王都にて
半年が過ぎ、兵士たちの宿舎や農具など受け入れの準備ができた。村民が開拓も手伝いはしたが、まだ十分な広さではなかったので残りは屯田兵で行うことになった。
ダミアンからの早馬が到着し、兵士が予定通りセレナ村に向かっているという連絡と、合わせて仁に印章を持ってきていたのだ。
使者の説明では、この事業の責任者を示す子爵家の印章だという。必要とあれば村長に命令ができるということらしい。
まぁこの程度ならいいか、と仁は簡単に受け取ってしまった。
使者はそのままカーセルに戻り直ちにアルフレッドに仁が印章を受け取った事を報告した。アルフレッドとダミアンがこれを聞いて大いに喜んだ、ということを仁は知らない。
セレナ村に到着した屯田兵の志気は高く、みるみる開墾が進む。そして、いよいよコメを植える。仁はあらかじ籾から苗をつくり、兵士たちが作業をし易いように行程表表まで作っていた。
それが兵士たちにとっては進捗状況の把握がしやすく、作業が進む大きな要因にもなった。
午前中は農作業を行い、午後からは兵士たちは練兵をする。たまに仁が混じり兵士たちと訓練を行い護身術の練度も上がっていく。この制度が成功しているという実感が仁にはあった。
二回ほど屯田兵の交代があり、いよいよ収穫のとき。初回にしてコメの出来は良かった。黄金色の一面は見事に刈り取られていく。仁一人が収穫していた量の約10倍が収穫できたのだ。
これを原材料にして、次は酒造りへと進む。コメを砥いでいくとコメはどんどん小さくなる。6割ぐらいの大きさになるとコメを蒸す。あらかじめ用意しておいた大きな樽に、蒸したコメ、麹、水などを入れる。そして発酵させる。
時間が経ち、新たな屯田兵が到着し、新旧の兵士たちが入れ替わったちょうどそのころ酒が出来上がった。村長とバイド、そして仁が新酒の味見をする。
「なかなかいい味じゃの。十分商品として販売できそうだ。」
村長のお墨付きが得られた。仁はできた日本酒を壷に分けて300個ほどをカーセルに送った。仁の手紙とともに。
一週間後、カーセルにいるアルフレッドのもとに新酒が届いた。待ちかねていたダミアンは、届いた新酒の1壺を館にもっていきアルフレッドに試飲をしてもらう。荷物が届いたという知らせを聞いたゲオルグもしばらくして館に到着し、ゲオルグもその試飲の中に入る。
「おぉ、うめぇな。これなら十分勝負ができる。」
「そうだねこれなら十分貴族にも商売として成り立つ商品だと私も思う。ところでダミアン、ジンさんからの手紙にはなんと?」
「はい、それが・・・。ただ一言。子爵ご当主の出番と心得ます、とだけ書いてあります。」
しばらくうつむきながら考えるアルフレッド、そして
「なるほど、そういうことか!」
と閃いたようだ。ジンさんの手にかかれば父上も宣伝のための道化師になってしまわれるのだな、と半ば憐れみと悲しみにの入り混じる複雑な感情になる。
アルフレッドは屯田に参加した兵たちにも自分たちの労働で出来上がった酒を飲んでもらいたいと思い。届いたものの中から50壺をゲオルグに持たせ兵士たちにふるまった。
そして、すべての酒ではなく手持ちの中から50壺だけを父へと送付する。誰かに倣って手紙とともに・・・。
十日ほど後に王都シュミット子爵邸に荷物が届いた。当主付き執事ロイが恭しくアルフレッドの手紙を子爵に渡す。
「ノルド様、アルフレッド様からお手紙と荷物が届きました。ご見分くだい。」
「ふん、あいつからの手紙とな、どれ。」
奪うように手紙を取り、ぞんざいに開いて驚くノルド。中にはこう書いてあった。
〝ご当地にて珍しい酒を手に入れました。聞くところによりますれば、王国では手に入らない物のようでございます。王都での父上のご活躍に一役買うものと考え、可能な限り手に入れたる次第。ご賞味あって父上のお役にかなうものでございましたなら幸いにございます〟
さっそくロイに一壺持ってこさせ、香りをかぐと芳醇とした甘い香りが漂う。王都でしか手に入らないような果物を感じさせるそれは、一口飲めばすっきりとしていながらも濃厚な味わいがある。確かに王都での舞踏会やパーティーでは出てきたことがないものであった。
「ほう、これはうまい。よし、これを次の伯爵邸での晩さん会に持参しよう。」
さすがは社交界の虫、こうなればあちこちの晩さん会やら舞踏会に持参していきペラペラと尾ひれを付けて話を盛ってこの酒を紹介する。その珍しい味わいも相まって社交界ではシュミットの酒というように言われるようになる。
それを聞きつけた上位貴族からは酒を手に入れたいという申し出が後を絶たず。アルフレッドから届いた50壺などあっという間になくなってしまったのだった。
ノルドの性格上、上級貴族にいい顔をしたい。すぐにアルフレッドに追加の酒を用意するようにと早馬を出すのであった。
7日ほどで早馬が到着する。アルフレッドが父親からの手紙を受け取ってニヤリと笑った。




