愛娘の病
バイドの家の中には大きめのテーブルとそこにはいくつかの食べ物が置いてある。仁たちが帰るのを待っていて準備していてくれたようだ。
仁は若い二人に自己紹介した。そしてバイドは娘夫婦を仁に紹介する。娘の方はセリーナ、旦那の方がアレンという名前らしい。
仁がセリーナを見たとき、ややか細く頬がこけているのを見逃しはしなかった。だが、さすがに初対面しょっぱなからそれを相手に問うほど馬鹿ではない。これでも自称、常識をわきまえた中年男性である。
「あら、お父さんから聞いていた話だともっとすごい体の男性かと思っていましたけど。ちょっと印象が違いました。なんというか頼りない雰囲気というか・・・。」
と、笑ってセリーナが仁に話しかける。
「それは期待を裏切っちゃったみたいで、こんななりですよ。バイドには随分と世話になって感謝してます。けど、こんな綺麗な娘さんがいるようにはちっとも思いませんでしたよ。」
そう笑顔で答えると、セリーナは笑いながら、
「失礼なこと言っちゃってごめんなさい。あまりにお父さんがジンさんを褒めるものなので、つい。」
「おいおい、余計なことを言うんじゃないよ。それより腹がへったぜ、早く食おうぜ!。おい、仁。例のビールもういいだろ飲ませろよ!」
和気あいあいとした家族の姿がそこにはあった。仁も久しぶり家族の温かさを実感できる時間を過ごしたのであった。
アレンはこの町で鍛冶屋をしていて腕はいいようだ。バイドの道具はこのアレンが作っているらしい。仁は、どうりでバイドの道具の手入れがしっかりしているはずだと納得したのだった。
そして、意外な事にこのアレンがバルド以上にビールを気に入り、持ってきたビールをがぶがぶと飲んでいった。仁は、そんなに飲むと二日酔いになるぞ、そう心の中で思いながらも、二日酔いの経験も大事だとおっさんは一人納得していたのだった。
ワイワイとした時間があっという間に過ぎ、就寝する時間になった。若夫婦は二階にあがり、俺たちは部屋の隅にある簡易の寝床に寝ることになった。横になっているとバイドが、
「なぁジン、お前には感謝してる。お前のおかげで娘の調子もマシになっている。」
「セリーナは病気なのか?」
「あぁ、だがよくわからないんだ。薬を買うのにも金がかかる。だから俺はあの森に狩りに行っていたんだが。お前のおかげで薬を買う金ができた。ありがとうよ。」
「そうか・・・いい子だよな、セリーナは。アレンもいい男だ。きっと幸せになってくれるだろうよ。あとはバイドが本当のじーさんになるのを待つだけだな。」
「うっせい、そこまでまだ俺はもうろくしちゃいねーよ。」
バイドが照れて背中を向けて寝始めた。そして仁も自然とその意識を手放したのだった。
翌朝、アレンは仁が持ってきた荷物を見て目をパチクリさせている。バーサーカスが二体も転がっているではないか。アレンが仁の胸倉をつかんで仁を問い詰めている。それを見てバイドがほらなって呆れているのだった。
「なぁこれが普通の反応なんだよ、ジン。お前があ普通じゃねーんだ。わかったか?」
ここでも自分の非常識が明らかになってしまった・・・。そんな会話を微笑んで見ているセリーナ。仁はこっそりセリーナを鑑定する。
「・・・」
「おら、娘をいやらしい目でみるんじゃねーよ、ほら行商人のところへ行くぜ!」
そう言われ、バイドに強引に引っ張られて一路村の行商人がいる宿に二人は向かうのだった。
宿で待ち構えた行商人もアレンと同じように目を真っ白にして驚いていた。貴重なバーサーカスがそこにいる。しかも二体も。
以前に比べ仁の狩りもうまくなっていた。皮の処理に無駄がないように皮の傷が少ないように狩っていて、その状態は極め良好であったのだ。
行商人は手持ちの金貨をすべて出して喜んで二体を買っていった。二体で金貨100枚。二人家族が一年生活するのに十分な金である。
バイドは半分を仁に渡し仁もその金を素直に受けとった。
この後、行商人にあれやこれやといろいろ聞かれる羽目になったが、のらりくらりとはぐらかす仁。次の納品を依頼されたが、さすがにそれは無理だと断った。こんな悪目立ちもう二度とするものかと仁は反省するのであった。
バイドは村を案内すると言って村はずれの丘に仁を案内する。
そこは村とその周りの田園を一望できる。すがすがしい風が二人を通り抜ける。そんな素晴らしいこの風景の中にいるにも関わらず仁は十分に堪能できる気分ではなかった。その様子にバイドが不思議がる。
「なんかあったのか?」
「・・・」
仁は悩んでいた。バイドの愛娘を鑑定した内容を伝えるか、否かを。
「おいおい、どうしちまったんだ。なんでも言ってくれよ。もうそろそろ信用してくれてもいいだろうよ。俺はおめーが何者だろうと、別に気にしちゃいねーよ。俺の直感がジンが悪党ではないって、そういってるんだよ。だからさ、何があった。」
バイドの言葉が仁の胸を熱くさせる。初めての異世界人がバイドでよかったと、本当にそう思った。自分の人生の中でも親友と呼べるかもしれない。そんな存在をここで手に入れることができた自分の幸運をかみしめていた。
「そうだな、お前にだけは教えてもいいかもしれない。ただし、今から話すことを一切誰にもしゃべらずにいられる自信があるか。命にかけてそれを誓えるか?」
いつになくまじめな仁に対しバイトも向かい合って睨めつけるように、
「あったぼうよ。今更んなこと聞くんじゃねーや、馬鹿野郎。」
フッと仁に笑みがこぼれる。
仁はバイドに自分が魔法が使えることを言った。バイドはやはりなというそぶりで話を聞く。どうやらバイドは既に勘づいていた。
さらにその能力には対象の特性を見抜く力があり、その能力でセリーナ見てしまったこと。その結果、彼女の病は薬で治らないものである事をバイドに伝えたのだ。
バイドは口を開けたまま仁を見つめる。そして、膝をつき泣き崩れた。それを見て仁はバイドの肩に手をあて同じように慟哭するのであった。




