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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
王国と帝国
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ザールサス初代国王の本


「賢者って、一体どういうことなのでしょう?」


 と仁がいうとルイスが、


「それは余が説明しよう。その前にこの本をご覧いただきたい。」


 そう言って仁に一冊の古そうな本を渡す。分厚いカバーをめくるとそこにはやはり英語で、


“Nice to meet you, my name is Joan-Saarthus. I am a British man born in 1605. It is a so-called reincarnated person.・・・”


『始めまして、私の名前はジョーン=ザールサス、1605年生まれのイギリス人だ。いわゆる転生者というやつだ。・・・』



 この本の著者はこの国を建国した初代国王ジョーン=ザールサスその人であった。そしてジョーンがどのように建国に至ったか詳しい足跡が記されている。最後に、


『我が子孫には、いずれ現れるであろう転生者を判断できるよう、こちらには無いキリストの教えを残してある。この本を見ている君はキリスト像を見れば驚いたことだろう。私は子孫にこの本を読める人物を賢者として崇めよと伝えてある。・・・・・さて、君のためにいくつかの情報を残しておく。この世界に古くからある国はいずれの国も転生者が建国したものだ。そして転生者は以前の転生者たちの足跡をたどることが使命として課されている。・・・・・・・君の使命が無事果たせるように祈っている。最後に子孫たちへ、国民を飢えや災厄で苦しませるようなことがないよう民の安寧のために努力してほしい。』


 仁は一通り読み終え、本をパタンと閉じた。ルイスとメルケは感動に打ちひしがれている。


 長い間この暗い部屋にいたのでとりあえずは別の部屋でゆっくり話そう、ということになり三人は別の部屋で話をすることになった。新たな部屋に入り、椅子に座ってお茶を飲んでのどを渇きを潤した仁はあの本に書かれていたことをかいつまんで説明する。


「初代国王が残された教えは歴代王たちと時の宰相にのみ伝えられてきた。そしてこの教えを民に広めることは固く禁じられていた。これがその理由だったとは。賢者の顕現けんげんを広く民に伝えなければならない、宰相手配を頼む。」


 そうルイスが言ったとき、


「いえ、それはお待ちください。どうも私が賢者だなんてとんでもないです。確かに、私は転生者であります。ですが、だからと言って賢者などと言われる様な人間ではありません。」


「だが、さっそく様々な発明をされておられる。それでも賢者ではないと?」


「確かに発明はしましたが、それは前世での知識を用いたまでです。」


「結果としては同じであろうと思われます。どうか、その知識を我らにお与えください。そのためにも賢者殿を我が国の重鎮としてお招きしたいと考えております。」


 メルケが言う。


「いえ、固くお断りいたします。私は自由な生活を好みます。それに、民の暮らしを考えるのであれば上から見ていたのでは分からな事の方が多いと考えます。民のため手助けをする、というのは可能な範囲でお手伝いはしますが、権力者の立場になるつもりはございません。もし、それを強いるのであれば、私はこの国を出ます。」


 そう仁は言い切った。


 その後仁の立場について話し合った結果、国家を運営する大臣のような役職ではなく王や宰相に助言を行うような立場というややふわふわしたもので一応の決着がついた。


 長い間王城での時間を過ごし、アルフレッドとようやく再会したときには夜になっていた。


「で、いかがでしたかジンさん。陛下との謁見は?」


 帰りの馬車の中で仁に言う。仁は


「賢者にされました!」


 そう一言だけ放ち、ぶ然としたまま子爵邸へと帰った。



 世間には賢者ジンの存在は知らされてはいなかった。ただ行政を司どる大臣たちや軍事をつかさどる将軍たちなどほんの一部の限られた者は仁の存在を知っており、各大臣からは実に様々な協力の要請が次第に来て、仁もなんだかんだで協力をした。


 そうすると、当初はその存在を隠していたが徐々に賢者ジンの存在は知られるようになり、十年後には王国内では知らないものがいないまでになってしまう。


 そんな忙しい仁も相変わらずアーノルドを可愛がった。仁は勇気をもってお父さんと呼んでもいいんだよっと言ってみたが、アーノルドのスルースキルの方が上をいっていたようで、何もなかったかのようにスルーされてしまったという若干痛い経験もした。


 だがアーノルドは本当のところは仁からの愛情を実に素直に感じていて、それに応えようと成長を見せる。そのアーノルドの才能が開花するのがちょうどこのころであった。アーノルドに勉強をさせようと仁自身が算数や数学の本を書いて渡したところ、高い理解力を示しその内容をたちまちのうちに自分のものにしたのであったのである。


 この十年間でアーノルドも15歳になった。もはや成人の年齢であり、今ではアルフレッドの下で実務も経験している。

 アーノルドは体格こそ華奢ではあるが、身長はもう仁と同じぐらいにまで成長した。顔や体には幼いころの傷がまだ残ってはいるものの、大人びて、しかも必要最小限にしかしゃべらないその雰囲気は親代わりの仁と違い貴婦人たちから人気であった。


 王国においてはこの期間、農政、行政、法制、そして税制を改革しザールサス王国は新しい制度の下生まれ変わろうとしている。その過程でアルフレッド、およびリミット両子爵は功第一の働きを見せる。この功績で両名は伯爵へ陞爵され、併せてリミットには内務大臣を、アルフレッドは商務大臣を任されることになった。


 両名の陞爵とほぼ同時期に、現国王ルイスは退位し、皇太子のアーベルが新国王として即位することになりその戴冠式ではなんと仁がアーベルに冠を載せる大役を担った。アーベルはアルフレッドよりも少し若いが、臣下からの意見によく耳を傾け自らも良い王たらんと勤勉に働く人物であった。仁に対しても師に対するように接し、仁もこの優しく優秀な人物を頼もしく思った。


 そんな有能な人材を多く輩出した当代では国力が大幅に増加した。それは同時に軍事力の増加にもつながった。ルイスが王であったときは、兵力は1万程度であったのが、今では3万まで徴兵可能なほど充実した。


 そうした国力の増大に危機感を露わにしたのが、軍事国家として名高い隣国カルダノ帝国である。


 初代ザールサス王の残した本によると、初代ジョーン王は当初カルダノ帝国に属していた軍人であった。だが、功績をあげて帝国の辺境の領土を与えられ新たに王国を建てた。そういう事情もあり建国当初は帝国と王国は友好関係にあった。


 しかし、帝国は途中で直系の世継ぎがいなくなる。帝国では内乱の後に皇帝の縁者が新たな皇帝として即位するに至った。だが、そのせいで臣下や国民に対して求心力が著しく低下することになる。時の皇帝はそれを外敵を作ることで国民と臣下の意識をそらすことを考えた。その外敵こそザールサス王国であった。


 それは、本来は帝国の一部でありながら独立した反逆者、という意識を国内に広げ対抗意識を高めることにより帝国の求心力を高めるという手法を用いたのだ。それが帝国で浸透し次第に帝国と王国の関係は悪化することになる。


 何回かの戦争と停戦を経てかろうじて王国が勝ち今に至るが、地理的要因から長期的に見れば帝国に有利である。そこで100年ほど前から帝国は軍事的な行動よりも、じわじわと国力を弱める方法へと舵を取っていた。だが、ここへきて急速に国力を高めている王国を帝国は見逃せなかった。国内世論がそれを許さなかったのである。


 こうして帝国は王国への軍事力の行使に舵を改めるのであった。

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