暴露大会開催!
「それにしても、アルフレッド殿が有能であるとは聞いていたが、数年で所領をここまで発展させ、しかも新しい産業を生み出すとは、しかも失礼ながらその年齢で。大したものだと感服する。」
「とんでもありません、私などリミット卿の王都での実績に比べれば足元にも及びません。私ができましたのはただ幸運だっただけでございます。」
「謙遜は無用だ。宰相閣下が王都へ貴殿を招へいとする理由が今はっきりと分かった、今回の計画疎漏なきように進む必要がある。」
「いえ、決して謙遜ではございません!」
と、少し語彙を強めるアルフレッド。
「ん?どうなされた?なにか失礼を申し上げたか?」
「いえ、実はこの酒を生み出したのは私ではございません。ある平民がすべて行ったものなのです。」
と、この一連の出来事の立役者が仁であることを説明する。そして、直接ではないが自分がシュミット家を滅ぼす、とまで言われたと苦笑を交えて。だかその顔は決して嫌な顔ではなく、ただただ素直に仁の人柄を好ましく思っている、そんな顔をしていた。
「ふーん、そのジンという者いかなる男なのであろうか?」
「実は私たちもはかりかねています。ですが、深い思慮に自分を前に出すことを潔しとしない。まるで隠者のような魔法使いです。」
「な!魔法使い?それは誠か?」
「はい、今からリミット卿にすべてをお話しします。」
と言って、別室にある水くみ器の設計図を見せる。
リミットはこれを見ても最初は何をする物か分からなかった。アルフレッドがこの水くみ器のことを説明すると、その表情が一変し、リミットが驚いているのが手に取るように分った。
「既に、この領内において普及しております。ジンの意見通りこれより他領へと普及し始めようと思っておりました。そこでリミット卿にお願いがあります。」
「なんであろう?」
「この設計図を王家に献上いたします。陛下の格別のご配慮を賜り王国内に普及できるように申し上げていただけませんでしょうか?」
「それは構わぬ。このようなものを王国内で普及できれば、民の暮らしひいては国力の増大につながるであろう。宰相閣下にもそのように申し上げる。」
「ありがとうございます。そして、さらにまだございます。」
「まだ何か?」
「実は・・・・。」
アルフレッドはダミアンに仁が狩ってきた二体の魔獣の処理したものを持ってこさせる。それを見たリミットは
「こっ、これは・・・・。これをどうされた?」
「すべてジンが取ってきたものを処理し、しばらくここで保管しておりました。なにぶんモノがモノだけに私では何とも。リミット卿は実直なお方ですので、卿を信じお帰りの際お持ちいただいて、王家へ献上していただけませんでしょうか?」
「それは構わないが・・・しかし、アケロンとはな。そのジンという男に私も会ってみたいものだ。」
「実は、カーセルに現在留めております。ただ、本人が会う気がなければ失礼ながら貴族の立場をもってしても会わないと言い張るかもしれません。それをリミット卿には承知していただけますでしょうか?」
「承知した。多少の無礼は目をつぶると約束する。」
その頃仁は練兵場でゲオルグと立ち話中であった。
「さて、坊ちゃんにどういう話が来ているんだか・・・。」
「あまり考えても仕方ありませんよ。今日はアルフレッド様は勅使との夕食でしょ?それが終われば私らにも話を聞かせてくれるでしょう。」
「そうだがな・・・」
「そんなことよりも、今夜の夕食は私が作りますのでそっちの方を楽しみにしたらどうです?酒もありますよ。」
と、仁が言うとゲオルグは気を取り直してニタニタと笑うのであった。
夕刻、領主邸の一室でゲオルグは待っている。仁がそこに皿いっぱいのから揚げと、いくつかの料理を持ってきた。もちろん飲み物は酒、あとビールもある。二人がビールを手に乾杯をしようとしたとき、アルフレッドが、
「ジンさん、私たちも一緒に食事をしていいですか?」
「あれ?いま勅使様とご一緒じゃないんですか?」
「そうなんですけど・・・実はその勅使様もご一緒したいともうここにおいでなんですよねー。」
こいつわざとだな・・・、そう仁は確証した。だが、向こうからやってきたのだ、ここで無下にするのは大人の男として甲斐性がない。
「まぁそういうことならいいんですけど、貴族の作法とか知りませんけど大丈夫なのですか?」
というと、アルフレッドの奥から三十代半ばの男がガツガツと部屋の中に入ってきて
「心配には及ばんさ、無礼講といこう。なにせ王都ではやりの酒があると聞いてな。」
「まぁそういうことでしたらどうぞ・・・。」
この部屋にはアルフレッド、リミット、ゲオルグ、ダミアン、そしてただの平民仁が酒を飲んでいる。世間では信じられない光景であろう。
「おぉ、酒もさることながらこのビールもいい味だ。このから揚げというものとも相性がいい。これは王都では流行らせないのか?」
とアルフレッドに聞くと、アルフレッドはそのまま仁の方へ視線をずらす。
えぇ、俺が言うの??という風な顔をするが、咳払いを一つして、
「ビールは大麦を原料としますので、シュミット領内でさほど手を加えることなく醸造できます。ですからこちらは庶民向けに流そうと思っています。王都ではやってしまいますと無駄に高値になりそうですので、無名の酒の方が平民には手が届きやすいでしょうから。」
「んー、なるほど。ジン殿そなたそこまでの知恵を持ちながら、なぜ貴族に使えようとは思わん?ひょっとしたら王家に新貴族として登用されることもありうるというのに。」
おぉ?これは褒められているのか?と少し鼻の穴が広がるおっさん。
「貴族には興味がありません。その理由は皆さんの方がよくご存じだと思いますが。」
「良くわからんな。」
「では、少し例え話をします。昔どこかの国では大きな亀の甲羅を珍重しておりました。それはそれは大きな社を建てて大事にお祭りをしていたそうです。」
「ほう。」
「ですが、リミット子爵様が仮にその亀であったとしましょう。死してその甲羅を祭られるのと、生きて川の底で生きているのとどちらが幸せでありましょうか?」
「それは当然生きている方であろうな。」
「私も同じ意見です。私も生きて川の中で自由に尻尾を泥の中を引きずった方が幸せなのです。」
「なるほどな。一理ある。だが、貴族の中でも生きることはできるが?」
「そうですね、確かに命があるという意味では生きているかもしれませんが。果たして自分の思い通り生きられるか、といえばどうでしょうか?ある場面では上司からの命令で、あるところでは貴族の体面とやらにがんじがらめになって身動きが取れなくなるのではないでしょうか?私にはそのような息苦しさが性に合わないのです。」
「ファッハッハッ!いや気に入った!ここまで言われたら笑うしかないなアルフレッド殿。」
そう言ってリミットがアルフレッドを見る。
「私も同じ意見です、リミット卿。でも私は一面ではジンさんをうらやましく思っています。」
「ほう、どういうところか?」
おっさんもそこには興味があるのか、アルフレッドを見る。
「今まで私は父や母からの目を気にして生きてきました。両親たちから認められるように必死で努力しました。ですから、領地の経営がうまくいったのも本当のところは領民のため、というのではなく本当は自分のためだったのでは、とジンさんと関わると思えてきたのです。一方、ジンさんは自分のためでは無く領民をそのものを気にかけています。そんなジンさんの姿がうらやましいと思います。」
「なるほどなぁ・・・。」
とリミットは腕を組んで目を閉じていた。ダミアンとゲオルグは内情を嫌というほど知っているためか、鎮痛の面持ちであった。そこで仁は、
「いいじゃないですか。それでもアルフレッド様がいい領主であれば。」
と何くわない顔でから揚げをほおばり、グビグビとビールをあおって言う。
「そもそもですよ。絶対に正しいなんてことありませんよ。それに常に正しい事もないと思いますよ。あまりああだこうだと考えすぎないのも大事ってこともあります。」
そう言って今度は酒の方に手を出そうとする。それを見てリミットが、
「ジン殿の言う通りと私も思う。貴殿には貴殿なりの方法で子爵当主として生きていけばよい!」
「「「はぁ?」」」
ダミアンとゲオルグと仁の声が重なる。仁は酒を握りしめたまま固まっている。
これより、リミットの盛大な暴露大会が始まり、こうして疎漏なきはずの計画がここだけでは大々的に漏れまくることになるであった。




