新しい特産品
パッーんと手を打って、こちらを見つめる若い二人をハッとさせる。もうこうなればおっさんのペースである。
「そこで、紹介しますのはこの壺。壺といってもただの壺ではございません。大事のは人と同じく中身でございます!」
そう言って暗に自分の見た目なんか関係ないやいとイケメンに当てつける心の小さなおっさん。壺の蓋を開け、取り出した器に入れ二人に勧める。
「これは以前に村でいただいたお酒ですね。」
ダミアンは答える。
「さようでございますダミアン様。ささ、アルフレッド様もどうぞご試飲ください。」
そう言われてアルフレッドは酒を口に含む。自分が知っている酒とは違う芳醇な香りと甘さ。しかもすっきりとしていている。
「実はこの酒、ある穀物から作るのですがその製法は私しか知りません。ですから仮に同じ穀物があったとしても作るには至難の業。私もここまでにするのに10年の歳月を費やしました。さらに付け加えますと・・・・。」
ごくりと唾を飲み込む貴族グループの二人、
「これがその穀物の実物になりますが。」
と、仁は籾の入った袋から籾を手ですくって見せる。
「この穀物は現在セレナ村でしか栽培しておりません。よって他領では生産が全くできない代物です。」
貴族グループの顔がぱぁーっと明るくなる。そしてさらにトドメの一発をお見舞いするおっさん。
「しかも、酒はし好品ですので主な販売先はまずは貴族様、金持ちとでしょう。この味ならじゅぶん勝負できる品質だと思います。しかも他にはない貴重性、いかがです?」
仁のプレゼンが終わり、アルフレッドとダミアンは見つめあっている。ねぇどう思います?と言わんばかりのダミアンの顔。フンっとこれ見よがしの顔をする仁。アルフレッドはもう笑うしかない。
アルフレッドはメイドを呼び、お茶とお菓子を持って来させる。仁にお茶を提供するとアルフレッドとダミアンは一緒に部屋から退出する。二人は別室で仁の印象を語り合った。
「驚いた。ダミアン経由で叱責を受けたときにはさすがに腹も立ったが、実際に会ってみると私らなんか足元にも及ばないほど考えている。」
「私もここまで考えていらっしゃるとは思いもよりませんでした。賢を賢として挙げる、今こそ若様がなさるべきだと私は思います。」
「だが、ジンという男つかみどころがないというか、好き嫌いがはっきりしている人物なら気が向く方に誘導もできようがそれができそうにもない。どうしたものやら。」
「まずはこの1週間ほどの時間で、ジンさんの人となりを確かめることにいたしましょう。急ぐとあの性格ですからもう二度と会ってくれないと言われかねませんし。」
「そうだね。」
そんな話をしているとは知らず、仁はメイドから注がれるお茶を飲んでのどを潤すのあった。
二人が部屋に戻って、このコメと酒をどう生産するか子爵家でも考えたいということでアルフレッドは一人で部屋を出た。ダミアンは仁のお付きということで、カーセルの案内役をすることになった。
ダミアンと仁は領主邸を辞し、街をぶらつくことにした。道中ダミアンから子爵領内の内情を聞く。人口はおよそ5万人程度。そのうち領都には3万程度が住んでいる。あとの2万はここから馬車で1週間以内の各所に町や村があるという。
財政上はひっ迫するほどではないが、子爵当主が社交界でいろいろと顔を出すためそちらの出費がかさむらしい。
ただ、アルフレッドがあまり豪奢な生活が好きではないので、自領内での支出はさほど高くはないそうだ。農作物自体は比較的安定的にとれる地域であることが幸いし民は今のところ普通に暮らせている。だがアルフレッドが領地経営する前はそこそこ悲惨な状態の村や街もあったようで、成人して3年でここまで改善させたアルフレッドの手腕たるやなかなかのものらしい。
王家もそのことは把握しているようなのだが、父親と正妻との確執もありアルフレッド自身は王都よりも自領に留まっている方がよっぽど幸せなのだという。
いつの時代もこういう親がいるんだなぁと、つくづく思う仁であった。前世でもそりゃひどい親がいた。家庭訪問をしても追い出されるなてまだまし、逆ギレされて職場まで乗り込んでくる親までいた。そんなことを考えていたらアルフレッドの人格が良い意味で形成されたのが幸せなことだと仁はしみじみ感じていた。




