発覚
翌日、仁はいつものように朝早くに起き畑仕事に出かけていた。
昼頃にはバイドも猟小屋からセレナ村に帰って来ていた。バイドが家に着くとそこには見知らぬ男らが馬上にいる。その男らは貴族らしい服装でバイドを見つめている。
その中の一番偉そうな男がツカツカと騎乗したままバイドに近づいて来た。
「そなたがバイドとか申す猟師か?」
「あぁそうだが、お前は誰だ?」
「無礼者!私はシュミット子爵家ご当主様の使いである、控えい!」
と、馬の鞭でバイドの顔を打つ。右頬を鞭打たれたバイドの顔が左の方へ向く。相手は貴族の関係者で平民は反抗ができない。バイドは顔をうつむかせ、
「も、申し訳ありません。なんの御用でしょう。」
「うむ、そなたがバーサーカス狩ったというのは誠か?」
ここで仁の名前を出すとややこしいことが起きそうだと瞬時に判断するバイドは、
「はい、私が狩りました。」
「左様か、栄誉ある貴族のシュミット家がありがたくもそなたの狩ったバーサーカスの献上を受けてくださるそうである。さっそく持って参れ、早くだぞ!」
要はただでバーサーカスを差し出せという事である。
「申し訳ありませんが、バーサーカスはここにはございませんです。」
「何をいう。お前が持っておることは既に承知しておる。隠しておくと為にならんぞ!」
「隠してなどはおりません、本当にここにはございませんです。」
「えぇ~い、まだ言うか!それ!!」
と、他の男たちに目くばせをして合図を出す。すると三人ほどの男たちがバイドを囲み殴る蹴るの暴行を加え始めた。馬上の男はそれをただ見ている。
この騒動はたちまちこの小さな村に広がり、村長は急いで宿に行きダミアンに知らせた。ダミアンも急いで身支度をして馬車に乗り込みバイドの家へ向かう。
ちょうどその頃、仁が畑から帰っていると向こうから慌ててアレンが走ってくる。アレンは仁に助けを求めに来たのだ。仁は農作業の道具を放り出し、猛烈な勢いでバイドの家に向かって走り出すのであった。
バイドの家の前では、バイドがうずくまって顔には血を流していた。男どもはいけ好かない顔でバイドを見下している。馬上の男が、
「これで差し出す気になったであろう。早うせい!」
と、何食わぬ顔で話す。
そんな時、子爵家の紋章のある馬車が到着しダミアンが慌ててバイドの元に駆け寄る。そして、倒れこんだバイドを支え馬上の男に言う。
「これは、ロイ様。このような場所に何の御用でございましょうか?」
「おぉ、確かそちはアルフレッド様の執事であったか。そちこそ、ここで何をしておる?」
ロイは当主の執事、立場としてはダミアンよりも上である。いきなりこの暴挙を非難することができない。そこで、
「ご当主様から依頼されたバーサーカスの仕入れでございます。」
「おおぅ、左様か。実はな私もそうなのじゃ。ご当主様がアルフレッド様に催促していたのがいまだに返事がないのでしびれを切らされてのぅ。それで早馬で私がこんな辺鄙なところまできたというわけじゃ。」
そんな会話をしている最中に仁も到着し、ダミアンとともにバイドを支える。
「なんじゃまた来たのか。で、バーサーカスはどこじゃ?」
ダミアンが機転を利かせ、
「数日前にわたくしの方でアルフレッド様の方にお送りいたしました。品物はアルフレッド様が検分されたのちご当主様の元にお送りされると思いますので、今しばらくお待ちください。」
ダミアンはそっと仁の方を見て、話を合わせてくれと小さな声で伝える。仁はわずかに顔を縦に振る。そして、バイドを支えこの場所からバイドを連れ出すのであった。
ダミアンはあの手この手でロイを王都の方へ帰るように説得し、小さな袋に入っている金貨をそっとロイに握らせるのである。
「おほん、さすがはアルフレッド様の執事よのぅ。よく分かっておる。まぁ要件が済めばこんな辺鄙な場所にいる必要もないの。長居をしても面白そうなものもないようだ、では、早々に帰るとするかの。」
そう言って男たちは馬を走らせ村から出ていくのであった。
仁はバイドを自分の家に連れて帰り、鑑定でバイドを診察する。どうも外傷の他にあばらの骨も何本か折れていた。苦しむバイドを落ち着かせ、回復魔法を使うべく意識を集中する仁。仁の体が乳白色に輝きバイドを治療している。
だがこのときの仁は迂闊であった。大事な親友のバイドが苦しむ姿を落ち着いては見ていられなかったのだ。そして、意識を治療に集中しすぎたため、後ろに人がいることを察知できなかったのである。
一間ほどでバイドの傷が癒え、バイドの意識が回復した。バイドが目を開けると目の前には仁、そしてその後ろには治療の姿を冷静に見ているダミアンの姿があったのだ。
「おっおい、大丈夫なのか?」
「あぁちゃんと治療できていると思うが、どこかまだ痛いのか?」
「いや、そうじゃぁねぇ。後ろだ後ろ!」
そう言われハッと我に返り後ろを振り返る仁。するとそこにはダミアンが立っていたのだ。
「ダミアン様いつから見ていました?」
「最初から、といってもいいと思いますよ、ジンさん。」
仁はあぁ~あ、という顔でへたり込むのであった。




