開戦準備
ザールサス王国の隣国カルダノ帝国では、皇帝ウォーリスの前で会議が行われていた。
「さて諸君。ザールサスの最近の急成長には目を見張るものがある。我が帝国とザールサスは因縁の間柄。仮にザールサスが他国と同盟を組み、我が国に戦を仕掛けてくるとも限らない。そこで我はザールサスへの派兵を決定した。これは、検討ではない。故に卿らには今後その対策を考えるようにせよ。」
皇帝の発する言葉を聞く臣下一同。その皇帝の元で一番前列いる陰険な顔つきの宰相ロイド、その対面にはカルダノ帝国魔導士長ヒルベルトがいる。
この二人の重鎮だが、ロイドは陰湿極まりない性格で、自分より優秀なものの足を引っ張り皇帝に媚びを売ることで今の地位に就いたような人物である。
一方ヒルベルトは古き良きカルダノ帝国の遺風を体現したようないわゆる良識派の人物であった。
以前にヒルベルトはこの戦争に何度も反対した。それは、戦争で引き起こされる事態が今までになくより過酷なものになることを予想したからである。だが、それに反論するロイド。ロイドはヒルベルトを弱腰と反論し、この戦争が自国にとって有利であることを力説した。
ヒルベルトの目から見ればそれは自国にとって有利な条件だけを並べ、不利な条件を黙殺しているだけであった。
このように、ヒルベルトに対する反論は感情的なものであり実際の状況を冷静に見たものではなかった。
だが、臣下の大勢は宰相たるロイドが固めており、ヒルベルトを含む良識派は完全に押し切られた結果、ザールサスへの軍事行動の準備が始まることになる。
この動きを王国でいち早く把握をしたのがリミット伯爵であった。そこでザールサスでは国王アーベルを交えての対策会議が開かれる運びとなった。そこには当然のように仁の姿があった。
「このように、カルダノ帝国では武器の確保、食料の移動など軍事行動の前兆が出てまいりました。皆様のご意見をお聞かせください。」
そうリミットが言う。
「カルダノ帝国の派兵可能な兵力は一体どれくらいか?」
「食料の保管、移動状況を考えますとおよそ、7万前後と思われます。帝国は圧倒的多数で一気に我が国を駆逐する作戦と考えます。」
会議に参加する皆が無言で目をつむる。
「帝国は、我が国との戦いをどのように進むと考えているのでしょうかね?」
仁が会議で発言する。
「密偵の報告によれば、宰相ロイドが帝国内を牛耳り、楽勝であるといっている様子です。」
「問題はそれに同調しているのがそれほどいるかということなんですけど、どうでしょう?」
「大勢はロイドに傾いていると報告がありますが、帝国の大魔導士ヒルベルトとその一派は少数派ながら反対していた模様です。ですが、開戦派に押し切られ現在ではおとなしくしているようです。」
「なるほど・・・。」
どうですか、ジン殿。アーベルが仁に問う。
「陛下、そうですね・・・。まだ詳細な情報が足りませんが。戦い様によっては勝つことができるかもしれません。」
「どのようにして?」
「まず現状の確認から・・・。」
そう言って仁は現在のところ会議に上がってきている情報を整理する。兵力だけで3:7こちらの圧倒的不利である。それをどのような戦術で勝負ができるようにするか、その方策を説明する。
「なるほどそうすれば我が軍でも勝負ができる可能性がある、というわけか。」
ここで発言をしたのは、ザールサス王国軍務大臣ロピタル伯爵。
「しかし、この運用をするとなるとどうしても移動距離が尋常ではありません。かなり厳しいものになります。」
そう感想を述べるのが、軍務大臣の右腕ダランベール子爵。ともに軍をつかさどる名門の家柄ながら、それにおごらず実直に用兵を行いる名将である。
「そこで、私が考案したものを紹介します。」
仁が取り出したのは、一つ目はクロスボウ。この世界での弓は短弓と言われるもので、比較的扱いやすいが長距離の狙撃には不向きなものである。一方クロスボウは短弓に比べかなり威力が強く遠くの敵を狙撃することができる。
二つ目は、長槍である。この世界での戦闘はローマ時代の様な短い剣を用いた歩兵同士の戦いが主流である。横一列に並んだ歩兵が一斉に切り合う、それがこの世界での標準的な戦闘形態なのである。この長槍は、長さが4mほどある。
「実戦で使うには、訓練が足りません。ですが開戦までに時間があるでしょうからできるだけ訓練をお願いします。」
「「承知しました。」」
そして仁は、
「私は少し見ておきたいものがありますのでしばらく王都から離れます。みなさん後はよろしくお願いします。」
そう言って、会議は解散となった。
これよりザールサスは対カルダノへの臨戦態勢へと移行する。アルフレッドは商務大臣として、武器と食料の流通を完全に掌握し民の生活に影響が出ないように細心の注意を払った。リミットは、これも仁の提案であるが、今回の戦の正当性を民に強調し国内の意識を統一するようにした。
ロピタルとダランベールの両名は、この新しい武器をできる限り効果的に運用できるように戦術を考案し、兵士たちに訓練をさせている。
その頃仁はザールサスとカルダノの国境にある平野を空から眺めていた。




