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転生隠者は賢者になる  作者: 太白
子爵家当主として
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王都到着


 スメルの街を出た仁一行は、そのまま王都を目指した。馬車の中で少年はただ眠っている。初日は全く起きずにそのまま寝続けた。二日になりようやく目を覚ました。だが、ぼーっとしたまま食事を欲しがるわけでもなくただ馬車の窓から外を見ているだけであった。


 三日目になり仁は少年の目の前でわざと食事をとった。少年の生きようとする意識を目覚めさせるために。

 そして、今回もダメかとそう思ったとき。少年は初めて仁を見る。仁はちぎったパンをスープにつけ、そっと少年の口へと持って行った。

 そしてそのまま口元にパンをかざしたまま待つこと数分、少年は少し口を動かしたのだ。仁はそっと口の中へふやけたパンを入れた。


 咀嚼することもなく少年は口のものを胃袋に入れた。少年の目は虚ろのまま仁を見る、そして少年の目には涙があふれだしたのだ。


 仁はあふれだす涙を見て、自分の目頭が熱くなるのを感じた。小さな子が、今ようやく生への実感を取り戻そうとしているのだ。生きているという実感を取り戻そうとしているその姿が、愛おしくもあり健気でもあり、仁の心を揺り動かすのであった。


「私の名前はジン、貴方をここまで連れてきました。さぁ恐れる必要はありませんよ。ゆっくりお食べなさい。」


 そう言って、少年に食事を勧めるのであった。


 こうして王都に着くまでの間に少しずつではあるが、食べるものを口に入れることができるようになった少年は、馬車の中で仁の膝枕の上で寝るようになっていった。だが、まだ一言もしゃべらないままであった。


 王都に近づくと、街道にはカーセルなど比較にならないほどの馬車や荷台が行き交う。そういうしていると王都への入り口に差しかかった。

 王都へ入る際は必ず検問所を通過するようになっているが、平民の入り口と貴族の入り口は完全に分けられていて、アルフレッドは迷うことなく貴族の方へと馬を進ませるのであった。


 門番もいつものように検問をするが、どうも仁の方を貴族だと思ったようだ。しかも小汚い格好をした子供を連れている。そこで、馬上の若い男に理由を尋ねると、馬上の男の方がシュミット子爵家嫡男であるというではないか。


 驚いた門番は、冷や汗を流しながら謝るだけ謝って結局少年のことを聞くことも忘れそのまま馬車を王都に入れるのであった。


 アルフレッドは、感謝する、と述べて悠然と検問所を通り過ぎる。だが、その後ろ姿は肩を震わせ笑っているようであった。


 今回の王都招へいは、シュミット子爵当主のノルドには知らされていない。ノルドには秘密に計画が進んでいるため、アルフレッドは自分の屋敷には行くことができないのである。

 そこは、兼ねて計画の通りリミット子爵邸へと向かうのであった。都合のよいことに、ノルドの屋敷とリミットの屋敷はかなり離れており、当事者たちが直接会う可能性も少ない。それに・・・・これはリミット自身が自分の娘とアルフレッドを見合わせることも計ってのことである。なかなか食えないリミットである。


 リミット子爵邸に着いたアルフレッドをリミット自身が迎える。アルフレッドの後方で控えるダミアンと仁、そしてその横に例の少年がいる。


 リミットは少年に気が付くが、あえて触れず屋敷の中に四人を招き入れる。広いロビーの中何人もの執事やメイドが待機しており、アルフレッドらに頭を下げた。


 その中を通り、屋敷内の奥まった部屋に通された四人。リミットが椅子に座り、その後に三人が椅子に座った。少年は座る仁に寄り添うように仁の傍から離れずにいる。そんな少年の肩に手をポンポンと軽くたたき少年を落ち着かせようとする仁。


「先ほどからジン殿が連れている少年はジン殿の縁者か何かか?」


 いえ実は、とスメルでの出来事をリミットに全て話す仁。


「まぁお主のことだ、悪いようにはせんであろう。そう考えたからこそ了承したのであろう?アルフレッド殿?」


「はい、そうですリミット卿。あれほど真剣な顔を今まで見たこともありませんでしたし。」


 そう言って仁を茶化すアルフレッド。仁は心配しなくていいんだよ、と優しく笑顔で少年に微笑む。


 そうしていると、一人のうら若き女性がメイドを連れて部屋に入ってきた。


「おぉ、アルフレッド殿紹介しよう。我が娘ルイーズだ。」


 アルフレッドは椅子から立ち上がり、貴族らしい仕草でルイーズに挨拶をする。


 ルイーズはそれに目もくれず、父に対して言い放った。


「父上がお決めになった結婚相手は、こちらのシュミット卿のご子息でしょうか?」


「「「はぁ????」」」


 アルフレッド、ダミアン、そして仁が声を上げる。それを聞いてビクッと驚く少年に、仁がまた笑顔で落ち着かせる。


「一体どういうことでしょう、リミット卿。そのようなお話初めて伺うのですが。」


「うむ、初めて、、、であったかな。まぁよいではないか。既に陛下からの裁可も得ておるし。」


「「どうして、そんな勝手なことを!!」」


 アルフレッドとルイーズの声が重なる。それにまたおびえる少年。


「あぁ、あのう私はこの子と外でいますので。そのへんのお話はどうぞそちらの方で・・・・。」


 そう言って、そそくさと少年を連れ立って出ていく仁。うまいこと逃げたな!、そう思いながらジト目で仁を見送るダミアン。


「さすがにいきなりですリミット卿。お嬢様も驚いておられるはず。私としましてもどう対処したらよいものか分かりかねます。」


「お父様、アルフレッド様もそうおっしゃっておられます。」


 と二人して狼狽えている。それを見かねたリミットが、


「二人ともいい加減にしろ、まぁ落ち着け。ルイーズ私としては父としてお前に相応ふさわしい相手をと考えている。アルフレッド殿はその人物だと自信をもって言える。そして、アルフレッド殿、今回の騒動が決着すれば、すぐにでも婚姻の話が舞い込んでくる。しかも、一度もあったことが無いどこぞの子女とだ。それに比べたらまだ互いに知り合うことができるのだ、しかも我が娘自分で言うのもなんだが、どこに出しても恥ずかしくないと自負しておる。」


「ですが・・・。」


「それに陛下よりも無理強いはしないようにと念押しをいる。互いに嫌だというならそれも仕方がないが、それはもう少し互いに知り合ってからでも遅くはあるまい?」


 そう言って、この二人を納得させるのであった。伊達に宰相の右腕と言われるだけのことがある、そうダミアンは思った。


 こうして、王都に到着早々波乱が始まるリミット邸であった。

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