヒルベルトは表面上は冷静さを保ち


「お心づかいに感謝する。責任をもって。」


 そう言うに留めた。このときヒルベルトは口の中がピリピリとしびれる感覚を味わいそして自らの死を覚悟した。


 仁はヒルベルトに向けた刀を鞘に納め、飛行して自軍の本隊へと引き帰したのであった。

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