リミットの報告
見た感じと違い、案外おっちょこちょいであることがバレたリミットに心の中で盛大な突っ込みをいれたアルフレッド。
リミットから今回の下向に関する王家の真意を聞かされる三人。
「ぼっちゃ、いや若様はそれをお受けになるつもりなんで?」
「うん、以前にジンさんに言われたからね。」
仁は、うわぁぁぁぁ余計なこと言っちまった俺ってバカ、とあちゃーっという顔をする。
「そこで、ジンさんには私と一緒に王都へ行ってもらおうと思っています。ジンさんにも発言の責任取ってもらいますからね!」
爽やかに笑顔で仁を見るイケメン。それに皆が同意するかのようにうなずく。
「といいましてもね・・・・、なにやら伏魔殿のようなものでしょう?愛憎入り乱れる王宮なんて物語の中だけで充分ですよ。それに私は尾を泥中に引く方がいいんです!」
そう言ってあからさまに嫌そうな顔をする仁。
「そうは言うがな、ジン殿。貴殿が適任ということもある。それはシュミット子爵殿の反応だ。事がうまく運べばよいが、手違いがあったときむしろ弑されるのはアルフレッド殿である。貴殿はそれでもいいのか?」
「そ、それはそうですが・・・。ほら、貴族と関わるとこういうことになるんですよ。さっそく私の自由はどちらかに飛んで行っています。」
「なら、それこそもうあきらめるがよい。すでに関わっているのであるから。それにジン殿の自由とやらがどちらかに飛んで行ったのであるなら、それは間違いなく王都の方角であろうよ!」
そう言ってリミットはハハっと笑う。貴族のウイットというのはこういうものらしい。
「なら仕方がない、その飛んで行ったところに私の自由を探しに行くとしましょうか。」
そう言ってグビッと酒を飲み干し、ぷはぁ~という。
「それでよい。では、今夜は大いに飲もう!」
と、リミットが音頭を取り領主邸ではにぎやかな晩餐が再び始まるのであった。
翌朝は全員ひどい二日酔いになり、仁が魔法で四人のアセトアルデヒドの分解を促進させる。
復活を果たしたリミットは領内にある水くみ器を視察し、その効果を確かめていた。アルフレッドは仁とダミアンに今後の予定を確認しているのであった。
二人はアルフレッドの王都行きにダミアンは執事として、仁は随臣という立場でついていくことになった。
仁は衛士であるので鎧を身にまとうことができるが、仁にはかえって体の動きを阻害されるため不要であると判断した。その代わりとして新しい服が新調されることになった。これで仁もとうとう貴族に連なるものに仕立て上げられたわけである。
リミットが領主邸に帰ってくるなり、水くみ器の実用性に驚いていた。そして、これを普及させる努力を最大限するという確約をアルフレッドは得ることができたでだった。
リミットは、アルフレッドから買い上げた酒と二体の処理済み魔獣、そして設計図を携えて翌朝王都に向けて出立した。アルフレッドの王都行きは後日また連絡をよこすとのことであったが、少なくとも一か月ほどはかかるということなので、仁は一度セリナ村に帰ることにしたのだった。
アルフレッドとダミアンは、領地を離れる際の段取りにとりかかり始める。
日数が経ち、王都に帰ってきたリミットはそのままメルケ宰相に謁見を申し出る。王城の一室でしばらく待たされた後、宰相の執務室にリミットが呼ばれる。広い執務室にリミットは手に設計図と酒を携え、高価そうな木箱を二つ伴って入る。
「リミット卿ご苦労であった。」
「ハ、ただいま帰還し勅命を滞りなく遂行いたしました。」
「では、詳しい報告を聞こう。」
そうして、宰相とリミットがシュミット領での出来事を話し始める。
まずは、酒はシュミット領内で新しい産業として醸造しており、その生産量は今後より多くなりそうであること。また、水くみ器という新しい機械を開発し平民が使いやすいように普及させるべく、アルフレッドがその設計図を王家に献上するということ。そして、その実用性は素晴らしく、リミット自身も驚くほどの性能であった、ということを若干興奮しながら説明したのだ。
「貴殿がそこまで入れあげるというのも珍しいな、それほどの男かアルフレッドという若者は。」
「間違いなく今後の王国にはなくてはならない人物であると愚考します。そして、それに関してお願いがあります。」
「ほう、それは?」
「我が娘、ルイーズを嫁がせたいと思います。我が子ながら才色兼備、アルフレッド殿であれば、申し分ありません。これは是非にお願いしたいと思います。」
「なるほど、そこまで言うのであれば私から何も言うことはない。当主になれば、さっそくいずれかとは婚姻をせねばなるまいし、貴殿であれば私としてもちょうどよい。陛下には、私から言上しておこう。」
「は、ありがたき幸せ。それとは別件でまだご報告したいことがあります。」
「それは後ろにある箱の中身のことか。貴殿が私に賄賂を渡すとも思えんが?」
「お戯れを・・・。もちろん賄賂などではございません。こちらもシュミット領から王家への献上品ですが、驚かれること必至でございます。」
そういわれ、宰相がつかつかと箱の方へ歩き、そっと蓋を開ける。するとそこには美しいアケロンの羽がある。
「こっこれは!!アケロンではないか。どうしたこのようなもの。我が生涯でこれを目にできるとは思いもよらなかった!シュミット領からのということであったが、詳細を述べよ!」
そう言われてリミットが仁のことを報告するのであった。酒にまつわる一連の動きを陰から仕組んだ張本人であると。
しかし、野心がなくどこかつかみどころのない隠者であり、稀にみる魔法使いであると。
仁の発言を一つ一つ宰相に報告するリミット。
宰相は何か思い当たることがあったのであろうか、急遽リミットを連れて部屋から出て移動し始める。そして、王城の奥、王の住まう領域へと進むのであった。下級貴族の子爵位であるリミットはこんなところへ来ることなどない。緊張の面持ちで宰相の後を歩く。
執事が二人で大きなドアを開ける。そこには、平服を着た王が椅子に座って待機していた。
「突然の訪問いかがした?」
「恐れながら、陛下にご報告したいことがありまして。これに先ほどシュミット領に下向させましたリミット卿を連れてまいりました。」
「リミット卿ご苦労であった。して、何があったか?」
右膝をつき、顔を下に向けたままこの下向の内容をすべて王に報告する。王もリミットの言うことに下問したりうなずいたりと興味がある雰囲気であった。そして、部屋には二つの箱が持ってこられ、王みずからゴルテミスとアケロンを確認する。さすがに王もこれを見たときには驚いた声を上げた。
そして、リミット卿の娘とアルフレッドの婚姻も王から裁可を得たが、無理強いはしないようにとの念を押された。そして、リミットは執事に連れられて部屋から出ていったのである。残された宰相と王が感想を述べあうのであった。
「陛下、アルフレッドという若者は私が思っていた以上の者やもしれません。そしてジンという隠者。」
「隠者のう。宰相はひょっとして王家に伝わるあの伝説の賢者がジンなる隠者ではないかと、そう思っておるのであろう?」
「恐れながら。仮にそうであれば、この王国に大きな災いが起きる前兆。そしてその賢者こそこれを解決できる唯一の賢者であらせられます。この度のこと、このメルケにお任せいただけますでしょうか?」
「うむ宰相の思うようにしてよい。必要とあれば王家が秘蔵しておるアレを用いることを許可する。」
そう言って、机に置いてある紙に王がペンをとりスラスラと何かを書き入れ、王の紋章を押す。そしてその紙を丸めて宰相へ渡す。
「ありがたき幸せ。ジンなる隠者をしっかり見定めたく存じます。」
「よろしく頼む。」
そうして、宰相は王の元を去るのであった。




