はじめての魔法
転生して白猫と出会って目を白黒させている仁。
「どうして私は転生なんて目にあったんでしょう?何も悪いことしてなかったはずですけど?」
仁は声を出し、白猫に聞いてみる。白猫は、
「それは貴方が死んじゃったんですよ、向こうの世界で。でね、それは本来起こらないはずだったんですけど、神様がねぇ・・・」
神様などという存在を信じていなかった仁にとっては、想定外の言葉を聞いてしまったのだ。
「神様ってなんなんです? で、その神様がどうしたんです?」
白猫はちょっと申し訳なさそうな顔をして仁を見ている。
「あまり詳しくは話せないのですけど、神様の手違いってやつです。内情は置いておいて、とりあえず貴方を異世界へと転生することで帳尻を合わせた格好になります。」
「はぁ・・・。」
「事情が事情なので、転生前の記憶や経験はそのまま、ちなみに見た目をいじったり年齢をいじることはさすがにできませんが神様がスキルを付与されました!」
「スキルとは?」
「はい、先ほど鑑定と念じるとその物の特性などが閲覧できたと思います。これは鑑定スキルというものです。訓練すれば鑑定できるものの種類や範囲が広がります。今のところ植物や動物、有毒か無毒かの別などですね。スキルの練度が上がれば、人に対しても使用でき結果相手が害意があるかどうかも識別できるようになります。コレこの世界では誰も持っていない超レアスキルですので!」
と自信たっぷりに白猫はしゃべる。さらに、
「あと、この世界は科学的な世界観ではなく魔法の世界です。魔法は適性がある者しか使用できません。そこで転生者という事情もありこの魔法適正は高めに付与されています。目を閉じて体内にめぐるエネルギーを感じてみてください。」
仁は目を閉じて意識を自分の中で高めてみた。すると血液の循環を感じるように全身に流れるモノを感じた。
「この流れが魔法のエネルギーですか?」
「はい、そうです。さらに火をイメージしてもらえますか?」
仁は言われた通り、掌にライターの火のようなものをイメージした。すると、掌から火がポッと出てきたのだ。同時に体内に流れていたモノが掌に集中していくのが分かる。そして、火のイメージをどんどん大きくしていくと掌の火もどんどん大きくなっていった。熱くなってきたので、火を止めるようにイメージすると掌の炎はシュッとなくなるのであった。
白猫は、
「基本的にはイメージができれば魔法という形で実現できます。転生者は科学的な世界の住人ですのでそのイメージをしやすいでしょうが、この世界の住人はそもそも魔法の世界でしか生活できていないので、科学的な背景には素養というか実感がないのです。なので、魔法が使えてもイメージができないものには使えないことが多いです。しかも概ね魔法で生活できてしまうので、科学的な事をそれほど必要としていないという面も大きいです。科学的な面が発達していないわけではないのですけど、どちらかというと経験や直感を大事にする傾向が強い世界ですね。」
仁は少し考えて、腰にあるナイフで自分の腕を少し切った。そして細胞が増殖するイメージを膨らませて掌に意識を集中し、傷口に掌を近づけた。すると腕の傷がみるみるとふさがっていく。
「おや、習得が早いですね、この世界では回復魔法といわれるものです。治療に使われていますが使える人は少ないですよ、貴重なスキルです。」
「でも、基本的にはイメージで可能なんだから魔法という意味では同じでしょう?」
「そうなんですけど、この世界では別と認識されています。科学的視点では物事見ていないので、別の能力と認識されていますね~。」
「そうなんだ・・・。じゃぁ俺の存在ってまぁまぁやばいなぁ・・・。」
「その通りです! ですからすぐには世間に出ないほうがいいでしょうね、ややこしいことになりますよ!」
「なんでそんな世界に転生させたんでしょうかね、神様は・・・。世界のバランスを崩す可能性のほうが大きいでしょうに・・・。」
「そこ!、そこなんです!!実はこの転生にはもう一つ目的がありまして、この世界をより良いものにできるように導いてほしいという神様の意志もあります。まぁそこは無理をしないでもいいですよ、あくまでも可能な範囲で結構です。それに関連して、貴方にはそういった意味でも長くこの世界にいていただく必要がありますので、年齢をとりにくい体になっていまして、寿命という概念がなくなっています!」
「・・・、なんですと! えっだって嫌ですよずっと生き続けるのだなんて、絶対に嫌です!人間なんて寿命があるから生きていけるんじゃないですか!神様はアホですか?」
仁は白猫に猛烈に抗議している。白猫は申し訳なさそうに、
「そういうと思っていました。けどね~これもう決定事項で変更できないんですよね。ただ死ねないわけではないんです。ある条件がありましてその条件がそろうと死ぬこと、というか本来のあるべき死に向かうことができます。なんだか理不尽ですよね、普通死なないようにするのに死ぬために条件そろうって、ハッハ。」
白猫が乾いた笑いをしながら明後日の方を向いている。
仁は目をつっむってこの理不尽にこめかみの血管が張り裂けそうになりワナワナと震えている。
「ということは、私の目的はその条件を探し出し、寿命を勝ち取ることということになりますね。」
「おぉ、さすが理解が早い。そう意識を変えてもらえると私も助かります。賢い人で助かります。」
「ほめてもだめです。なんならその条件をここで吐いてもらってもいいんですけど・・・。」
と仁は右手に意識を集中して、先ほどよりも大きい炎を出して白猫にぶつけるようなしぐさをした。
白猫は、ピョッと後ろに飛び跳ねて間合いをとって、
「いいですよ、打ってごらんなさい。魔法を使うとどうなるかも試してみるのもいいでしょう。」
脅しが効かないであろうことは予想はしていたが、打ってこいとは想像してなかった仁は、少し驚いたが打ってみてもいいというので試してみた。
右手の炎は意識の通り白猫の方にかなりのスピードで飛んで行って、白猫に当たったかと思うと爆発したのだ。仁は爆発の風と熱を反射的に腕で遮った。数秒後目を開けるとジリジリという音と白猫がキリっとした目で仁を見つめてたたずんでいる。
「さすが、イメージがしっかりしていますので最初に使った割にはちゃんとした攻撃になっていますね。このまま使って行けばこの世界では一、二を争うほどの使い手になりそうです。」
仁は自分の使った魔法の威力にも驚いたが、むしろ白猫が何もなかったのようにいることにびっくりしていた。
「けがはないですか?いや、これほどまでとは思ってなかったので正直びっくりしてます。すみませんでした。」
「あぁ気にしないでください、この程度であれば全く大したことないです。あぁそうそう、魔法はエネルギーがあれば使えますけど、エネルギーがなくなると使えなくなります。それを見るには自分自身に鑑定スキルを使ってください。あと成長すれば魔法エネルギーは増大していきます。これも神様が最初にしては多めに設定してくれています。」
「はぁ・・。」
というわけで、自分自身に鑑定スキルを使ってみると、
名前:前崎 仁
HP:500/500
MP:980/1000
スキル:魔法特性(強)
鑑定(初期)
神の加護(寿命なし)
「なんかまるでゲームみたいな表示ですね・・・。」
クックと白猫が笑いながら、
「まぁ見やすいような仕様にしましたから。ちなみに生前いた世界のゲームとは根本的に違うのはレベルなどというのは存在しません。ですので経験値という数値化されたものはありません。経験は本来連続的なものですので成長は突然にやってきます。本来は成長を直接的に認識することは普通できませんが、鑑定スキルがあれば確認できます。そういう意味でも貴重なスキルだと思います。」
「あと、この世界に慣れるまでは私が一緒にいますので安心してくださいね。」
と白猫が胸をはってる。その姿を仁はトホホと眺めているのであった。