新田開発と屯田兵
仁は素直に毎日練兵に参加している。兵士たちも仁の動きを見て一目置いていたので比較的早く仲良くなった。仁は兵士に基本的な護身術を教え、兵士たちはその習得に汗をかいた。
仁が護身術を教える理由は、仁の考えた産業が当たり街が盛況になったとき同時に問題が出てくるのが治安の問題である。その際に街の治安を預かるのが彼らである。そのときに役に立つであろうという思惑があった。
そして護身術の訓練実施は当然の事ながらゲオルグにも了承してもらっている。
日数はあっという間にたち、いよいよセレナ村へ帰還する日の前夜。宿にダミアンがやってきて領主邸での食事に誘われた。仁は身支度を整え、領主邸へ赴いたのだった。
仁は案内された部屋に入り椅子に座る。そこには、アルフレッド、ダミアン、ゲオルグがいる。
ここで四人と食事をするのは初めてだ。というのもダミアンのような執事が主人と一緒に食事をするなど貴族の作法ではない。だが仁がダミアンもいっしょに食事をすることを提案すると、アルフレッドもダミアンとは小さいころからの友人で貴族の作法など気にすることもないとその提案に同意する。
こうして彼らの食事が始まった。決して豪華ではないが、それでも十分に味わいのある食事であった。
食事も終盤になって、仁はアルフレッドにある提案をする。それは、王都の主要な人物にセレナ村で作った酒を進物として渡すというものである。そうすればシュミット領でしか手に入らないという貴重性も合わさりきっと評判になると、仁は言う。
しかし、酒を生産するにしても大きな問題があるそれは、コメと酒の生産体制である。農耕地を広げることは可能であるが、問題はその労働力の確保である。現状ではセレナ村の人員ではいくばくかの増産は可能でも、大量には不可能であった。
頭を悩ますアルフレッド、
「他の村や町から移住者を募集してみますか?」
と、ダミアンが提案する。
「もちろん、それも考えるんだが、問題もある。」
「といいますと?」
そこで仁が補足説明をする。
「いきなり何の実績もない場所で、しかも自分らが知らない作物を育てろと言われても、農家は嫌がるでしょうね。」
「ジンさんの言う通りなんだ。おそらく希望を募ってもほとんどの民は集まらないだろうね。」
「では、どうしましょうか・・・。」
そこで仁が、
「あるにはあるんですけどねぇ・・・。カーセルの町とゲオルグさんに少し負担がかかるのですがそれを了承できるのであれば、ですが。」
「ほう、その方法とは?」
ゲオルグが身を乗り出す。
「屯田兵というものです。」
「屯田兵?聞いたことが無いな。」
仁は屯田兵についての概略を説明する。現在、子爵領内の兵士数はおよそ100人。これを20人ずつ五隊に分ける。一年を五分割し、順次一隊ずつセレナ村に派遣する。兵士は農作業をしながら練兵も行うという計画である。
「この方法である程度実績を積めば、新しく領内で移住を試みる農民も出てくるかもしれません。併せて新たな仕事も生まれるかもしれませんから、他の土地からの移住者も来る可能性もあります。まぁそこはいくつかの問題がありますので要相談ですが。」
アルフレッドはゲオルグの顔を見る、頷くゲオルグ。
様々な調整もあるので半年後の実施を目標として計画を立てることになった。
仁が宿に帰ったその後の子爵邸では、いつもの三人がコソコソとさも何か悪だくみをするような雰囲気で話し合っている。
「それにしても、あのようなアイデアがすぐに思いつくものでしょうか?」
「だなー、ポンポンとよくまぁ次から次へと。坊ちゃん、あれをそのままセレナ村に置いておくのはもったいないんじゃねーですか?」
「ゴホン、ゲオルグ!坊ちゃんではありません!若様です。」
「おぉすまん。」
「で、若様はどうお考えです?」
「確かに、ジンさんの知略はすごいと思います。私も彼が傍で居てくれてたらいろんな面で助かると思うのですが、向こうでの暮らしをある意味捨てて、こちらで生活してくれるかどうか。なにせ、今で甘んじて隠者の様な生活をしていたのですから・・・。」
するとダミアンが、
「でしたら、この産業を考えた張本人ですからこの仕事を任せる新しい役職を作って彼を任命するというのでいかがでしょう?アルフレッド様のお手元にすぐ置くのではなく、少し間をおいて後に可能であれば、ということで。それにまだ我々はジンさんのすべてを理解できていません。その間に彼の理解を深めるというのでいかがでしょう?」
「なるほど、では新しい役職を作ることとして、その管理者としてはダミアン、君に任せるとしよう。それでいいね。」
「承知しました、アルフレッド様」
こうして、カーセルの街の夜はふける。
翌朝、アルフレッド、ダミアン、ゲオルグのお偉いさま三人が仁を見送る。仁は帰る際村長への正式な命令書と金貨300枚、それとありったけどくず鉄を馬車に載せ、セレナ村に帰っていった。
四日後、セレナ村につき自分の家に戻る仁。夕方バイドが家に帰ってきて夕食をともにしながらカーセルでの出来事を話す。仁とバイドは久々に二人で呑み明かしたのであった。
翌日、仁は村長のところへ行き。アルフレッドからの命令書と金貨300枚を渡した。農地の拡張と酒造の施設建設には村長は前向きであった。本心はあの酒を飲めるようになるのがうれしかった、というのは秘密の話である。
こうして村は開墾と建設に取り掛かる。半年後に兵士の受け入れ準備を始めたのだ。




