伝説の賢者出現す!
陞爵に関わる一連の行事が終わり、シュミット家が落ち着きを取り戻せた頃。いよいよアルフレッドの当主としての仕事が始まった。
まずは、人材の確保である。今後の所領の開発や物品の管理など、今まで以上に事務作業が多くなる。それに加えて自分の爵位に対して保有する兵士の数が少ないというのも問題であった。いざ事が起きたとき、所領を持つ子爵としてはある一定数の派兵をする必要がある。現在は100名程度。これでは全くの不足である。
まずは幹部となり得る人材の確保だが。これはメルケやリミットの息のかかった貴族連中の次男坊や三男坊の中から優秀であるものを見繕いアルフレッドに紹介してくれたおかげでめどは立った。
兵士に関しては仁の、王都で移民やスラムの中から一定数の採用をしてみては、という案を採用した。
もちろんこの案を採用できたのは、仁の鑑定スキルのおかげで悪意のありそうな者を場外することができた、ということが大きい。だが一気に兵士を採用することはできないので、当面は少しずつ採用していくことになるのであった。
アルフレッドとダミアンはこれらの人材育成に日々忙しくしているとき、仁は保護した少年と過ごす時間を大事にしていた。
ある日、少年が寝ているときにアルフレッドとともに外出していると少年が目を覚ました。いつも傍にいる仁がいないことに急に不安を覚えた少年は、仁の名前だけを大声で叫び屋敷の中を仁を探しまわるという事件があったのだ。
このとき子爵邸の家人たちは初めて少年がしゃべるのを聞いたのだった。
それ以降、仁はほぼ少年と一緒にいることにした。食事も、お風呂も、そして寝るときも仁が覚えている物語を聞かせた。日本のおとぎ話、グリム童話、アラビアンナイト、など覚えているだけの物語を、まるで我が子を慈しむかのように。
仁は少年が自分のことを話し始めてくれることを待っていた。だが、変化の兆しがない。そこで、仁は自分から動いてみることにした。
ある日、仁はいつものように少年と食事を終えた。そして一息ついたころに、屈んで少年に目線を合わせた。
「さて、今日は少しあなたに聞きたいことがあります。今まで聞くことをためらっていたのですけど、あなたの名前は何と言いますか?」
「・・・・・。」
下をうつむく少年。
「まだ、話せないのでしょうか?」
そうすると、少年は首を大きく左右に振る。
「では、名前を知らないということでしょうか?」
そうすると、少年は下をうつむきながら小さく頷いた。
「なるほど・・・。では、どうでしょう。私が名前を付けましょうか?」
そう仁が話すと、少年が顔を上げ、仁を見て大きく頷く。仁はうれしくなり少年を見る顔が笑顔になる。
「そうですか、じゃぁ名前を考えましょうか。さてと・・・・そうですねぇ・・・。」
そういってしばらく考える。
「よし、アーノルド。そう、アーノルドにしましょう。男の子だし、なんだか強そうな名前でしょう? きっとあなたに相応しい名前です。いかがです?」
「・・・アーノルド。僕の名前はアーノルド・・・。」
仁はこの時初めて少年の声を聴いた。そして、じーんと心が温かくなっていくのを感じていく。仁は油断すると目から心の汗が流れてきそうだった。
こうして、孤児の少年はアーノルドと名乗るようになる。この日をきっかけに、アーノルドは少しずつ日常生活を営めるようになっていき、仁がいなくとも一人で過ごせるようになっていった。
そうこうしていると、とうとうルイス王との謁見の日がやってきた。当然だが初めて仁がこの申し出を聞いたときは全力で拒否した。だが、もはや子爵家に随分と近づいてしまった身の上。もはや拒否することはできそうにない。こうしてアルフレッドに伴われ王城へと行くのであった。
王城の一室。アルフレッドと仁は同じ部屋で待機させられていた。すると、衛兵から宰相閣下が来るという知らせを受ける。二人は席を立ちメルケが入室するのを待つ。間もなくしてメルケが仁の前に座る。
「まぁ掛けたまえ。」
「ありがとうございます。」
仁は頭を下げ椅子に座る。
「そちの開発した水くみ器、実に素晴らしいものであった。そのような物を発明するのださぞかし高名な学者の元で学ばれたのであろう?」
「そのことにつきましては、実は記憶がございませんので。」
「ほう・・・、まぁそれは良い。実はそなたの学識をもって解明してもらいたいことがある。この手紙じゃ。」
そう言って、一枚の紙を渡された。
「これは王家に伝わる文書なのだが、この国で使われている文字ではない。そなたならこの文字解読できるかもしれぬと思って持ってきた。」
渡された紙に目を落として見ると、なんとそこには・・・英語の文章がある。驚いた仁は声を出して読む。
「ユーシャルハブノーアザーゴッズビフォァミー。ユーシャルメイクノーアイドル・・・・。」
「おぉぉぉぉ!それは何と書いてある。」
「はい、これはモーゼの十戒という十カ条の戒めです。最初は私以外の神はあってはならない。偶像を崇拝してはならない・・・・という意味です。」
「なるほど、そうであったか!(やはり、この者伝説にある通りの・・・)」
そう何やら考えながら渡した紙を手に取り見つめるメルケ。
「おぉ、もうしばし待ってもらえまいか。陛下と少し話をしてまいる。」
そう言ってそそくさと部屋から出ていくメルケ。三十分ほど待ったか。メルケがまた登場し、今度こそ陛下のところに行くことになった。ただし、当初の予定とは異なり仁のみを連れて。
長々と王城内を歩く。初めて王城に入るので仁は自分がどこにいるのか分からない。だが、どんどん王城の奥まったさらに地下室への方へと案内される。なんだがやばい感じがするなぁと身構えながら歩く仁。
そして、メルケが止まる。
「この奥に陛下がおられる。」
そう言って、重い扉をメルケ自身が開ける。眼前にはなんと・・・キリスト像があるではないか!
「あれ?なんでこんなところにキリスト像があるんだ?」
そう言って仁はキリスト像の方へと歩く。教会で見慣れたあの磔刑の像である。背後に人の気配がした仁は振り返ると、そこには初老の男とメルケが膝を屈して頭を下げている。
「お待ちしておりました、賢者殿。」
この初老の男こそルイス王その人であった。
「けんじゃぁぁぁぁぁぁ????、何のことよーーーーー」
仁の声が暗い室内に響き渡る。




